2011 Fiscal Year Research-status Report
対向ターゲット式交互堆積反応性スパッタ法で硫化水素を用いた銅インジウム薄膜の作製
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23560361
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
坪井 望 新潟大学, 自然科学系, 教授 (70217371)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 薄膜太陽電池 / カルコパイライト / スパッタ法 / 銅インジウム硫化物 |
Research Abstract |
Ar希釈CS2反応性ガス供給システム、CuとInの2組の対向ターゲット対及び基板回転機構を有する既存のCuInS2薄膜作製用の自作スパッタ装置に,Ar希釈H2S反応性ガスも供給可能なガス供給配管システム工事を行った。また、排気ガスでの未反応H2Sガス含有の可能性を考慮し、排気ガスを窒素ガス希釈後にH2S除外筒を通過させて局所排気装置ドラフトチャンバー内へ導くガス排気配管システム工事を行った。さらに、H2Sガス検知警報装置システム据付工事も行った。これら工事は部分的に自作した。ポンプオイル中混濁ガスの影響などの予期せぬ不具合に対して配管システム改善等を施すことで、最終的ガス漏れ防止テストで支障がないことが確認された。この改造装置を用いて、CS2反応性ガスを用いた薄膜作製条件データを参考にし、Ar希釈H2Sガス供給下で初期的な薄膜作製実験を試みた。現段階ではまだ十分な評価データが蓄積できていないが、X線回折でCuInS2のピークが観測されたことから、H2S供給下でのCuとInの交互堆積による反応性スパッタ法を用いてCuInS2薄膜作製に成功したと判断される。一方、CS2反応性ガスを用いたCuInS2薄膜作製及び評価では、深さ方向の組成均一性が良好であること、Mo薄膜上で配向性及び結晶性が向上すること、CuInGaSe2系のようなNa効果は明確に観られなかったことなどが明らかとなり、今後のH2Sガス利用の際の興味深い基礎データが蓄積された。また、多元同時蒸着法によるGaP及びGaAs基板上の高品質エピタキシャル薄膜評価で明らかとなった格子歪み緩和過程と金属原子周期配列の関係も有用な基礎データと位置付けられる。直流マグネトロンスパッタ法によるAl添加ZnO透明薄膜の作製条件最適化でn形導電性向上(10-2Ωcm程度)を前倒しで達成できたことは、今後のデバイス作製につながる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、これまでのCS2ガス供給下でCu及びInを交互堆積する対向ターゲット式反応性スパッタ法によるCuInS2薄膜作製の実験データを基礎として、CS2ガスの代わりにH2Sガスを用いて同様な方法によるCuInS2薄膜作製を試み、その高品質化のための作製条件を明らかにすると共に,薄膜太陽電池セル作製を試みることである。そのため、初年度の平成23年度においては、(1)既存のCS2ガス供給下でのCuInS2薄膜作製用のスパッタ装置を改造して、H2S供給可能な交互堆積反応性スパッタ装置の構築を行い、(2)その装置を用いて、薄膜作製を試みることとなっていた。また、比較参考データ取得のため,(3)CS2ガスを用いた反応性スパッタ法による薄膜および単元素原料を用いた三元同時蒸着法によるエピタキシャル薄膜の作製及び評価を行うこととなっていた。目的(1)は達成完了である。目的(2)については、目的(1)の装置改造において部分的箇所の自作に予想以上に手間取ったこともあり、まだ初期的データが得られ始めた段階であるものの、既にCuInS2薄膜が作製可能であることが初めて明らかになった事実は、今後の研究進展の展望が開けたことから十分に評価できる。目的(3)については、深さ方向の組成均一性やMo薄膜上での配向性及び結晶性向上などの新しい知見が得られた成果は、従来のCuとInの金属膜を大気圧の硫黄雰囲気中で加熱処理する硫化法とは異なる反応性スパッタ法のメリットと位置付けらることから評価できる。エピタキシャルCuInS2薄膜で明らかとなった格子歪み緩和と結晶構造の関係は新しい知見として位置付けられ、今後の基礎的データとして評価できる。また、デバイス化で用いるn形透明導電性薄膜Al添加ZnO薄膜の作製評価条件の最適が前倒しで進んでいることも評価できる。以上の結果から、総合的に、おおむね順調に進展しているものと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に構築したH2S供給可能な交互堆積反応性スパッタ装置を用いて、引き続き、種々の条件でCuInS2薄膜の作製及び特性評価を進める。これら特性評価の検討結果を薄膜作製条件にフィードバックし,均一で高品質なCuInS2薄膜の作製条件を確立すると共に,化学量論組成のずれ等と薄膜特性の関係を明確化する。なお、特性評価結果の検討のための基礎データ蓄積のため、CS2ガスを用いた反応性スパッタ法及び三元同時蒸着法によるCuInS2薄膜の作製評価も継続する。一方、マグネトロンスパッタ法によるAl添加ZnO窓層やケミカルバス法によるZnS(O,OH)バッファ層の作製条件の最適化もすすめ、<Al添加ZnO窓層/ZnS(O,OH)バッファ層/CuInS2光吸収層/Mo電極層/ソーダライムガラス>を基本構造とする小面積太陽電池セルの試作につなげる。なお、各層で基本的特性評価は、組成分析(EPMA・XPS・オージェ:共同設備)、表面や断面の形態観察(SEM・AFM:共同設備)、結晶構造解析(X線回折:共同設備,電子線回折:現有設備)、光学的特性(光吸収およびフォトルミネッセンス:現有設備)電気的特性(ホール効果測定:現有設備)などで行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H2S供給可能な交互堆積反応性スパッタ装置に導入予定であったバルブシャッターが予算的不足で購入できなかったことから、その不足額を次年度以降の予算で補って購入して組み込み設置する。また、薄膜作製のための原料や薬品など消耗品を購入する。研究成果発表及び研究調査のための旅費としても使用する。
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