Project/Area Number |
23560709
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Research Institution | Nihon University Junior College |
Principal Investigator |
吉野 泰子 日本大学短期大学部, その他部局等, 教授 (90269499)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
張 晴原 筑波技術大学, 学内共同利用施設等, 教授 (70227346)
井上 勝夫 日本大学, 理工学部, 教授 (30102429)
三上 功生 日本大学, 生産工学部, 助教 (80434124)
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Keywords | 中国西部 / 気候 / 居住環境 / 伝統民居 / 実測 / アンケート / サステイナブル / 省エネルギー |
Research Abstract |
中国西部地域は,発展途上にあり,省エネ,低炭素社会への環境技術に磨きをかけ,環境保全を図りつつ,経済成長と地域活性化が両立することを念頭においている。そこで,本研究は中国西部の気候・居住環境を中心に,物理量測定及びアンケート調査を推行し,当該地域の気候と環境特性を把握した上で,健康的で持続的発展可能な居住環境の建設技術やライフスタイルのあり方を提唱し,自然エネルギーに適応した新型省エネ住宅を提案することを意図している。 平成24年度の調査では中国南西部の雲南省臨滄市滄源ワ族自治県と四川省成都市新都区の伝統民居を対象とし,西安建築科技大学と共同で居住環境測定を行った。住戸の室内外温湿度,PMV値,太陽放射(日射量・紫外線),光,騒音,粉塵量,CO,CO2,真菌と化学物質などの実態を計測し,住民の環境意識を併せて調査したので, その結果について報告する。 滄源ワ族自治県の居住環境特徴は以下の通りである。①夏季・冬季ともに日射量が豊富なことから,太陽熱,太陽光発電の可能性がうかがえる。②居間,寝室の温熱環境に顕著な差異は認められないが,夏季においては,湿度が80%超と著しく高い。③住戸内における採光,通気性の改善が望まれる。④室内は粉塵量が高く,冬季においては湿冷環境下にあることから,健康問題が懸念される。⑤囲炉裏がライフスタイルに与える影響が大きい。成都市の場合(夏季調査のみ),①太陽放射量が少ない,年間を通し湿度が高い。②土間床の温度低減効果が顕著である。③夏季の快適感(PMV)ではやや暖かい結果となった。④屋根の熱負荷が大きく,材料と断熱の検討を要する。⑤屋内の粉塵量が高く,改善対策が要される。空気環境における浮遊真菌濃度の上昇には,土間床の影響が考えられる。滄源ワ族地域においては,居室と家畜飼育空間の分離等により衛生状況の改善が望まれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の現場測定のための機器一式は,日本からの持ち込み,あるいは従来の日中共同調査で培われた信頼関係に基づく,西安建築科技大学劉加平教授の裁量による人的支援,設備供与が期待できる。10数年間交換留学生や客員研究員として,積極的に国際学術交流を推進している。 海外共同研究者として,劉加平教授は現地建設庁及び気象局と協力関係にあり,これまで西安建築科技大学を中心に,新疆大学,重慶大学,北京大学,清華大学,上海同済大学,湖南大学,香港理工大学等の教職員と,毎年実施される国際ワークショップやメールにて意見交換を行っている。また,中国人留学生として来日していた王岩氏が博士研究員後,共同研究者として在籍していることで,当該研究体制づくりも整備されている。 平成23,24年度の実測調査により,中国西部の新疆ウィグル自治区トルファン市,甘粛省張掖市粛南ユグル自治県,雲南省臨滄市滄源ワ族自治県と四川省成都市新都区の居住環境実態が把握できた。 一方,大都市にあってはエネルギー消費の増大に伴う大気汚染やヒートアイランド現象が大きな社会的問題となっており,筆者は,吉野博(東北大学)らと共に,平成13年度から4ヶ年に渡り北京,上海,ハルビン,西安,重慶,武漢,広州,香港など,8都市の住宅において,ライフスタイル,室内熱空気環境,エネルギー消費量などの実態をアンケート調査と実測等から明らかにすると共に,数値計算により省エネルギー技術,持続可能な居住環境形成技術の開発に携わり,2006年5月,日本・中国・韓国建築学会から「Best Paper Award 2005」として顕彰された。 以上のように,中国西部地域の住宅環境特性を把握した上で,持続的発展可能な伝統民居や都市居住の建設技術のあり方を提唱し,当地に自然エネルギー対応の新型省エネ住宅の建設モデルを提唱することを目的としている。
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Strategy for Future Research Activity |
中国西部地域における建築設計用気象データを分析する。太陽熱の有効活用が期待される西部で,持続可能な環境共生技術を開発し,伝統民居の長所を現代住宅に適用し,農村ではバイオヴィレッジ建設構想を,都市部では,気候風土を反映したパッシブ建築設計手法を導入し,シミュレーションによる検証を経て実用に供する。 都市集合住宅と農村伝統民居の物理量測定結果から,住宅の基本モデルを構築し,熱伝導率などの物性値,エネルギー消費量を適用し,Simulation soft STREAM, Thermo Renderを用い,住戸内外の温熱環境を検討し,自然エネルギーを導入した自立循環型住宅を提示する。 2005年「中華人民共和国再生可能エネルギー法」が決議され,国内の深刻なエネルギー不足問題を解決するため,農村地域の再生可能エネルギーの開発利用が推奨されている。これは,農業構造問題が農村と都市部との所得格差を引き起こし,経済発展を遅らせることが背景にある。また,西部地域は地理上家畜の養殖に非常に適し,畜産業の高効率化による農民の収益増を掲げ,年々産業規模を拡大してきた。本構想は,それらの背景を考慮し,西部地域にバイオマス資源利用システムを整備することにより,住環境の快適化,かつ当地域の牧畜産業構造改革の実現に繋がることを意図している。 このバイオマスヴィレッジ構想は,遊牧民定住計画の一案であり,伝統に準じた住まいと畜産業が共存するライフスタイルを配慮しつつ,新たにエネルギーの地域連携を前提に,地場産業の育成と省エネルギー村落の両立を図る。住民はメタンガスの原料となるバイオマス資源を提供し,地域メタンガスボイラーにより,熱を供給する。また,将来コジェネレーション発電装置を加えれば,発電も可能となる。更に,当地域は太陽光資源が豊富であり,太陽熱温水器を各住戸に搭載し,暖房や給湯の熱源利用に適用する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
①西部地域住宅の実測調査結果から,住宅の基本モデルを構築し,建築材料の熱伝導率などの物性値,エネルギー消費量を適用し,自然エネルギーを導入した自立循環型住宅を提示する。 ②中国西部地域の居住環境特性に応じた新型省エネルギー住宅設計ガイドラインを提案する。 ③地場産業の育成と省エネルー村落の実現を目指し,バイオヴィレッジ構想を提案する。 ④成果物の公開,出版業務に向け,助成金の使途に人件費を適用する(学術論文の投稿,国際会議の参加など)。
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