2011 Fiscal Year Research-status Report
ワイマール期ドイツにおける労働者向け住宅建設の理念と実践に関する研究
Project/Area Number |
23560765
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
中江 研 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40324933)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ドイツ / モダニズム / ジードルンク / 住宅政策 / 戦間期 |
Research Abstract |
本研究は,ワイマール期ドイツにおける労働者向けの大量の住宅供給に関して,建築界のみならず主婦層や衛生学者,政治家などを含むさまざまな職能や社会階層の主張や論争,および各ジードルンク(住宅団地)の建設や各種の住宅政策を分析することにより,広範なその理念と実践の史的展開の解明を目的とするものである。2011年度は,住宅政策の大きな転換点となる世界恐慌前後の時期における国政レベルの住宅政策の決定過程の把握を試みた。2012年3月27日~4月11日の日程で,ドイツ・ベルリンの連邦資料館等において,1920年代後半から30年代初頭の国家政府資料等の収集を行った。そのうち,1930年末に採択された住宅制度のための政府大綱に特に着目し,草案からその採択に至るまで,どのような議論がなされたかという点について,これと先に入手した国会議事録等との照合を進めた。1929年に国家労働省において作成された同大綱の政府草案をめぐり,政府による草案策定から国家暫定経済協議会のジードルンク制度・住居制度委員会での審議に移り,さらに秘密裏に進められるはずの草案審議を政府自らが国会の場に持ち出し,論争の場は国会に移される。国会では各政党から種々の修正案が出され,ようやく1930年末に採択される。各修正案には各政治家・各政党の住宅政策が反映されているが,それは制度としてのみならず労働者の住宅形式そのものへの言及も含まれている。こうした経緯の把握から,1930年開催の第3回CIAMの場や雑誌上で展開されたヴァルター・グロピウスら高層住居派とフーゴー・ヘーリンクやルードヴィヒ・ヒルバースアイマーら低層住居派との高層低層論争も,こうした国政レベルでの議論と並行したものであり,住宅政策に関する政治家の議論と建築家たちの住宅の計画理念の議論が深く呼応する状況にあったという知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2011年ドイツで生じた病原性大腸菌による食中毒の大流行に配慮し,当初の現地資料収集の予定を繰り下げたこと,また資料の収集を通じて,国会議事録等の資料の把握が研究目的の達成に重要であるという認識にいたり,当初の計画では対象としていなかった資料の収集を行ったことにより,計画に比していくぶん遅れが生じている。一方で対象としていなかった国政レベルでの議論の把握が進んでおり,総体としては若干遅れているものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画では,建築家・都市計画家,衛生学者等,専門分野ごとに分けて順次分析していく予定であったが,2011年度に収集した国会審議資料から判断して,複数の専門家が同時的に関与する状況であることが分かったため,国家方針を決定していく政治家・官僚の議論を先に検討し,その論点との関連で,建築家・都市計画家をはじめとする各界での議論,実践を検討し,論点と議論の展開についての整理・考察を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2011年度の予算執行率が低くなっているが,これは2011年ドイツで生じた病原性大腸菌による食中毒の大流行に配慮し,当初の現地資料収集の予定を繰り下げ,年度を跨いだ2012年3月27日~4月11日がとなったために,渡航費の支出が2012年度初頭に繰り下がったこと,また予定より期間を短縮したことで生じた。2012年度はベルリン国立図書館,ベルリン工科大学図書館,フンボルト大学図書館,ドイツ連邦資料館等において複数回の資料収集を行う予定である。
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