2011 Fiscal Year Research-status Report
ネットワークとマルチエージェントシステムを用いた街路構造と歩行者流動に関する研究
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23560715
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤井 明 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (20126155)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | マルチエージェントシステム / ネットワーク / 街路 / 歩行者流動 |
Research Abstract |
本研究は、ネットワーク分析とマルチエージェントシステムとを併用することによって、都市の街路における歩行者流動のシミュレーションモデルを提案するもので、歩行を誘発する、(1)都市街路の物理的な形態と構造、(2)歩行者と施設との社会的・経済的な相互作用という二つの要因を織り込んだ実態に近い街路空間と歩行者流動の関係性を考察するものである。 都市要素を簡略に描写する基本構造はネットワークで、動的な変容はエージェントモデルで表現し、両手法の原理的な特性を補完的に組み合わせることにより、構造とプロセスの間に介在する関係性を把握する。歩行者流動は実データが存在するため、それと対照することによって、モデルの有効性をある程度、検証することができる。こうしたモデルは、街の要素を改変したときの影響や、将来的な街作りに対して、安価で操作が容易なシミュレーションとして実用性を有するものと思われる。 今年度は、街路空間をネットワークに移し換える手法を決定した。現実の街路空間における現象を注意深く観察することによって、マルチエージェントシステムにおけるエージェント・環境の属性とルールを措定し、その後、ネットワーク分析とマルチエージェントシステムを融合したシミュレーションモデルを電算機上に実装した。 本研究の独創的な点としては、静的・動的なふたつの分析手法を融合したものであることが挙げられる。ネットワーク分析と自己駆動粒子としてのエージェントの組み合わせによる分析には先行研究があるが、これは通勤のように限定された目的があるときに、脇目もふらずに行動するようなエージェントを想定しており、実際の都市における歩行者のような複雑な行動を記述するものとは異なる。気まぐれな行動をふくむエージェントと環境(街路)との相互作用を通して、創発するパターン(歩行者流動)をとらえるものとしては、先進性があると自負している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時に初年度の計画としていた、街路空間をネットワークに移し換える手法の決定、マルチエージェントシステムにおけるエージェント・環境の属性とルールの措定、そして、ネットワーク分析とマルチエージェントシステムを融合したシミュレーションモデルの電算機上への実装のすべてについて、ほぼ当初見込みの成果を上げることが出来ている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度には予備的検証データを用いたケーススタディとして、シミュレートモデルを実在する街路空間と歩行者流動に適用して、パラメータやルールの調整を行いつつ、モデルの有効性や限界性を確かめる。街路空間にも場所や時間によって異なるさまざまな様相があり、実際の現象に適用してその再現性を確認する作業は不可欠であるが、そのための充分な時間と作業を確保する必要がある。現象とモデルとの間で、緊密なフィードバックを行い、プログラムを少しずつモディファイしてゆく。また、こうしたモデルでは、その完成度を高めると共に、結果をわかりやすい形で表現することも重要で、そのためにはグラフィックスとしての表現にも留意し、わかりやすいプレゼンテーション用のメニューをいくつか用意するつもりである。 最終年度には条件の異なる具体的な街路空間における事象に適用して、その解析を行うとともに、再開発計画案等の予測シミュレーションを行う。現実に観察される歩行者流動には様々なパターンがあるが、そうしたパターンを創発させるパラメータやルールの範囲や組み合わせを洗い出し、賑わいが感じられるような望ましいパターンはどのようなものか等、計画学的に有用な知見を整理する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
計算機を用いたシミュレーションとその分析が研究の主要な内容である。 研究経費の大半は、シミュレーションモデルを作成するための電算機環境を整備することと、モデルの有効性を検証するための適用事例を作るための資料の収集や整理に費やされる予定であった。この予定に変更はないが、モデル開発時には、シミュレート実行時ほどの電算機環境の安定性は必要でないことがわかってきたため、当初初年度を予定していたモデル専用機の購入を次年度に先送りすることとした。電算機の性能向上とコストダウンは、数ヶ月であっても相当に進むので、研究費の有効活用という観点からも、購入を遅らせることには意味がある。あわせて、街路と歩行者行動データのデータベース化(入力、保守・管理)についても、平成23年度はモデルの実装に最小限必要なだけにとどめ、専用機の投入後本格化することとした。連携研究者との打ち合わせもまた、次年度以降のシュミレート本格化以降に多くの回数を持つことができるように、予定を変更した。 これらの変更は研究計画の根幹に関わるものではない。そのため、ここに記載した事項を除いて、ほぼ予定通りに研究を進めることができる。
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