2012 Fiscal Year Research-status Report
大規模ケーブルロボットにおける懸垂系動力学計算と高精度位置姿勢制御
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23560290
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
山本 元司 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90202390)
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Keywords | ロボット / ケーブルロボット / 位置姿勢制御 / 動力学モデル / 懸垂物位置姿勢推定 / 慣性センサ / ケーブル張力 |
Research Abstract |
従来のケーブル動力学モデルにおいては,ケーブルは柔軟連続体であり,そのモデル化は偏微分方程式を基礎とするか,もしくはケーブルの有限要素モデルを考えることが普通であった.しかし,これらのモデルに基づく計算を大規模ケーブルロボット懸垂物の制御に用いるには計算コストが大きすぎる.申請者はこの動力学計算法としてケーブルを単純な有限要素モデルで表現し,マルチボディダイナミクスとした場合の動力学計算をおこなった.この計算結果は実際のケーブルの挙動とよく一致することを確認している.しかしこのような計算手法はケーブル挙動の実際の時間より大幅に計算時間を要することから,実時間制御にこの動力学計算手法を用いることはできない. そこで,H23年度までにケーブル静力学モデル(カテナリー曲線)と懸垂物の動力学を組み合わせた,ケーブル動力学の簡易計算法を開発し,計算精度も十分であることをシミュレーションおよび実験で確認してきた.H24年度研究では,このケーブル動力学簡易計算手法を利用して懸垂物の高精度位置・姿勢制御を実現する方策を検討した.ひとつの方法として懸垂物の位置・姿勢を測定し,目標とする動作軌道とのずれをフィードバックすることが考えられる.しかし一般に大規模3次元空間内での懸垂物の正確な位置姿勢測定は簡単ではない.この研究では,ケーブル張力とケーブル長さ,およびケーブル引き出し点でのケーブル傾き角から懸垂物位置姿勢と推定する方法と,懸垂物に取り付けた慣性センサ,すなわち加速度センサとジャイロセンサの情報とケーブル長さから懸垂物位置姿勢を推定する方法の2つを提案し,それらの有効性を確かめた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
精密な動作制御のためには懸垂物の状態測定が必要である.これまで懸垂物の位置姿勢測定においては,主に光学式カメラを用い,懸垂物にマーカーを取り付けてその位置を測定していた.このとき,懸垂物動作制御に必要な高速性と十分な測定精度が得られず,また,光学式カメラでは懸垂物が障害物の陰になったとき計測できない問題もあり,特に大規模ケーブルロボットの動作制御用としては適してなかった. そこで,H24年度に提案した,実時間制御に用いるための懸垂物位置姿勢情報取得方法では,直接位置,姿勢を測定するのではなく,懸垂物の運動状態と関連する物理量を計測し,懸垂物位置姿勢を推定する方法を採用した.その一つはケーブル張力とケーブル長さ,およびケーブル引き出し点でのケーブル傾き角から懸垂物の位置姿勢を推定する方法であり,もう一つは懸垂物に取り付けた慣性センサとケーブル長さから懸垂物位置姿勢を推定する手法である.懸垂物が3次元空間を動作するときの実時間位置姿勢推定では,これらの推定手法においても,ケーブルの動力学的な振動と弛みを表現する動力学計算手法が必要であり,H23年度に開発した計算手法を組み込んだ.懸垂物の1軸方向のみの単純な動作軌道計測と,動作終端での姿勢計測であれば,レーザー距離計を用いた高精度計測が可能であることから,これを正しい値として,提案の2つの方法での懸垂物位置姿勢推定結果と比較することとした.この結果,前者の方法では,10m程度の移動範囲内の位置精度で10~30mm程度の誤差があるものの,懸垂物移動中も安定して位置推定できること,また,後者の慣性センサを用いる手法は,懸垂物が移動する初期においては10mm以内程度の位置誤差であるが,計測時間が長くなるにつれ,主に温度ドリフトの影響により,計測推定精度が相当低下することがわかった.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,ケーブル張力とケーブル長さ,およびケーブル引き出し点でのケーブル傾き角測定,およびケーブル揺れとケーブル撓みを表現する動力学モデルから懸垂物位置姿勢と推定する方法を提案し,実験により10~30mm程度の位置精度で懸垂物位置姿勢推定が可能であることがわかった.今後はこの懸垂物位置姿勢推定手法を用いて,懸垂物状態フィードバックをおこない,実際に懸垂物が精度良く位置・姿勢制御可能であるか確認する. 同時に,H24年度の実験から,懸垂物の姿勢制御をケーブル長変化によりおこなうことは,高精度な姿勢制御の点から好ましくないことも判明した.その理由は以下の通りである.懸垂物の位置制御においては,ケーブル長制御精度がほぼそのまま反映されるため,懸垂物位置推定精度が高ければ,ケーブル長制御による懸垂物の位置制御はそれほど難しくないと予想される.しかしながら,懸垂物の姿勢制御においては,懸垂物の懸垂位置により,懸垂物姿勢推定精度が高くても,ケーブル長変化に対する懸垂物姿勢変化が極端に大きくなる場合があり,ケーブル長制御による懸垂物の精度良い姿勢制御は困難となる.このことは,懸垂系が特異姿勢に近づくほど影響が大きいこともわかった. そこで,この問題に対する一つの解決策として,ケーブル長による懸垂物の制御は位置のみとし,懸垂物姿勢は懸垂物に取り付けた別の駆動モータによりおこない,位置制御と姿勢制御を分離する方法が考えられる.現実的なケーブルロボットの高精度位置姿勢制御のためにこの方法の適用を検討し,これまで開発したケーブルロボット動力学計算法と懸垂物位置姿勢推定手法と組みあわせることで,応用性の高い大規模ケーブルロボットを開発する予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H25年度ではこれまで開発した,ケーブルロボット実験装置と懸垂物測定装置を用いて位置姿勢制御実験をおこなう.また,今後の推進方策に示した位置制御と姿勢制御を分離する方法も実験的に検証するため,懸垂系の実験装置を多少改造したうえで位置姿勢制御実験をおこなう.このための消耗品としてモータアンプや電気,機械部品を購入する. H25年度は最終年度となるため,この課題研究の最終報告書を作成する.このために印刷費を計上している.
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Research Products
(9 results)