2011 Fiscal Year Research-status Report
二次元核発生頻度の制御による双晶が無い立方晶の炭化ケイ素成長
Project/Area Number |
23560367
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
畑山 智亮 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 助教 (90304162)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 炭化ケイ素 / 半導体 / 結晶工学 |
Research Abstract |
省エネ半導体として期待されている炭化ケイ素は200種以上の結晶多形(polytype)を有するワイドギャップ半導体である。なかでも4H型(六方晶系)と呼ばれる炭化ケイ素は省エネ用の電力デバイス材料として期待されているが、デバイス性能は理論値に達していない。本研究ではデバイス1つの大きさに相当する特定の領域(数μm~数mm角)で双晶を含まない3C型(立方晶系)の炭化ケイ素を成長することを目的とした。基板として六方晶系の炭化ケイ素を用いた。基板表面へ意図的に凸構造を作り特定の領域とした。凸構造を得るためにプラズマや熱エッチング法を用いて準備した。基板表面へ直径50μm~1mmのマスク層をつくり、マスク層がない部分の炭化ケイ素を選択的にエッチングして形成した。成長前、1500℃以上で10~30分間、基板表面層を炉内で取り除いた。炉内で均一の厚さの表面層を除去したので、凸構造は維持されていた。そして炉の温度を再調整し、炭化ケイ素を成長した。成長の表面形態は微分干渉顕微鏡で観察し、結晶多形の判定にはラマン分光法を用いた。1450℃で成長した試料において、凸構造の中央付近では基板の結晶多形に起因する4H型のTOフォノンが観測できた。この部分では4H型の炭化ケイ素が成長した。一方、その凸構造の周辺部に小面が得られ、そこでは4H型と3C型のTOフォノンをそれぞれ確認した。アルゴンを用いたラマン分光測定であるため、炭化ケイ素基板への侵入長が数μm以上あり、成長層と基板の両方の情報が含まれている。しかし4H型と3C型のラマン信号強度が明らかに異なるので、小面には3C型の炭化ケイ素が選択的に成長した。長時間成長により基板上の幾つかの凸構造で最表面が全て3C型の炭化ケイ素が得られた。さらに熱エッチング法を使って3C型の成長層内の双晶の有無を調べた。その結果、双晶がない特定の領域が幾つか得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画通りおおむね進捗している。特に初年度に重点を置く方針で行った双晶の発生を抑制するための「成長初期で二次元核発生密度を制御」する項目では、双晶の発生を小面領域で抑えることができた。これは六方晶の炭化ケイ素ウエーハを微細加工して表面に凸構造を作り、凸構造上部の限られた領域に生えた立方晶を二次元結晶核として立方晶・炭化ケイ素を成長する手法である。その成長初期では過飽和度を下げて結晶核の数を少なくし、双晶の発生密度を抑制した。二次元核の発生密度を抑制する方法として二通り行った。一つは核発生温度を高温にした。高温では成長に寄与する原子種のマイグレーションが盛んになり、基板表面で核発生が乱雑に生じない。もう一つは核発生の原子種の数を抑制した。これは核発生時の過飽和度を下げ、先の手法と同様の効果が得られる。またこれらの研究の過程で付加的な成果が得られた。それは熱エッチング手法が双晶の検出に有効であること、また炭化ケイ素の結晶面方位に対してエッチング速度が特異な異方性を示すことを世界で初めて見出した。双晶の検出は一般的に溶融塩が広く使われている。しかし溶融塩はデバイス作製工程の装置類を汚染する。本研究の熱エッチングではガスを用いるため、前述のような懸念はない。またエッチング速度の異方性は、炭化ケイ素固有の結晶学的な性質によることが明らかになりつつある。一般に行われているエッチング手法は人為的であるため、特定の結晶面を再現性良く得ることは困難である。本研究では炭化ケイ素の結晶エネルギーが最小となる特異面を再現性良く得られるので、優位な素子構造が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は双晶が発生しない条件と双晶を検出する手法に見通しがついた。次年度は当初の計画通り双晶のない3C型炭化ケイ素の領域を拡大させることに注力する。目標は素子に必要と思われる200μm以上の領域で双晶がない3C型の炭化ケイ素を成長させる。これまでより大きな面積を得るために次年度では品質の高い基板の購入を行う。基板の品質は徐々に向上しているため、一度に購入するのではなく品質を吟味して慎重に進める。特に近年、電気エネルギーの高効率利用を目指して新たな材料メーカーが炭化ケイ素の分野に進出している。今年度は数社の基板を観察したが、品質は良くなかった。しかし品質は改善されつつあるので、次年度も引き続き基板の品質を見極める。今年度は双晶のない領域での平坦性を微分干渉顕微鏡と電子顕微鏡で分析した。素子特性に影響を与えると思われる結晶欠陥は電子顕微鏡で判断した。また素子化に必要な酸化膜の形成条件を既設の装置類を使って検討した。次年度では酸化膜の膜質分析、および酸化膜と3C型炭化ケイ素の界面特性を調べる。膜質は光学的手法で明らかにし、シリコン酸化膜と同様であることを目標とする。また界面特性はキャパシターを試作して電気特性を評価して解析する。キャパシターは双晶のない領域を選んで形成し、目標としている200μmの領域があれば信頼性のある電気特性の測定が可能である。また酸化膜の膜質などを変えて素子化に必要な特性が得られようにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
未使用額が生じた要因は、研究の進捗状況に合わせ、予算執行計画を変更したことに伴うものである。本年度に作製した試料を評価すると、基板の品質が試料の結晶性に影響を与えていることが分かった。つまり3C型の炭化ケイ素成長層は基板からの転位を引き継ぎやすい。そのため、基板に含まれる欠陥数(密度)が少ないほど良い。基板の結晶品質は徐々に改善されているため、 一度に購入することは得策ではない。 また基板を売り出す会社は増え始め、一社からの購入も得策ではない。そのため次年度は様々な会社の基板品質を詳細に検討し、3C型炭化ケイ素デバイスに最適な仕様の基板を購入する。 3C型の炭化ケイ素を成長するための基板購入を中心に行う。本研究の最終年度にはデバイスを試作するが、そこでは転位欠陥の少ない基板が必要となる。研究で得られた3C型の炭化ケイ素中に含まれる双晶の有無は本年度の成果である熱エッチング法で引き続き調査する。熱エッチングは900度以上の高温で行うため、温度測定用の合金線材や電熱線が所定時間を超えると断線する。そこでエッチングに必要とされるガスの購入費とエッチング装置の消耗品を購入する。電子銃のフィラメントは非破壊結晶解析に用いるEBIC装置に必要な消耗品である。 次年度ではでは研究計画通りに凸構造の最適化を行うためとデバイス試作を行うために、フォトマスクと金属堆積用のターゲットを消耗品として購入する。デバイス特性の最適化を図るためにフォトマスクは線幅の精度に優れたものを購入する予定である。 旅費は炭化ケイ素および関連材料研究会(応用物理学会)など国内で開催されものと、欧州・米国など外国で開催される会議へ出席をするために使用する。
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