2012 Fiscal Year Research-status Report
パルス性地震動と長周期地震動に対する免震構造の制御
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23560672
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
藤谷 秀雄 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10344011)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
向井 洋一 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70252616)
佐藤 栄児 独立行政法人防災科学技術研究所, その他部局等, その他 (60343761)
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Keywords | 回転慣性MRダンパー / 回転慣性固定方式 / 擁壁衝突 |
Research Abstract |
内陸型地震の断層近傍で発生するパルス性地震動ならびに海溝型地震による長周期地震動によって、免震構造の安全性・機能性が脅かされる。これらに対し、セミアクティブおよびパッシブの振動制御装置によって、免震構造の安全性・機能性の両方を向上させる技術を提示することを目的とする。 平成24年度には回転慣性MRダンパーの製作を予定した。その設計の詳細を詰める段階で、2つの可能性に気づき、それらの合理性を追求することとした。1つは、回転慣性を生み出す回転体とピストンを直結して、回転体と外筒の間に磁気粘性流体(MR流体)を封入するものである。これは回転慣性の効果によって、床応答加速度を低減し、MR流体に磁場を印加することによってMR流体の見かけの粘度を高め、応答変位を低減することを意図したものである。これを回転慣性固定式とよぶ。もう1つは、回転体をピストンから切り離し、両者の間にMR流体を封入し、必要に応じてMR流体に磁場を印加することにより、クラッチのように回転体とピストンを連結する機構で、床応答加速度の低減を主眼とするものである。これを回転慣性可変式とよぶ。理論的な考察および数値シミュレーションの結果、前者の回転慣性固定式の方が多くの場合に有効であることが確認できたので、回転慣性固定式の回転慣性MRダンパーの製作にとりかかった。これは過去に例のないダンパーで製作し実験によって、その有効性を検証することが有意義で、研究的重要性が高い。 次に、制御を行ったにも関わらず免震構造が擁壁に衝突した際の損傷制御の研究に着手するために、解析モデルの検討を行った。免震構造が擁壁に衝突した際に損傷を解析で予測するために、部材モデル、多質点系モデル、1質点系モデルで解析したところ、1質点系モデルでは、免震層の応答加速度の評価さえも困難であることから、多質点系モデルが不可欠であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
回転慣性固定式と回転慣性可変式の回転慣性MRダンパーの違いを、極座標を用いた方法で理論的に考察した。当初、免震構造の応答変位を横軸に、復元力を縦軸にとった荷重変形関係において、第2象限と第4象限にでは回転慣性が不要であるか、あるいは応答変位を増大しかねないという悪影響が懸念された。そこで、その領域では回転慣性を切り離すことができる回転慣性可変式を考案した。極座標を用いた考察によると、この第2象限と第4象限では、回転慣性固定式の場合でも、MR流体に磁場を印加して粘性抵抗を高めることによって回転体の回転数を低下させ、第2象限と第4象限で応答変位を増大しかねない悪影響を低減できることが明らかになった。 また回転慣性固定式と回転慣性可変式の回転慣性MRダンパーを用いた免震構造の応答制御に数値シミュレーションによって応答制御効果の検証を行った。回転慣性固定式で制御を行った結果、フラットな周期特性を持つ地震動およびやや短周期パルスを持つ地震動に対して良好な制御効果を示した。一方、回転慣性可変式で制御を行った場合、いくつかの地震動でセミアクティブ制御の効果が確認できた。しかし、一度回転した回転体を任意のタイミングで回転を停止あるいは逆転させるメカニズムに課題があった。 次に、制御を行ったにも関わらず免震構造が擁壁に衝突した際の損傷制御の研究として、多質点モデルによって、上部構造が5層および26層の免震構造の数値シミュレーションを行い、擁壁の剛性をパラメータにして、衝突前後の運動量の変化と上部構造の層せん断力の関係を求めた。その結果、運動量の変化が大きいほど、擁壁の剛性が高いほど、上部構造の層せん断力が大きくなること、擁壁の剛性が高くなったときにも衝突による上部構造の層せん断力の値に上限があることが明らかになった。 これらにより2年度目に必要な到達度に達したと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の成果を受けて、回転慣性固定式の回転慣性MRダンパーを製作する。このダンパーの単体性能を試験により確認しモデル化を行う。また過去の科学研究費で構築したセミアクティブ制御のリアルタイム・ハイブリッド実験システムを用いて、このダンパーによるセミアクティブ制御効果の検証を行う。これはダンパーの出力する減衰力をロードセルで検出し、モデル化された免震構造にその減衰力を与えて制御された応答変位をコンピュータで計算し、試験器でリアルタイムにダンパーに再現し、応答制御効果を検証する方法であり、振動台実験に代わるものである。しかも構造物はモデル化されているので、多様な免震構造を対象とすることができる。 一方、免震構造が擁壁に衝突した際のフェイルセーフの検討を行う。擁壁に衝突した際に上部構造に与える損傷を解析で予測し、許容できる損傷の範囲、あるいは損傷によるエネルギー吸収に期待して、免震構造全体の倒壊を防ぐなど、フェイルセーフの考え方を提案する。 擁壁への衝突については、平成25年度に防災科学技術研究所において実物大の振動台実験が行われるので、その結果によって平成24年度の解析研究の成果を照合し、得られた知見を、今後の損傷予測手法の開発につなげてゆく。 最終的に、上記の成果を総合して、長周期地震動とパルス性地震動に対する免震構造の性能向上および安全性・機能性確保の手法を提案する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の成果を受けて、回転慣性固定式の回転慣性MRダンパーを製作する費用およびダンパーの試験を行うためのロードセルを購入する費用を計上する。その他、成果発表旅費を計上する。
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Research Products
(7 results)