2011 Fiscal Year Research-status Report
薬剤耐性菌や耐性遺伝子を含む医薬品関連リスクの低減の場としての自然環境
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23560652
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Research Institution | Tokyo University of Technology |
Principal Investigator |
浦瀬 太郎 東京工科大学, 応用生物学部, 教授 (60272366)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
多田 雄一 東京工科大学, 応用生物学部, 教授 (80409789)
西野 智彦 東京工科大学, 応用生物学部, 講師 (10409790)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 土木環境システム / 医薬品 / 環境 / 水循環 / 抗生物質 / 耐性菌 / 医薬品 |
Research Abstract |
異なる環境中での医薬品分解速度の測定により環境と分解菌の存在についての関連を実験的に検討した。対象医薬品としては,これまで,代表者らの経験の多い抗炎症鎮痛剤,抗高脂血剤に加えて,抗生物質を追加した。汚染された河川水,比較的汚染の少ない河川水,下水処理水の影響を受ける河川水,土壌抽出液などで分解性を検討し,清浄な環境での分解が遅いこと,特殊な分解菌が土壌抽出液では存在する可能性があることを示した。 P450遺伝子を強化したシロイヌナズナをモデル植物とした医薬品の分解を試み,水からの摂取,植物体内での分解を測定し,独立栄養生物による医薬品除去の可能性について検討した。一部の植物で抗炎症鎮痛剤の分解が促進される結果を得た。 薬剤耐性菌の存在割合,耐性スペクトル,多剤耐性度のデータを多摩川において渓流から河口域まで調査し,廃水処理施設においても調査した。耐性を測定する抗生物質は,研究例の多い古典的な抗生物質や各世代のβラクタム剤に加えて,最近の人用使用の多いフルオロキノロン系,カルバペネム系,アミノグリコシド系のものを選定した。アンピシリンやテトラサイクリンといった古典的な抗生物質に対する耐性菌はどこにでも存在するが,人為的な抗生物質への多剤耐性は比較的上流ではあるが,人為汚染の影響のある環境に集中して存在し,流下に伴い,むしろ,多剤耐性度は減少する意外な知見が示された。 遺伝子を取り込み易い状態とした大腸菌コンピテントセルによる環境水中の遺伝子からの耐性遺伝子の検出手法については,活性汚泥懸濁液からの耐性遺伝子の導入に成功し,現在環境水への応用を検討中である。また,医薬品のグループ別網羅的分析法の整備については,PFBBr誘導体化クロマトグラムの解析による環境診断法を検討し,原理的には成功し,環境サンプルへの応用を現在検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画した今年度の課題は(1) 異なる環境中での医薬品分解速度の測定により環境と分解菌の存在についての関連を明確にする, (2) P450強化植物による医薬品の分解の検討(3) 環境中の抗生物質耐性菌の割合,多剤耐性度の調査, (4) 耐性遺伝子検出手法,グループ別医薬品分析手法への挑戦,の4点である。 このうち,(3)については,学会発表を何回か行い,学術論文もすでにAcceptされ,刊行待ちの状態である。(1)についても詳細な検討を終了しており,論文としてまとめる段階である。(2), (4)については,再現性や環境水への応用の段階にあり,順調に進展しているものの学会発表や論文執筆まで至っていない。 以上,総合すると,(1)(2)(3)(4)のすべての項目について,実験を実施し,検討を行っている点で概ね順調に進捗しており,成果もあげられつつあると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
医薬品分解細菌の単離,共代謝による分解,分解スペクトラムの取得については,いくつかの単離された細菌に対して医薬品に対する分解スペクトラムを取得する。また,PFBBr誘導体化物一斉分析法も活用し,代謝生成物の分析を行う。 P450強化植物による自然環境を模擬した廃水処理システムの検討について,前年注目していない水酸化酵素を強化する遺伝子を検討することにより,より,医薬品分解を強化できる方法を探索するとともに,人工湿地など自然環境を模擬した廃水の安定化に適用可能な医薬品分解植物を検討する。 グループ別薬理活性の低減効果については,誘導体化後に生じる特有の前述のPFBBr誘導体化法によるGC/MSフラグメント解析から,環境中の薬理成分一括での分析法が使えることを示し,環境中あるいは排水処理施設での医薬品の挙動解析に応用する。 耐性遺伝子の環境中および廃水処理過程での挙動については,引き続き,薬剤耐性菌,薬剤耐性遺伝子の調査を行い,従来法の結果と比較し,さらに,膜による消毒や塩素消毒などの消毒方法の違いによる薬剤耐性菌や耐性遺伝子の消滅の程度の差を検討する。また,薬剤耐性の細菌間の環境中伝達リスクの評価のため,Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)およびEscherichia coli(大腸菌)を用いて,抗生物質耐性遺伝子の菌種の壁を越えた伝達の頻度,および,抗生物質耐性をコードしている溶存DNAの取り込み実験を行い,形質転換頻度を推定する。魚の腸管を模擬した環境での抗生物質耐性についての形質転換が生じる頻度を推定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は西野講師使用分において,200,000円程度の残額が発生したが,これは,少額の消耗品のみで実施できる環境中での遺伝子の水平伝達が生じる場についての予備検討を優先して行い,それをもとに,培養に要する器具などの購入を行うという順序で研究を行ったためであり,研究そのものの遅延はない。 平成24年度は本年度の使用残額に計画通りの1,200,000円を加えた額の使用を計画している。
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Research Products
(4 results)