2012 Fiscal Year Research-status Report
不規則に発生するシンボルに対する符号化の遅延最小化
Project/Area Number |
23560448
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
西新 幹彦 信州大学, 工学部, 准教授 (90333492)
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Keywords | 情報理論 |
Research Abstract |
本研究では、次のような符号化の過程を想定している。シンボルの到着は確率過程でモデル化され、到着したシンボルは符号器に入れられる。符号器は入力されたシンボルの内容ばかりでなく送信機の状態をも監視しながらどの時点でどのような符号語を出力するのかを決める。符号語はその長さに比例する時間で送信される。符号語が送信されている間にもシンボルは到着し、新たな符号語が生成される。送信機が動作中は新たな符号語は送信バッファに入れられる。 本研究では以上のように、単に符号語長を調節するだけでなく、システムの現在の状態をリアルタイムに監視しながら符号語を生成することによって遅延をコントロールすることが目的である。 この目的を達成するために平成24年度は上記の枠組みを深く考え直すところから研究を進めた。 前年度までは入力系列の分節木の任意のノードに符号語を割り当てていた。このとき、割り当てる符号語は実際に分節される頻度など、確率分布とみなされるものに従って通常の情報源符号化のテクニックを使用して決定した。したがって、割り当てられた符号語の集合は語頭条件を満たす。ところが、算術符号の状態遷移と出力される符号語の関係を見ると、算術符号の状態遷移を表す木のノードに割り当てられた符号語は必ずしも語頭条件を満たさない。これを一般化して考えると、分節木の内部ノードにも符号語を割り当てる場合、符号語の集合が語頭条件を満たすことは一意復号のための必要条件ではないことが導かれる。この事実に着目することによって、さらに遅延を改善できる可能性があることがわかった。 そこでこの可能性と効果を確認するため、符号語の集合が語頭条件を満たさないにもかかわらず一意復号可能となるような符号化モデルを作成し、これ基づいてシミュレーション実験を行なった。その結果、符号語の集合が語頭条件を満たす場合に比べて遅延が改善されることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
24年度は遅延を最小化するための新たな視点を発見し、その可能性と効果を確認した。24年度の研究計画の中に符号の構成法の検討があったが、得られた知見は符号を構成する際に考えなくてはならない重要な側面を与えている。当初の予定としては符号の構成方法の検討や最適化問題としての定式化に取り組むこととなっていたが、以上のことから、研究成果に向けての達成度はおおむね順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度の実験結果を踏まえ、遅延を最小化するためには実際の符号語の選び方に関する知見を深めなければならない。そのもとで、(1)符号化確率の選び方、(2)シンボルの到着状況、(3)送信機の状態、(4)符号語の選び方に関する知見を総合し、遅延を小さくする符号の構成法を検討する。ハフマン符号などの構成法と異なり、本研究における符号とは、単に情報源系列と符号語の対応だけでなく送信機の状態に対する適切な振る舞いを含むことになる。 また、実験で得られた最適なパラメータを説明するような数理を探り、最適符号が満たすべき数理的特徴を明らかにした後、最適化問題として定式化する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
遅延の発生メカニズムの数理を明らかにするために、待ち行列理論やスケジューリング理論の側面から理論的な検討を行う。したがってこれらの理論に関する十分な関係図書を用意する必要がある。さらに、遅延の分布を解析するにあたり、ラプラス変換や母関数による複雑な解析が必要となるため、数式処理ソフトウェアを有効に活用することによって効率のよい考察を行う。 当初計画で見込んだよりも安価に研究が完了したため、次年度使用額が生じた。一方、「現在までの達成度」で述べたことに伴い、遅延の分布の解析等が24年度から25年度に移る。そのための数式処理ソフトウェアの購入などのため、次年度使用額と25年度請求の助成金と合わせた額が充てられる。
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