2011 Fiscal Year Research-status Report
高分子超音波センサの更なる高性能化を目指した符号積層開口技術に関する研究
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23560504
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
村田 頼信 和歌山大学, システム工学部, 准教授 (50283958)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 超音波 / 超音波探触子 / 高分子圧電材料 / PVDF / P(VDF-TrFE) / M系列 / パルス圧縮 / 非破壊検査 |
Research Abstract |
本研究課題で提案する符号積層開口技術は,高分子圧電膜内の双極子の極性方向をコントロールして積層を行うことにより圧電膜の高機能化をはかる技術である.本年度は,まず,高分子圧電膜の製膜技術の向上について検討を行った.具体的には,圧電材料を有機溶媒で溶融して溶液とし,大きめのキャスト用の型枠を用意してそこに溶液を流し込み,所望の膜厚に等しいスペーサーを介してフラットなガラス板で溶液を挟み込む方法により圧電膜の均一化を試みた.この方法により面内の膜厚むらを±1μm以下にまで改善させることを目標としたが,結果として,大面積を均一化することは困難であった.この理由として,成膜した膜がガラス面に密着し,熱処理の際の収縮が一様でないことがわかった.製膜技術の向上については,来年度も引き続き検討を行いたいと考える. 一方,高分子超音波探触子はPZTなどのセラミック超音波探触子とは異なり,圧電フィルムの音響インピーダンスが比較的小さいため,探触子を構成する電極や接着層の音響特性による影響を受けやすい.符号積層開口は,これらの構成材料に遅延材料が加わった多種多層構造となるため,所望する性能および機能を発現する超音波探触子を実現するにはこれらの構成材料特性を緻密にコントロールした探触子設計が必要となる.そこで,本研究では,圧電素子を表すMasonの等価回路に,バッキング材や電極,遅延材,それに接着層を表す分布定数線路を組み合わせて符号積層開口を有する高分子超音波探触子を表現し,さらには伝搬媒質の減衰なども考慮した測定システム全体のシミュレーションにまで発展させた.実際に,高分子圧電フィルムの双極子の向きをコントロールすることで変調波の送信を可能とした超音波探触子の設計・試作を行いシミュレーションとの比較を行った結果,開発したシミュレーション技術の有効性を確認することができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最終目標は,高分子超音波探触子の性能を大幅に改善する全く新しい技術(符号積層開口技術)を提案し,この技術の有用性を実証することを目的としている.本年度において,均一な製膜技術の向上については課題を残している一方で,符号積層開口を有する高分子超音波探触子について,構成材料の特性を緻密にコントロール可能なシミュレーション技術の確立を果たしている.製膜技術の向上については,引き続き検討を重ねることとしたが,製膜したフィルムの均一な部分を使って,符号積層開口技術を応用した超音波探触子の設計・試作を既に行っている.そして,比較実験により開発シミュレーション技術の有効性をも確認しており,次年度の研究計画に順調に移行することが可能である.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,引き続き,製膜技術の向上について検討を重ねると共に,高分子超音波探触子の製造システムの改善および評価システムの自動化も併せて進める.そして実際に,符号積層開口技術を用いて高分子圧電フィルムを積層し,各層から励起される超音波が互いに強調し合うように位相反転・遅延させることで,センサの高感度化を試みる.また,M系列の符号系列に従って圧電フィルの極性をコントロールして積層を行うことで,M系列パルス圧縮超音波探触子を開発する.一方,これと異なるアプローチとして,異なる膜厚の圧電フィルムを順に積層させることによって超音波探触子自身でチャープ波の送信が可能かどうかも検証する.このような探触子で発生させた超音波は,パルス圧縮と同じ効果が期待できるだけでなく,任意波形発生装置などの特殊な装置を用いずとも,既存の装置でパルス圧縮波が発生できるという大きな利点を有する.さらには,M系列パルス圧縮超音波探触子による指向角制御を試み,超音波撮像用の超音波探触子として応用を検討する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の研究計画として,高分子圧電膜の製膜技術の向上について検討を行い,製作する圧電膜の面内の膜厚むらを±1μm以下にまで改善させることを目標としたが,結果として,より広い面積の膜厚の均一化までは至らなかった.そこで,製膜技術の向上については,本年度繰り越した研究経費を使って引き続き検討を重ねる. 一方,次年度の研究費は,以下の研究を遂行するために支出する計画である.高分子圧電膜の製膜時において,埃等のゴミは,分極時に絶縁破壊を起こすだけなく,圧電率の低下にともうセンサ性能の低下が懸念される.そこで,製造システムに簡易のクリーンブースを作製すると共に,分極処理や性能評価に用いるファンレスタイプのデジタルオシロスコープを導入して製造空間のクリーン化をはかる.一方で,符号積層開口技術による各種高分子超音波探触子の設計・試作を行う.なお,導入したデジタルオシロはPC制御を行うことで,開発した超音波探触子の評価・解析データを蓄積し,超音波探触子の性能向上や最適化をはかる.また,本研究に係る研究資料を収集すると共に,得られた研究成果については積極的に公表を行う.
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Research Products
(1 results)