2012 Fiscal Year Research-status Report
光融合型マイクロ総合分析システム(μーTAS)構成法の研究
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23560299
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
大久保 俊文 東洋大学, 理工学部, 教授 (60349933)
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Keywords | TAS / マイクロ流路 / 光導波路 / FDTD 法 / BPM法 / 前方散乱光 / 側方散乱光 |
Research Abstract |
本研究では、半導体チップサイズの基盤上に微細な流路を設け、極微量な検体を導入しつつ攪拌、反応、検出、分取することで、様々な生体情報が採取可能なセンサチップの開発を目指す。このようなチップは総合分析システム(Total Analysis System: TAS)と呼ばれ、大量の検体処理には向かないが、極微量検体について、複雑で多様な分析をほぼ同時並行的に行える上に、小形チップ集積化のポテンシャルもある。これを人体に直に付設すれば連続的な生理学情報が採取でき、さらに携帯端末を介してネットワーク化することで、病理情報の蓄積、分析、判断などが可能なため、今後の予防医学の推進にも貢献できる。 本研究では分析には主として光を用いるが、流路への検体付着・詰まりも想定されるために、基盤上の透明樹脂薄層中に血球サイズの数倍の断面形状の流路を加工し、加えて光の誘導や発生光の集光のための光の通路を導波路として形成したオール樹脂の構造体をTASの基本モデル(使い捨て可)とした。前期までに最も基本的な構成である導波路を検体流路が直交横断するチップを製作し、水分散のポリスチレン微粒子を疑似検体に、照射したレーザ光の前方および側方(面外)散乱光をCCDカメラで並列採取するとともに、照射光量の増減ごとの散乱光応答を相互比較した。今期はさらに側方散乱光をチップ面内で採取できる構造に改良するとともに、蛍光など極微弱光の検出も視野に入れ、導波路に沿ってチップ外に誘導された散乱光を、光ファイバと、高感度の小形光電子増倍管によって検出可能な実験系として再構築した。単一微粒子をチップ感受部前後で往復させるノウハウとも相俟って、良好な前方・側方散乱光波形を面内で採取できた。実験結果は微粒子近傍の光の伝搬を精密に扱えるシミュレーション手法(FDTD法、ビーム伝搬法)に基づく解析結果と比較し、定性的に一致する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度において、狙いとした粒子(あるいは細胞)からの側方散乱光を、チップ面内に限定して採取するとの目標については、おおむね達成できたと考える。ただし、粒子自体の散乱効率や、散乱光の伝搬路となるL型流路、さらにこれに接続された導波路などの部分の伝搬効率が想いの他良好ではなく、結果的に最終検出器である光電子増倍管のゲインを大きく設定することとなった。これに関連しては、粒子の散乱光以外のパスに沿って検出器に紛れ込む光量がかなりあることも(シミュレーション結果との比較も併せて)判明してきており、加えてより微弱光検出のケースなども想定されるので、今後有害光の抑圧や除去の工夫がシビヤに求められる。 今回、まがりなりにも面内散乱光の採取の漕ぎ着けることができた背景には、一つには(前年度報告とも重複するが)、超小形・長ストローク・高分解能の超音波ステージの導入がある。導入光1ヶ所、散乱光2ヶ所について、それぞれ独立に最低3軸の精密位置決めが必要であるが、超コンパクト・軽量の特長から、TASチップに対して高倍率顕微鏡先端が近接できなくなったり、チップの搭載されたステージ全体が過多重量で歪むなどの事態が回避できた意味は大きい。また、検体の導入についても、従来は、排出孔側のみをアスピレータのみで吸引していた。この結果、流路途中で気泡の発生も頻繁にあり、検体流動や観察状態が安定しなかった。今回、導入側をシリンジによる加圧導入として併用動作したことで、(コロンブスの卵ながら)1粒子の運動(位置)調整も条件によっては可能となり、特定粒子の繰り返しデータ採取も見込めるようになった。 なお、当該年度に設計検討に基づいて試作したチップは、今回成果を得たTASチップの改良版(導波路コアのアスペクト比を大きくした。)であり、最終年度である次年度以降の評価・検討に用いる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度の「延長的な」方向としては、同一のTASチップあるいは改良版のチップを用いて、蛍光微粒子の応答採取(面内蛍光)を計画している。側方散乱光については、散乱光中の照明光(励起光)成分を除去して蛍光成分のみを採取できるフィルター光学系の検討をすでに進めている。蛍光については、その強度は、一般的に照明(励起)光の10-6程度以下とも言われており、フィルター等の通過・遮断特性の単純な改良のみでは採取達成を援護しきれない可能性も大いにある。このため、光源となる青緑レーザ光を、クロック(発振器)を用いて変調(発光)させ、最終蛍光をこの周波数に同期して採取を試みる「ロックイン検出法」の適用を念頭に、オーダエスティメイトと、機器・機材の準備を進めている。 もう一つの方向としては、前年度の報告にも一部記載をしたが、(超)扁平導波路の一部に人工欠陥パターンを形成し、このパターン部で発生する面外散乱光を新たな光源(分布形状・配置がほぼ任意)として、流路に近接配置し、通過粒子(細胞)を照光してその光応答を採取する計画である。昨年度の予備実験では、光源光導入用の光ファイバを導波路コアに位置決めして光を導入し、欠陥形成部を発光できることを確認している。当該年度には、この発光部を樹脂粒子が、コアとねじれの位置にある流路に沿って通過(上空横断)した際の「シミュレーション応答」も得ており、今後実験を進めて予測結果との対比を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度の成果を達成するに当たり、貢献少なくない超音波アクチュエータステージであるが、現行品はそもそも機構の剛性が低いこと、発生推力が小さいことなどの難点もある。特にz軸方向(鉛直方向)については、搭載物の重力に対して推力のマージンが小さく、円滑な上下方向の移動や位置決めが困難な事態にも多く直面した。このため、次年度は、多検出光採取や、外乱光混入の影響の小さい小径コアのシングルモード光ファイバの適用などを視野に入れ、位置決め精度、安定(再現)性、搭載負荷マージンなどの良好な新規超音波アクチュエータ(外形はほぼ同じ、ストロークは半分、推力は1桁程度大)の導入を最優先で検討したい。これにより、次年度の研究費においては、機器備品の占める割合がやや大きくなるが、3年間の助成期間を通してみれば、その割合は30%程度となる見込みである。
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