2012 Fiscal Year Research-status Report
都市内の斜面緑地における冷気のにじみ出し現象の把握と温暖化対策としての利用可能性
Project/Area Number |
23560700
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Research Institution | Nippon Institute of Technology |
Principal Investigator |
成田 健一 日本工業大学, 工学部, 教授 (20189210)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菅原 広史 防衛大学校, 地球海洋学科, 准教授 (60531788)
三坂 育正 日本工業大学, 工学部, 教授 (30416622)
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Keywords | ヒートアイランド / 微気候 / 緑地 / 冷気流 / 放射冷却 |
Research Abstract |
初年度の実測から、斜面緑地の冷気供給能には、斜面緑地の幅や、上端面の背後の緑地の有無が影響していることが推察された。そこで2年目の今年は、背後の斜面緑地を有する団地が多数存在する多摩ニュータウンを対象に実測を行った。 夏季、約2か月間(8/8~9/29)の集中観測を実施したのは多摩市の都立桜ヶ丘公園の周辺、稲城市の向陽台団地、多摩市の愛宕緑地の3か所で、昨年同様、気温は自作の自然通風シェルターに装着した無線ロガーで1分毎、風向・風速は二次元超音波風速計で1秒毎に収録した。設置した測器は、桜ヶ丘公園では温度計58か所と風向風速計5か所、向陽台団地では温度計10か所と風向風速計1か所、愛宕緑地では温度計9か所と風向風速計1か所である。基本的には街路灯を利用し、測定高さは約2.5mとした。エリアの気温鉛直分布はUR研究所の約100m高さのタワーに同様の温度ロガーを設置して測定し、下向き長波放射量は多摩市役所屋上にて実測した。 以上の測定から、多摩丘陵では、北向き斜面の中腹から冷気形成が始まり、その冷気が谷筋に集積したのち、谷筋を流下する冷気流が発生する。この冷気流が到達した地点では風向変化とともに急激な気温低下が起こる。この間、尾根部は高温域として残される。また地形の効果が大きいため、谷の出口から外れたエリアでは冷気の恩恵をほとんど受けられない。一方、このような緑地におけるローカルな冷気形成とは別に、多摩丘陵では山風である西風の侵入に伴い、広域的な接地逆転層の形成による急激な気温低下が起こる。この場合には、谷筋のみではなく、比高100m程度の尾根部まで冷却が起こり、緑地の冷気が達しない市街地部でも、ほぼ同様の冷却が見られる。このように、郊外部の斜面緑地では、都心部の緑地とは異なり、広域現象も伴う複雑なふるまいをすることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多摩丘陵を中心とした実測では、冷気生成域の特定や流出プロセスの詳細、尾根近くまで開発された斜面住宅地ではほとんど冷気形成が起こらないことなどが把握できた。 なお、多摩ニュータウンの小・中学校とUR団地内、計38地点に設置した温度ロガー(2011年12月末に設置)による通年での多摩ニュータウン全体の気温分布特性の把握は、現在も継続している。 当初は、多摩ニュータウンに加え、国分寺崖線沿いの斜面緑地もターゲットとすることを考えたが、桜が丘公園の地形の複雑さとエリアの広さから、測定地点数が予想をはるかに上回ったため、今年度の実測は断念した。ただし、昨年実測した都内の斜面緑地のうち、小石川植物園に関しては、園内を含めて23か所に温度計、2か所に風向風速計を設置し、約2か月間(8/9~9/30)詳細な実測を行った。 以上を総括して、実測のターゲットは当初計画よりも絞り込んだものとなったが、集中投下した多摩ニュータウンに関しては、100mまでの鉛直気温分布をはじめ、予定以上の多角的なデータセットを取得することで、興味深い結果を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
初年次における、異なる規模の斜面緑地における同時実測の結果から、小規模の緑地でも冷気生成は生じているが、周囲の市街地への明確な冷気流出が起こるには、緑地幅が200m程度必要であることがわかってきた。昨年度の多摩丘陵での実測では、住宅団地の背後に広大な緑地が存在しても、斜面の上部まで開発が進み、背後の尾根までの緑地幅が100m程度となっている事例では、ほとんど冷気流出が見られないという結果であった。丘陵地では冷気流が谷筋に沿って重力流的に流下するため、尾根背後の広大な緑地で生成された冷気は住宅地に寄与していない。 また、多摩丘陵では、冷気流が発生するような気象条件の夜、奥多摩方面からの山風の侵入に伴ってかなり広域的な接地逆転層が形成され、そのエリアが西から都心に向かって時間とともに拡大するという現象が起こっている。そのため、都内の緑地では夜間の急激な気温低下は容易ににじみ出し現象と解釈できたが、郊外域では急激な気温低下が緑地からの冷気流出に起因するものであるかを見極めるためには広域現象の把握に注意を払うことが重要であることがわかってきた。接地逆転層が形成されるか否かは、自然のポテンシャルが残っているかどうかを反映しており、首都圏のヒートアイランド現象を考察する上で興味深い現象といえる。 そこで、最終年度は、多摩丘陵~都心を対象に、広域的な接地逆転層の形成の有無や時間ずれを把握することを付加的なターゲットとしたい。本来の緑地影響に関しては、多摩丘陵での実測を継続するとともに、2年目の計画で残されている国分寺崖線沿いの緑地ほかを対象に、実測を継続していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
設備備品の購入はなく、今年度に購入した測器を使って実測を継続するための、超音波風向風速計・設置用治具の修理および追加のための費用、ならびに気温測定用の日射遮蔽シェルター(自作)の修理と追加のための、金具、ネジ類、結束バンド、アルミテープ、などの材料費が主な支出となる。加えて、超音波風向・風速計用のバッテリーと温度ロガー用のバッテリーパックの購入が必要となる。なお、今年度と同様、街路灯への測器の設置に伴う、道路占有料・申請料などの発生がある場合はそれにあてる予定である。また、成果の公表のため、論文投稿料を計上の予定。
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