2011 Fiscal Year Research-status Report
多次元フォトニック結晶構造を有する反強磁性結合体の超高速空間光変調素子への応用
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23560429
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Research Institution | Akita Research and Development Center |
Principal Investigator |
山根 治起 秋田県産業技術センター, その他部局等, 主任研究員 (80370237)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 磁性フォトニック結晶 / 磁気光学効果 / 反強磁性結合 / 垂直磁化膜 / CoPt / 微細加工 |
Research Abstract |
本研究では、反強磁性結合を有する垂直磁化積層膜に対して、ナノレベルでの周期的な一次元の積層構造および二次元の微細加工を施すことで多次元の磁性フォトニック結晶の実現を目的としている。これにより、可視光領域の短波長光に対して実用的な光変調性能と既存の製品に比較して1000倍以上の超高速動作とを合わせ持つ革新的な空間光変調素子が実現可能となる。本研究の成果は、次世代の大容量光ディスクとして期待されているホログラム光情報記録システム、あるいは、光の並列性・高速性を活かすことで情報の飛躍的な演算処理能力の向上が期待できる光情報処理システム等の飛躍的な性能向上に繋がるものである。 多次元の磁性フォトニック結晶と反強磁性結合体との組み合わせによる磁気光学性能の向上を目的とした本研究はこれまでに無い新たな取組みであり、今年度は、反強磁性結合を有する積層構造体の磁気光学物性の把握、ならびに、微細加工技術を用いた磁性金属薄膜のナノ加工および微小加工領域の磁気光学特性の評価システムの構築に注力した。 反強磁性結合体に関しては、垂直磁気異方性を有するCoPt膜、磁気結合の制御が可能なRu膜、および、ZnO誘電体膜を組み合わせた積層構造体を構築することで、本構造に特有の磁気光学特性の向上を見出すことができた。さらに、磁気分光特性に関する詳細な検討の結果、本現象が積層構造体の内部における磁気光学的なキャビティ構造に起因することが分かった。 一方、磁性金属薄膜の微細加工に関しては、電子線描画装置を用いることで可視光に対してフォトニック結晶としての作用が期待できる100nmレベルの微細加工技術を確立すると共に、微細加工を施した10μm以下の微小領域の磁気光学特性を10kOe以上の印加磁場下において測定可能は評価システムを開発することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究での開発を目標としている磁気光学効果を用いた光変調素子では、入射光の偏光角を照射する磁性体の磁化方向によって変化させることで、その後に偏光板を透過する光の強度を制御する。したがって、高性能の光変調素子の開発には、使用する波長の光に対して大きな磁気光学効果を有する材料の開発が不可欠である。大容量光情報記録での使用を想定した場合には、400nm以下の短波長光に対して大きな磁気光学効果を有する材料が必要となる。本年度は、遷移-貴金属材料を用いた積層膜に関する検討の結果、CoPt垂直磁化膜をAg表面上に作製することで表面プラズモン効果により磁気光学性能を向上することが可能であることが確認でき、本年度の目標値である±1度以上の偏光角を達成することができた。この時、CoPt膜とAg膜との間に2nm程度の非常に薄いZnO膜を形成することが良好な磁気特性の実現に有効であることを見出すことができた。併せて、次年度に開発を予定していた、反強磁性結合体に関する研究にも着手することができ、磁気光学的なキャビティ構造に起因する磁気光学特性の向上を見出すこともできた。 さらには、多次元の磁性フォトニック結晶に関する研究内容についても、電線描画装置を用いることで磁性金属膜に対して100nmレベルで2次元の周期ナノ構造を付与することが可能な微細加工技術を確立すると共に、微細加工を施した10μm程度の微小領域の磁気光学特性を測定可能な評価システムを構築することができた。 以上、本研究に関しては、当初の目標通りおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本年度に得られた成果を基にして、空間光変調素子として実用化が期待できる磁気光学性能である±10度以上の偏光角を目標に研究を実施する。具体的には、反強磁性結合を有する積層構造体に二次元の周期ナノ加工を施すことで多次元の磁性フォトニック結晶構造を実現することで磁気光学効果の増大を図る。並行して、光変調素子の開発に必要なデバイスの光学設計および評価システムの確立を図る。複雑な構造を有する多次元のフォトニック結晶の研究に対しては光学シミュレーションを用いたデバイスの構造設計が不可欠であり、時間領域差分法を用いた理論計算ソフトウェアを導入して効率的な研究を行う。さらに、数μm程度の微小領域の磁気光学特性をナノ秒程度の高速で測定可能な装置を構築して、微小な光変調素子の高速動作の評価システムを構築する。 さらに、最終年度は、これまでに得られた成果を基にして、実際に空間光変調素子を作製して光変調性能あるいは応答速度といった基本的な動作の確認を行う。特に、本研究課題では、現在製品化されている空間光変調素子に比較して1000倍以上に相当する10ナノ秒以下の超高速動作の実現を目標としていることから、素子の構造あるいは駆動方式に関する検討に注力する。光変調素子の動作確認には、素子の近傍に配置した制御ラインを流れる駆動電流によって発生する磁場を用いて磁化制御を行う予定である。したがって、GHzレベルの高速での電流制御を想定した駆動回路の構築あるいは素子構造の開発を図る必要がある。また、実際に作製した光変調素子の性能評価には、前年度までに構築した評価システムを用いて動作速度等の評価を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費に関しては、引き続き微小領域の磁気光学特性の評価システムの構築に特に注力する予定である。研究費の主な使用計画は以下の通りである。 物品費に関しては、高安定型半導体レーザが500千円、測定データの収録システムに用いるデータ収録モジュールが228千円および制御ソフトが382千円、極磁場発生用部品(ポールピース)が200千円、試料作製用消耗品(基板、レジスト等)が80千円を予定している。また、旅費としては、愛媛県松山市で9月中旬に開催される応用物理学会にて発表を行う予定であり、120千円を計画している。
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Research Products
(3 results)