2012 Fiscal Year Research-status Report
極端な非平衡温度場における放射測温システムの設計構築
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23560511
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
井内 徹 東洋大学, 理工学部, 教授 (20232142)
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Keywords | 放射測温 / 放射率 / 背光放射 / 半導体 / 偏光 / 非平衡温度場 |
Research Abstract |
本研究テーマは、非接触温度計測法としての放射測温法を実用に供す際、測定対象(具体的にはシリコン半導体ウエハ)の放射率の変動を補正する放射率補正放射測温法を確立すること、および測定対象の存在する空間環境における温度が極端に異なる、いわゆる非平衡温度場において、加熱源からの強烈な背光放射と測定対象からの放射をスペクトルの観点から完全分離する手法を確立すること、の2点からなり、最終的にそれらを組み合わせることによって、総合的な放射測温システムを設計構築することを目的としている。 今年度の研究実績を以下にまとめた。 (1)放射率補正放射測温法として(i)放射率不変条件を利用した放射測温法、(ii)偏光放射輝度比を利用した放射測温法のいずれも、測定対象をn型ウエハで実施してきたが、今年度は新たにp型ウエハを使用して実験した結果、n型ウエハと全く同等な条件で提案の放射率補正放射測温法が成り立つことを実証した。いずれも600℃以上で、不純物濃度(n型、p型)によらず、検出波長0.9から4.8 ミクロンまで同様に成立することを確証した。 (2)ハロゲンランプを加熱源として導入し、背光放射となるランプ輝度温度と信号である測定対象のシリコンウエハの温度を極端な非平衡温度場とした測定系を実現し、溶融石英板をランプの全面に設置することにより、ランプと測定対象からの放射スペクトルを完全分離する新しい原理に基づく放射測温システムを構築することに成功した。この際、「雑音係数」と名付けた新しいパラメータを定義し、このパラメータを求める実験手法を提案したこと、これを用いて様々な環境下における放射測温システム構築のためのシミュレーション技法を提案した。 これらの研究成果は、学術誌論文(Review of Scientific Instruments)1編、国際会議での発表2編、国内学会発表1編、図書1編で公開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)p型ウエハに対して放射率補正放射測温法の原理がn型ウエハとまったく同様な条件で成立することを実証した。これは当初の計画どおりの結果である。(2)ハロゲンランプを設置する石英板に水を流して、水吸収を利用した背光放射と測定対象からの放射輝度信号の分離を試みた。検出波長1.55ミクロンの光センサ(InGaAs)の放射計を使用して実施した。水吸収による背光放射をこの波長域で完全に遮蔽できることを確認したが、これは1.55ミクロンを中心にした広帯域の波長で水吸収効果のデータである。実用に供するためには放射計の検出波長を狭帯域にして再実験する必要を生じた。これがこれからの課題となる。(3)SiO2やSi3N4といった誘電体薄膜以外にNiSi薄膜を測定対象として実験を試みたが、300℃以上の温度域で薄膜の剥離ないし変色を観測した。そのため、放射率補正放射測温法の原理が成り立つかどうかの実証段階前に問題を生じた。300℃以下の低温での放射率補正放射測温法の確立のためには、これまでの方式では適用できない問題点を確認した(ウエハが半透明体となるので放射測温法以外の方式を検討しなければならない)。(4)n型、p型両方のウエハに対して放射率補正放射測温法の不確かさ評価を実施した。これは今後放射測温システムの設計構築のための基本的なデータベースとなる。(5)背光放射の影響を定量的な数値で評価するための「雑音係数」なる新たなパラメータを導入し、この量を測定する手法を見出した。これは本研究テーマの最終目標である、「極端な非平衡温度場における放射測温システムの一般設計論を構築する」ための確かな足がかりとなった。 以上の状況を鑑みて、研究の目的の達成度は「おおむね順調に進展している」と判断できた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までにほぼ研究計画どおりに研究が進捗した。以下、今後の研究推進方策を記述する。 1.石英板と4.5ミクロン波長帯の放射計の組み合わせによって背光放射を完全に分離遮蔽できた一方、水分吸収を利用した1.55ミクロン付近での結果をさらに精密化するために、検出波長を狭帯域に絞った偏光放射計を新たに開発する。 2.SiC薄膜付のシリコンウエハの放射率特性を測定し、放射測温法に関する知見を考察する。また、低温領域での放射測温法以外の非接触温度計測法の基礎的なアプローチを並行して実施する。 3.総合的な不確かさ評価を引き続き実施する。 4.新たに導入した「雑音係数」をベースにして、「極端な非平衡温度場における放射測温システムの一般設計論」を確立して、本研究テーマの最終結論を得る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.必要に応じてシリコンウエハの購入(約10万円)。 2.国際会議出席旅費と参加費(約35万円) 3.学術誌論文プリント代(約5万円) 繰り越した11450円は、当該年度に無理して使用することはやめて、次年度の研究費使用計画のうち、主として1.の経費への支出として考えている。
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Research Products
(5 results)