2012 Fiscal Year Research-status Report
鋼構造接合部の破壊に影響を与える多様な溶接欠陥の定量的評価方法の確立
Project/Area Number |
23560673
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
田中 剛 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90243328)
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Keywords | 鉄骨造建物 / 溶接接合 / 溶接欠陥 / 実大実験 / 破壊モード / 塑性変形能力 / FEM |
Research Abstract |
本研究課題は,溶接欠陥の合理的な欠陥評価方法を確立することを目的としている。平成24年度では,日本の鋼構造建築の大半を占める角形鋼管柱の柱端溶接部を対象として,構造実験および有限要素数値解析を実施した。 構造実験に供した試験体は,通しダイアフラムと角形鋼管柱の完全溶込み溶接部を対象とした片持ち柱である。柱には冷間プレス成形角形鋼管(□-300x300x19(BCP325)),通しダイアフラムにはPL-19(SN490B)を用いて,合計6体の試験体を製作した。実験因子は,載荷方向および欠陥位置である。載荷方向は,0度方向または45度方向であり,欠陥位置は,溶接部の内面側(初層)または外面側(表層)である。欠陥挿入位置は,0度方向では,コーナーR部4ヶ所とし,45度方向では,コーナーR部2ヶ所とした。欠陥は,溶接部のダイアフラムに接して鋼片(5mm×5mm)を設置した上で溶接することにより挿入した。 0度方向試験体および45度方向試験体とも溶接部の外面側に欠陥を挿入した試験体では,欠陥を起点として延性亀裂が進展し,この延性亀裂が角形鋼管の脆性破壊を引き起こした。一方,溶接部の内面側に欠陥を挿入した試験体では,0度方向試験体の塑性変形能力は,局部座屈の進行により決定し,45度方向試験体の塑性変形能力は,溶接部の柱側溶接止端に生じた延性亀裂を起点とした脆性破壊により決定し,いずれの試験体の破壊モードとも,無欠陥試験体の場合と同様であった。 実験結果および有限要素数値解析より,以下の知見が得られた。 (1)歪集中の程度が小さいコーナーR部内面側の欠陥は,破壊モードに影響を与えない。 (2)コーナーR部外面側に欠陥を挿入した試験体では,欠陥に起因する破壊が生じ,特に45度方向載荷の場合では,著しい歪集中が生じており,この位置の欠陥は柱の塑性変形能力を大きく減少させる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度では,当初の計画通り冷間成形角形鋼管柱の柱端溶接接合部に生じる溶接欠陥が破壊に及ぼす影響について,系統的な実験資料を蓄積した。一方で欠陥をモデル化した有限要素数値解析により欠陥先端の亀裂開口変位および応力状態に関する解析データも得られつつあり,現在,実験データと解析データに基づいた検討を行っている。 有限要素数値解析の結果では,いずれの載荷方向においてもコーナーR部の外面側に歪集中が見られ,特に45 度方向載荷では,外面側の歪集中が著しい。一方,両載荷方向とも内面の歪集中は小さく,実験において,内面側の欠陥が破壊モードに影響を与えなかったことと対応している。コーナーR部外面側の欠陥は,歪集中の大きい部分に入るため,特に45度方向載荷では塑性変形能力の減少に与える影響が大きくなることが分かっている。 現在,欠陥位置および欠陥高さを解析因子としたパラメトリックな数値解析を行い,溶接欠陥の板厚方向および板幅方向における発生位置が,破壊に与える影響を調べている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の前半では,円形鋼管柱と通しダイアフラムとの溶接に生じる溶接欠陥を対象とする実験シリーズを計画している。平成24年度で実施した角形鋼管柱の場合と同様に,欠陥位置および欠陥長さを実験因子として,片持ち柱形式の実大載荷実験を4体程度計画している。載荷は漸増交番繰り返し載荷とし,欠陥が柱の破壊モードおよび塑性変形能力に与える影響を検討する。 平成25年度の後半では,梁端溶接接合部および柱端溶接接合部を対象として,欠陥を挿入した有限要素数値解析モデルを作成し,パラメトリックな数値解析を実施する。得られた亀裂開口変位および欠陥先端の応力状態を調べ,これまでに得られている実験結果の破壊モードおよび塑性変形能力と比較検討する。 3年間にわたる研究成果を踏まえて,溶接欠陥の新たな合否判定基準として,現行の溶接部の品質管理に主眼を置く基準に加えて,接合部の重要度,欠陥位置および欠陥形状に応じた力学的合理性を備えた欠陥評価方法を確立する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題では,実大実験により破壊性状を調べることが不可欠なので,全体の研究費用のほとんどは,実験に要する費用(試験体の製作,試験片の製作,製作工場における溶接施工条件を確認するための旅費等)である。 本年度の試験体は,円形鋼管柱を用いた片持ち柱形式試験体を4体計画している。実験因子は,欠陥位置および欠陥長さである。載荷実験は,神戸大学工学部の構造物試験室において,既存の加力装置および計測装置を用いて行うことができるので,設備備品類はほとんど不要であり,円形鋼管の表面歪を測定するための歪ゲージのみ購入する予定である。また,円形鋼管母材および溶接部の引張特性および衝撃特性を調べるために,引張試験片およびシャルピー衝撃試験片を製作する。本実験では,試験体製作時の欠陥挿入方法および溶接施工条件が重要となる。従って,試験体の溶接施工時には,製作工場に赴き,溶接施工条件(積層方法,入熱量,パス間温度等)に関するデータを収集するための旅費が必要となる。 次年度では,以下の研究費の使用を計画している。 (1)試験体製作費:600千円(片持ち柱試験体:15万円/1体×4体=60万円)。 (2)塑性ゲージ:75千円。 (3)引張試験:75千万円。 (4)旅費:5万円
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Research Products
(3 results)