2011 Fiscal Year Research-status Report
微生物群集構造解析と同位体分析の結合による水汚染ダイナミクスの解明
Project/Area Number |
23560641
|
Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
西田 継 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (70293438)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 国際研究者交流 / ネパール / カトマンズ |
Research Abstract |
安全な水源と適切な衛生設備の不足は世界的な問題である.その解決のため,水系の微生物汚染に対して微生物群集構造解析と安定同位体比分析の結果を結合し,アジアモンスーン域において時空間的に変化する水汚染の原因を解明する.水汚染が深刻で,代表者らが研究体制を整備しているネパールのカトマンズ盆地をケーススタディとする.特に,現地で生活用水としての依存度が著しく高い地下水を対象とし,健康関連微生物に注目する.本研究の成果として得られる知見と方法論が,モデル解析等により発展,一般化され,他の地域や水汚染現象へ応用されることを期待している. 平成23年度は,連携関係にある現地の連携機関の協力を得ながら,汚染解析に必要な基本一次データを取得することが主たる計画であった.一般水質に関しては,追跡の対象として想定した環境水および下排水のうち,浅層地下水の現地採取を乾季(5月)と雨季(8月末~9月)に行った.既得データを再検証した結果,水質の季節変動を早急に確認する必要が生じたため,乾季調査は次年度の計画を前倒しして行った.過去の浅層地下水の乾季及び雨季データに今回のデータを加えて統計解析を行った結果,雨季に大腸菌濃度が高くなる地点とそのような傾向が見られない地点が存在することが判った.これは今後の汚染井戸の管理に重要な視点であり,季節変化の機構を検証し対策に役立てるため,数地点については雨季終了時期まで毎月データを継続的に取得するよう,連携機関に依頼した.他の項目については,分析が進行中である. 水中微生物の遺伝子解析に関しては,今年の乾季までの現地調査で採取された前処理済みの試料が一括して凍結保存されており,分析が進行中である.これまで得られた予備的知見としては,汚染度が高い水試料では群集構造の多様性が減少し易い可能性があること,高病原性種が検出され易い傾向にあること,などが示された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
海外現地調査は種々の困難を伴うが,代表者は当該地域で過去に研究実績を有しているため,当初想定していた以上にスムーズかつ効率の高い研究を遂行することが出来ている.例えば,本研究を開始した直後に,調査地点の多くで見られる地下水の微生物汚染は非系統的かつ局所的である可能性が高く,地下水汚染の原因究明に対して従来の地理統計学的方法論を直接適用することが困難であり,まず季節変動の影響を受けている地点を抽出した上で層別化する必要があることが判明した.そこで,二年目に予定していた乾季の調査時期を柔軟に変更し,一年目に乾季と雨季の調査を実施した結果,雨季に大腸菌濃度が有意に上昇する浅井戸地点の抽出に成功し,さらにこの濃度変動機構を解明するための連続観測を開始することができた.また,病原微生物を中心とした群集構造解析については,連携研究者と共同体制で進める計画であったが,代表者らはすでに,遺伝子解析の分野と環境動態解析の分野が融合的に活動できる研究基盤を機関の内外に築いており,本課題の重要性を認識した研究者により連携のネットワークが自発的に拡大されたことで,解析作業が格段にスピーディかつ系統的に展開できるようになった.その結果,代表者や代表者が指導する学生による学術賞の受賞と,上記の拡大した連携研究者らによる国際誌上での論文発表につながった.以上は代表者が志していたものの,当初計画に期待した以上の成果であった.
|
Strategy for Future Research Activity |
対象地域で発生している地下水の微生物汚染は非系統的かつ局所的である可能性が高く,原因究明のために従来の地理統計学的方法論を直接適用するのは困難だと判明した.そこで,当初計画していた既存モデルによる水文環境の解析方法を変更し,影響因子の層別化と水質トレーサー解析により,微生物の消長に影響する水移動の概要を把握する.前者では,一年目に地下水中大腸菌濃度の季節変動の有無で地点を分類できたため,これを進展させ,濃度変動が雨水浸透と地下水水位のどちらに強く影響されるのかによりさらに分類する.これに,旧市街と新興住宅地のような下水施設の脆弱性に関わる情報を重ね合わせる.後者では,一般水質項目を活用した下水混入率を推定し,水と硝酸性窒素および酸素の安定同位体比を用いた混合比計算等により結果を検証する.これらは全て,代表者が機関内の協力を得ながら担当する. 二年目に予定していた乾季調査を雨季へ変更し,遺伝子解析用の試料採取に集中することで雨季の微生物群集構造データを精緻化する.現地で培養法で計測する糞便汚染指標細菌は,帰国後に遺伝子ベースでも計測し,定量法による差異を検討する.微生物の群集構造解析は,DNAマイクロアレイ解析とクローン解析により行う.前者は連携研究者が担当し,スクリーニングとして数100種の病原微生物を一斉検出し,可能なら定量化も試みる.後者は代表者が機関内の協力を得ながら担当し,さらに詳細な関連微生物の同定を行う.両解析の結果を比較できるよう,遺伝子抽出等の前処理やデータベース検索の方法を調整する. 最終年度は,前年度までの結果を用いて,地下水に存在する健康関連微生物と地球化学サイクル関連微生物の群集構造を決定する.水文環境と微生物群集構造の情報を結合し,微生物による水環境汚染が時空間的に変化するダイナミクスを解明する.これにより,汚染井戸の管理に向けた道筋を作る.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画通り,主に海外現地調査の旅費と遺伝子解析用試薬等の消耗品費に充てる.現地調査は,8月末~9月に行う予定である.消耗品は年間を通じて発生する見込みである.
|
Research Products
(15 results)
-
-
-
-
[Presentation] ネパール・カトマンズ盆地における浅層地下水の下水汚染の解析2012
Author(s)
志村禎章,Sadhana S. MALLA,坂本明子,中村高志,原本英司,近藤尚己,風間ふたば,坂本康,井上大介,清和成,西田継
Organizer
第46回日本水環境学会年会
Place of Presentation
日本、東京、東洋大学
Year and Date
2012.3.15
-
[Presentation] カトマンズ盆地の地下水水中に分布する微生生物群集の解析2012
Author(s)
高瀬晶弘,田中靖浩,松澤 宏朗,西田継,中村高志,Saroj K Chapagain,井上大介,清和成,遠山忠,森一博,坂本康,風間ふたば
Organizer
第46回日本水環境学会年会
Place of Presentation
日本、東京、東洋大学
Year and Date
2012.3.15
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-