2012 Fiscal Year Research-status Report
城下町高田・港町直江津・在郷町稲田の比較をとおしてみた雁木町家の居住特性
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23560720
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
黒野 弘靖 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (80221951)
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Keywords | 住宅論 / 町家 / 雁木 / 水路 / ミチ |
Research Abstract |
現在も維持されている日本の伝統的な街路空間〈雁木〉の景観について、それが支えられてきた空間的しくみを明らかにすることを目的とする。居住特性とは、住居と共用空間とのシステム化された対応関係をさす。これには当初の設定や居住者による働きかけも含 まれるものとする。上越市にある城下町〈高田〉・港町〈直江津〉・在郷町〈稲田〉の雁木通りの景観的相違を、それぞれの街で共用空間と町家との間で利用と所有の関係が調整された結果と捉え、変容過程からその相補的な関係を分析し、伝統的な景観が保持されてきた住み手の側の根拠を把握する。 この目的を達成するため、平成24年度には、港町直江津のうち南北方向に雁木通が延びる裏砂山町通と中町通を対象として、①雁木通をはさんで向かい合う4軒ずつの並び(合計8軒)についての配置図・平面図・敷地断面図の実測、②共用空間と住居の相補関係の変容過程の把握という2段階の調査をおこなった。 敷地の奥行きは約15間(約27m)あり、敷地裏側は段差となっている。段差の下に敷地境界に沿って排水路が流れる。これは町の境界を兼ねている。付属屋をもつ場合には奥行き一杯に建てられること、屋敷構えは雁木1間、主屋(ホンヤ)6間、ロウカ4間、付属屋4間と奥行きの寸法が揃っている。平面にはトオリニワがあり、主屋からロウカを経て、付属屋のアマヤを通り、敷地裏に出ることができた。共用空間として、表側の雁木または道路中央に共用井戸があった。組単位で越冬野菜を洗うことにも利用された。上水道の敷設後に道路の共用井戸はなくなった。現在も水栓が雁木に設けられ、漬け菜を洗っている。水廻りをミセに設ける町家もある。直江津祇園祭では縁台を雁木に置き山車を待つ。夏季には知人が腰掛け話しをした。このように水利用とそれに対応した屋敷構えと平面が、組単位で居住者をつなぐ契機となっていると把握できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の目的は、上越市にある高田・直江津・稲田の雁木空間の景観的相違を分析するとことにある。平成24年度は、3カ年の2年目に当たり、港町直江津の雁木空間について実測調査をおこなう予定していた。その予定は達成している。詳細には、一ヶ所の雁木通地区を調査対象と予定していたところ、裏砂山町通と天王町通の2ヶ所を実測することができた。当初計画では、隣棟間隔の大きい雁木通りを持つ直江津町家の要因として、海運業や問屋業に携わる点を予測していた。実測と聞き取りの結果、生業にかかわらず雁木をもたず塀と前庭を構える間口の大きい町家が存在することを確認できた。間口の大きな町家では土蔵を持ち、その前面を吹き抜けのあるチャノマに面させている例が多い。この特徴的な内部空間の生成過程として、聞き取りより、主屋を建て替える際に土蔵を残しチャノマを隣接させ、土蔵内部をザシキに割り当てるという改修プロセスを確認できた。通常間口(3間)の雁木町家では、敷地奥行きは約27mで、敷地裏に畑は持たず、雁木通りに共用井戸を設け、洗い場としていた例が多い。洗い場を含む雁木通りが隣戸とのつながりをもたらす場となっている。上水道の敷設に伴い、水廻りをミセに設け、雁木に面して水栓を設けた改修は多い。現在も雁木で洗い物を行っている。直江津祇園祭では縁台を雁木に置き山車を待つ。夏季には近隣住民が腰掛けて話しをした。このように水利用とそれに対応した屋敷構えと平面が、組単位で居住者をつなぐ契機となっていると把握できた。こうした成果を得たことから、「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、同じ上越市にある在郷町〈稲田〉の雁木町家について、実測調査を進める予定としている。さらに城下町高田や港町直江津との居住特性の比較検討を行う。在郷町稲田は、用水路が南北に流れ、その両側に道路がとおり、雁木町家が並ぶという特徴的な構成をしている。城下町高田や港町直江津の雁木通りとは異なる景観上の特徴が相隣関係にもとづく配置構成の規則性とどのように関連しているかを把握する。 用水の両側に雁木通りが残る在郷町・稲田1丁目の2地区について、連続する屋敷の実測を行う(①段階の調査)。さらに、近代を通じての居住特性の変容過程を把握する(②段階の調査)。具体的には、明治26年と昭和初期の地籍図、昭和39年の空中写真により、共用空間ならびに屋敷を含めた所有と利用の状況を把握する。とくに稲田では耕地を所有していた雁木町家が多く見られる。こうした雁木町家の土地所有、水系、屋敷構え、平面構成の対応を把握する。明治26年頃と昭和39年頃における居住空間を復原的に図化し、現況図と併せて、近代以降の居住特性の変容過程を明らかにする。実測と資料整理(図面の電子データ化)については、大学院生6名による6日間の補助を得て進める。すでに実測調査した城下町〈高田〉、港町〈直江津〉と図面と変容過程を比較し、それぞれの固有の街路景観が成立し持続してきた要因を把握する。 連携研究者との研究報告会については、平成24年度には研究代表者の勤務先で実施したため、予定されていた旅費を平成25年度に繰り越した。平成25年度に連携研究者の勤務先での報告会を計画している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、最終年度にあたるため、上記の推進方策にしたがった使用計画とする。すなわち用水の両側に雁木通りが残る在郷町〈稲田〉の2地区において連続する屋敷の実測を行う。これに旅費と図面作成の謝金を使用する。 また、明治26年と昭和初期の地籍図、昭和39年の空中写真、用水関係資料の複写と購入に消耗品費を使用する。現況ならびに明治20年代と昭和30年代における居住空間を断面図と平面図に図化し、近代以降の居住特性の変容過程を把握する。実測と資料整理(図面の電子データ化)を大学院生6名による6日間の補助を得て進める。この作業に謝金を使用する。 前年度までに実測調査を実施した城下町〈高田〉と港町〈直江津〉について、雁木通りと井戸と水路の位置関係を補足調査し、明治20年代と昭和30年代における居住空間を断面図と平面図に復原的に図化する。これに旅費と謝金を使用する。こうした図化作業を行うため、CADと画像レイアウトのソフトウェアを消耗品として購入する。 連携研究者との研究報告会については、平成24年度には研究代表者の勤務先で実施することになったため、予定されていた旅費を平成25年度に繰り越した。平成25年度には連携研究者の勤務先(九州大学)での報告会を行う。このため研究代表者と協力者全員が旅費を使用する。これに先立ち連携研究者と研究代表者が研究打合せを行うために旅費を使用する。 このほかに研究代表者が日本建築学会で成果発表するために投稿料と旅費を使用する。
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