2012 Fiscal Year Research-status Report
戦前期日本における製糖業を支えるネットワークの形成過程と特質に関する研究
Project/Area Number |
23560769
|
Research Institution | Prefectural University of Kumamoto |
Principal Investigator |
辻原 万規彦 熊本県立大学, 環境共生学部, 准教授 (40326492)
|
Keywords | 国際情報交流 / 台湾 / 樺太 / 日本史 / 工場 / 社宅街 / 植民地 / 北海道 |
Research Abstract |
本研究では,戦前期日本の影響下にあった諸地域,すなわち台湾,南洋群島,樺太,朝鮮ならびに満洲と日本国内における製糖・精糖業によって形成された都市もしくは街を対象に,製精糖工場とそれを取り巻く社宅街の建設過程を,現地調査や文献調査により詳細に検討することを目的としている。平成24年度は,具体的には以下のように研究を進めた。 2012年8月に北海道とサハリンを訪問した。北海道では,帯広市図書館と北海道立文書館などで北海道と樺太の製糖業に関する資料を閲覧・複写した。サハリンでは,現在のユジノサハリンスクに,第二次世界大戦前に建設された旧樺太製糖豊原工場の工場と社宅街を対象に現地調査を行った。 2012年9月に台湾を訪問し,19ヶ所の製糖工場(跡)を対象に,戦前期の台湾における製糖工場と社宅街に関する現地調査を行った。これまでは訪問できていなかった戦後の比較的早い段階に閉鎖された工場や建築物などが残存していない工場を中心に調査した。その結果,戦前期に存在していたほぼ全ての製糖工場と社宅街の位置と範囲をほぼ同定することができた。これまでは台湾側でも情報が一元化されておらず,位置などが不明な工場もあったが,今回の調査で,戦前期の工場と社宅街の全容を把握できたと考えられ,大きな成果である。また,前年に引き続き,中央研究院所蔵の戦後期(民國50年代)に撮影された製糖工場の空中写真を閲覧した。 文献調査などについては,2012年4月に台湾協会と(台湾)交流協会(いずれも東京)を訪問し,台湾の製糖業に関する資料を閲覧・複写した。また,国立公文書館を訪問し,北海道の製糖業に関する資料を閲覧・複写した。2012年6月に北海道を訪問し,北海道立文書館などで北海道と樺太の製糖業に関する資料を閲覧・複写した。2012年11月に国会図書館を訪問し,樺太,朝鮮や台湾などに関する外邦図などを閲覧・複写した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究実施計画では,平成24年度には,1)戦前期の台湾のおける製糖工場と社宅街に関する現地調査,2)戦前期の樺太における製糖工場と社宅街に関する現地調査,3)日本国内の精糖工場と社宅街に関する現地調査,4)戦前期の沖縄,朝鮮,満洲における製糖教場と社宅街に関する調査の継続,5)史料/資料所蔵リストの作成と公開,の5項目を実施する予定であった。 このうち,1)と2)については,平成24年度中に,台湾とサハリンでは現地調査を行うことができた。サハリンでは,これまで詳細が不明であった旧樺太製糖豊原工場の建築物の残存状況を明らかにし,一部ではあったものの社宅の実測調査も行うことができた。台湾については,前述の様に,戦前期に存在していたほぼ全ての製糖工場と社宅街の位置と範囲をほぼ同定できただけではなく,各工場と社宅街の建物や社宅などの現存状況を調査し,記録することができた。ただし,研究を完遂できたわけではなく,補足調査が必要な点も残っている。 また,4)についても,継続して鋭意資料収集に努めて研究を進め,特に沖縄本島に建設された3工場については,その概要が明らかになってきた。さらに,5)についても,全てではないものの,台湾の史料/資料の所蔵状況について,日本建築学会九州支部研究報告で報告した。 ただし,3)についての作業は遅れており,現地調査を行うことができないままに平成24年度を終えてしまった。今後の課題である。 このような進捗具合から,全体的には順調に進展しているものの一部の項目(上記の3))については作業が遅れているため,「やや遅れている」と評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度の平成25年度では,申請段階では,製糖業を支える運搬・交通ネットワーク全体に関する調査を進めることになっており,具体的には,以下のような項目について研究を進めることとしていた。 1)戦前期の満洲における製糖工場(哈爾浜と奉天)と社宅街に関する調査,2)製糖業を支える輸送システムとネットワークの形成が周囲の都市や市街地の与えた影響に関する文献調査,3)各地の製糖工場と社宅街に関するこれまでの調査の継続,4)史料/資料所蔵リストの作成と公開の完成,である。さらに,①製糖業を成立させるためのネットワークの形成,②工場とそれを取り巻く社宅街と都市全体,もしくは周囲の都市や市街地との関係性,③気候にあわせた居住システムの構築,の3つの視点から,東アジアの歴史の新しい理解の枠組みを提示することを目標に,東アジア全体を視野に入れて,製糖業によって形成された都市もしくは街とネットワークについて考察を行い,得られた結果をとりまとめ,成果の発表を行う予定であった。 しかし,今年度中の7月から10月までの4ヶ月間,台湾外交部(外務省に相当)から台湾奨助金を得て,台湾に長期滞在し,「製糖業における社宅街の建設が台湾の都市開発に与えた影響」について研究できることになった。そのため,上に示した課題に鋭意取り組むことはもちろんであるが,当初の予定よりも台湾での調査・研究をより一層深めることを第一の課題としたい。当初は,台湾における工場と社宅街については,まずは概況を明らかにできれば十分と考えて研究を進めてきたが,この機会にもう一歩踏み込んで詳細に調査を進め,研究を行いたい。その上で,残された期間に,当初予定していた課題にできる得る限り取り組むこととしたい。特に,平成24年度に積み残した課題である日本国内の精糖工場と社宅街に関する現地調査については,鋭意取り組む予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度では,以下の様に研究費を使用する計画である。合計984千円(当初計画額:900千円,前年度未使用額84千円)。 消耗品費:270千円。うち,図書・各種史料/資料(植民地関連図書,製糖業関連図書)100千円,図書・各種史料/資料(鉄道,海運などの交通関係図書)100千円,一般文具(ファイル,筆記具,ノート,記録メディアなど)70千円。 国内旅費450千円(国内の精糖工場の現地調査320千円(東京方面70千円×3回,関西方面70千円,福岡方面50千円),沖縄の製糖工場の補足調査70千円,成果発表50千円)。 謝金など:158千円。これまでに蓄積した資料の整理補助(2人×14日間)。 その他:106千円。うち,航空写真購入費60千円。複写・印刷費46千円。
|
Research Products
(2 results)