2012 Fiscal Year Research-status Report
二次元核発生頻度の制御による双晶が無い立方晶の炭化ケイ素成長
Project/Area Number |
23560367
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
畑山 智亮 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 助教 (90304162)
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Keywords | 炭化ケイ素 / 半導体 |
Research Abstract |
省エネ半導体として期待されている炭化ケイ素は200種以上の結晶多形(polytype)を有するワイドギャップ半導体である。なかでも4H型(六方晶系)と呼ばれる炭化ケイ素は省エネ用の電力デバイス材料として期待されているが、デバイス性能は理論値に達していない。本研究ではデバイス1つの大きさに相当する特定の領域(数μm~数mm角)で双晶を含まない3C型(立方晶系)の炭化ケイ素を成長することを目的とした。また3C型炭化ケイ素の基礎デバイス構造を試作して、その特性を解析した。 基板として六方晶系の炭化ケイ素を用いた。3C型の結晶核を意図的に発生させるため、基板表面に凸構造を作製した。また結晶核の発生密度を制御するため、結晶学的に微傾斜面を有する基板も作製した。 炭化ケイ素は1300℃から1600℃の温度で成長した。成長表面は微分干渉顕微鏡、結晶多形の判定はラマン分光法、双晶の有無は熱エッチングを用いて解析した。 1550℃以下の温度で凸型構造の六方晶系基板上に3C型の結晶核が発生した。双晶の有無は熱エッチング法によるエッチピット形状から判断した。三角形状のエッチピット形状が一方向に揃っている領域は、双晶のない3C型の炭化ケイ素であった。 成長温度が低いほど3C型の炭化ケイ素を成長できたが、1400℃以下では核発生密度が増え、多結晶の炭化ケイ素とシリコンが堆積した。 一方、微傾斜面を有する六方晶系の基板を用いたとき、双晶のない3C型が得られる成長条件は限られていた。 デバイスの基本構造である絶縁膜/炭化ケイ素の積層構造(MOSダイオード)を作製した。絶縁膜は3C型の炭化ケイ素を1150℃で熱酸化して得た。絶縁膜の厚さは約80nmとなり、六方晶系を用いた場合より約2割厚くなった。 MOSダイオード特性の動作を確認し、蓄積状態の静電容量が理論値に一致した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画通りおおむね進捗している。特に今年度に重点を置く方針で行った200μm以上の領域で双晶の発生を抑制する項目では、幾つかの実験条件下で抑えることができた。これは六方晶系の炭化ケイ素ウエーハ表面に凸構造を作り、そこに立方晶(3C)の二次元結晶核を発生させ炭化ケイ素を成長する手法である。今年度は六方晶系ウエーハの品質が良い部分を使うようにした。これまでの実験結果から、ウエーハの結晶性は双晶の発生と関連していることが分かりつつあった。つまり転位や研磨傷があると、それらの部分で容易に3C型の二次元核が発生し、双晶が生じる。 今年度は凸型の前後で転位や研磨傷の有無をエッチングで確認した。また今年度は凸構造を作らずに双晶の発生を抑制した3C型の成長に挑戦した。六方晶系のウエーハ表面へ結晶学的に微傾斜面を有する基板を用いた。その結果、双晶のない3C型が得られる成長条件は限られていた。 今年度はデバイスの基本構造である、絶縁膜/炭化ケイ素の積層構造(MOSダイオード)を作製した。この積層構造はトランジスタ特性の中心的な役割をはたす。今回は酸素雰囲気中で3C型の炭化ケイ素を熱処理し、表面付近の炭化ケイ素を酸化膜に変質させた。熱処理温度は1150℃であり、酸化膜の膜厚は約80nmであった。 この厚みは六方晶系を用いた場合より約2割厚く、炭化ケイ素の結晶構造に関連していることが分かった。光学干渉計のスペクトルから、3C型の酸化膜は六方晶系やシリコンを用いた場合とほぼ同じであった。 MOSダイオード特性の動作を確認し、蓄積状態の静電容量が理論値に一致した。一方、完全な反転状態は確認できなかった。現在、その原因を究明するために、3C型のMOSダイオードをさらに作り解析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は双晶のない3C型の炭化ケイ素を得られる見通しがついた。またデバイスの基本構造を作製し、その電気特性を測定し評価した。双晶の抑制とデバイスの両分野における課題が明らかになった。次年度は当初の計画通り、3C型炭化ケイ素の領域を拡大とデバイス作製評価を行う。特にデバイス作製評価に重点を置く。 双晶を含まない3C型炭化ケイ素の面積を大きくするために、次年度ではより品質の高い基板の購入を行う。基板の品質は徐々に向上しているため、一度に購入するのではなく品質を吟味して慎重に進める。特に近年、電気エネルギーの高効率利用を目指して新たな材料メーカーが炭化ケイ素の分野に進出している。今年度も数社の基板を観察し、品質が年々良くなっていることを確認した。次年度も引き続き基板の品質を見極める。 今年度に試作した3C型のMOSダイオードは、基本的な素子特性を示した。しかし素子特性における反転状態を確認できず、この点が課題となった。素子特性に関与するキャリア(電子や正孔)の振る舞いを検討し、反転状態とならない原因を2つ想定している。一つはMOSダイオードの酸化膜にキャリアが捕獲されている可能性がある。3C型の炭化ケイ素を熱処理で酸化膜に変質させているので、MOS界面に炭素が残留しキャリアを捕獲していると思われる。容量の過渡特性や質量分析などの分光学的手法でMOS界面を分析する。もう一つの原因として考えられるのは、六方晶系ウエーハと3C型の界面である。同じ炭化ケイ素であるが、結晶構造が異なるので禁制帯幅が違う。そのため、この界面でキャリアが捕獲されている可能性がある。これまでの加工技術と分析機器を用いて、原因を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
未使用額が生じた要因は、研究の進捗状況に合わせ、予算執行計画を変更したことに伴うものである。本年度に作製した試料を評価すると、基板の品質が試料の結晶性に影響を与えていることが分かった。つまり3C型の炭化ケイ素成長層は基板からの転位を引き継ぎやすい。そのため、基板に含まれる欠陥数(密度)が少ないほど良い。基板の結晶品質は徐々に改善されているため、 一度に購入することは得策ではない。 また基板を売り出す会社は増え始め、一社からの購入も得策ではない。そのため次年度も様々な会社の基板品質を詳細に検討し、3C型炭化ケイ素デバイスに最適な仕様の基板を購入する。次年度はデバイス作製評価を行うが、そこでは転位欠陥の少ない基板が必要となる。 研究で得られた3C型の炭化ケイ素中に含まれる双晶の有無はこれまでの成果である熱エッチング法で引き続き調査する。熱エッチングはハロゲン系のガスを使うので、流量計の劣化(腐食)対策とハロゲンガス除害剤などの購入を行う。 次年度では研究計画通りにデバイス作製評価を行うために、フォトリソグラフ用と金属電極用のマスクを購入する。素子構造の検討を行うので、幾通りかの形状を設計しマスクの購入を行う。またデバイス特性の最適化を図るためにフォトマスクは線幅の精度に優れたものを購入する予定である。素子特性の測定は既設の評価装置を使うが、そこで使うプローブ針は先端が細く壊れやすい。また計測用の治具の作製も検討しており、それら消耗品の購入を考えている。 旅費は炭化ケイ素および関連材料研究会(応用物理学会)と国際会議へ出席をするために使用する。
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