2011 Fiscal Year Research-status Report
誤差1度以内を目指した脳内深部温度無侵襲計測用マイクロ波ラジオメータシステム
Project/Area Number |
23560502
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
杉浦 敏文 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (20135239)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 脳深部温度 / 低体温療法 / 新生児 / 無侵襲計測 / マイクロ波 / ラジオメータ / 精度 |
Research Abstract |
出産時の新生児低酸素虚血症による死や脳機能後遺症を抑制するために、仮死状態からの蘇生後数時間から数10時間に亘って脳内温度を低下させ、その状態を維持する低体温療法が提唱されており、動物実験ではその効果が実証されている。初期の試験的な臨床応用もいくつかなされているが、脳内深部の温度計測技術が未発達なため適切な冷却温度の維持、判定が困難になっている。治療効果を適切に評価し臨床応用を成功させるには、脳内、特に脳深部の連続的な温度管理が重要である。本研究の最終目標は、五周波マイクロ波ラジオメトリ技術により頭部表面から5 cmの深さの位置において誤差及び温度分解能共に1 ℃以内の測定を実現する事である。 この目標を実現する為に開発中のシステムの昨年(2010年)までの性能は、誤差約2 ℃、温度分解能約0.7 ℃であった。本研究における今年度(2011年度)の計画は、(1)誤差の主たる原因が使用している温度分布ファントムの水中の微小気泡であると推定し、水中の気泡を除去するバブルカッターを循環回路に挿入してその効果を確認する事、(2)動作が不安定な1.2 GHz帯のラジオメータ受信機を新しく作る事、(3)水を使わない脳内温度分布ファントムを製作すること、であった。 (1)の計画に関してバブルカッター(佐藤樹脂工業社製)を循環回路に挿入し、従来のシステム校正実験及び温度測定実験を実施した処、ファントム表面から5 cmの深さ(脳深部を想定)において誤差は0.4 ℃、温度分解能は1.03℃であり、本装置開発依頼初めて1 ℃以内の誤差を実現することができた。温度分解能が1 ℃をやや上回っている原因は不明であるが、システム全体の安定性に問題があると推定している。 なお、今年度計画の、(2)に関しては必要な部品を手に入れることが出来ず、(3)は現段階ではまだ着手するに至っていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初目的の1.2 GHz帯ラジオメータ受信機は予定部品が入手できず新しく製作することができていないが、本計画の最も重要な目標であるバブルカッターを使用して循環回路中の微小気泡の悪影響を除くことができたこと、また恐らくそれによって温度分布ファントム表面から5 cmの深さに於いて測定誤差を1 ℃未満にすることが初めて可能となったこと等による。特に脳内に温度計を直接刺入することなく頭部表面から内部温度を間接的に且つ連続的にモニターする温度計として世界で初めて実用的な測定精度を実現することが可能であることを示したことは、技術的にも医療現場の要望に応えるという点においても意義がある。 水を使わない安定した脳内温度分布ファントムを製作することに関しては未だ着手できていないことが反省点である。
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Strategy for Future Research Activity |
本装置は本来は液体窒素温度(-196 ℃)で冷却して使用するマイクロ波ラジオメータ受信機を室温且つ通常の室内で動作させることを目指している為、5台の受信機が常時安定して動作することはもとより、制御回路、電源回路を含むシステム全体の安定性が最も重要となる。 そのため今後の最重要課題は、装置全体の熱安定性、耐電磁雑音特性を向上することになる。しかしながらこれらの対策には決まった方法がなく、各種装置の配置やケーブルの走行配置の調整等、細かい電磁雑音対策等の積み上げが必要となり、基本的には試行錯誤を通してすこしずつ改善していく予定である。 上記対策を主として進めていきながら、一方で可能であれば水を使わない温度分布ファントムの製作を考えていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究で開発中の五周波マイクロ波ラジオメータ装置の骨格はほぼできあがっており、今後はその細部の調整を行って、常時一定の性能(誤差、温度分解能共に1 ℃以内)が実現できるようにする。それには温度測定精度と安定性の向上を目指す事が肝要であり大きな備品などの購入予定はなく、物品としては消耗品程度に留まる予定である。 一方で測定実験を繰り返しながら調整していくことから、さまざまな測定結果が得られる時期であり、学会発表や論文発表及び実験補助、データ整理の謝金等に研究費を充当する予定である。
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