2012 Fiscal Year Research-status Report
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23560773
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Research Institution | Tokyo Kasei Gakuin University |
Principal Investigator |
大橋 竜太 東京家政学院大学, 現代生活学部, 教授 (40272364)
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Keywords | 歴史的建築物 / 保存・再生 / 防災 / 安全 / 制度 / ニュージーランド / 東日本大震災 / 国際情報交換 |
Research Abstract |
歴史的建築物を保存・活用していく際の安全性確保に関わる諸問題について、平成24年度は、主としてニュージーランドの実践的手法に関して、検討を加えた。文献、インターネット等による情報収集に加え、首都ウェリントンで関係者に聞き取り調査を実施した。 ニュージーランドでは、原則として、歴史的建築物であっても他の新築建築同様の安全上の規制がかかる。ただし、文化財建築物に関しては、個別に安全性の確保を検討すれば、緩和規定がある。その手法はきわめてシステマティックで、各建築物に対し、保存計画書(Conservation Plan)を作成し、構造上の特質、使用材料等を明確にしたうえで、防災計画を立て、さらには設備等の点検法などの具体的な手法まで、詳細に定めている。この保存計画書は、わが国の歴史的建築物の安全性確保の指針を作成するうえで、非常に参考になると考えられる。このように、ニュージーランドでは、歴史的建築物に対する安全性の確保に関して、積極的に対策を講じてきたが、2011年1月に発生したクライストチャーチの地震では、歴史的建築物の倒壊によって、尊い人命が損なわれるという大惨事が発生してしまった。そのため、現在、急速に歴史的建築物の安全対策が再検討されており、その内容は、わが国の将来にとっても重要となることであろう。 一方で、わが国でもニュージーランドとほぼ同時期に、東日本大震災が発生した。さまざまな調査の結果、幸いにも、歴史的建築物に関しては大きな被害は少なかった。とはいっても、被災した歴史的建築物の数は膨大で、個々の事例について保存・活用の可能性を検討されている。その際、地震の教訓から、安全対策が検討されはじめた。しかし、海外と比較すると遅れをとっており、保存の先進国の事例を参考にしながら、総合的な検討が望まれており、その手法の提示が、今後の課題として残された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究に関してはおおむね順調である。 アメリカならびにニュージーランドで行われている歴史的建築物の安全対策の実情に関して、ほぼ調査を終了することができた。今後、これら資料を整理し、発表をする準備をしているところである。ただし、歴史的建築物の保存の際の安全確保については、近年、急速に検討が進められている分野であり、すでに調査を終えたアメリカやニュージーランド、さらにはヨーロッパ諸国の最新の動向についても注目していく必要がある。特に、ニュージーランドでは、クライストチャーチ地震以後、制度そのものの見直しがすすめられており、調査の継続が不可欠となる。 また、今後、検討オーストラリアやインドといったアジア・オセアニア地域の国々の現地調査を実施しようと考えているが、関係者へのアポイントがなかなかとれず、情報収集にやや苦慮している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの調査・研究によって、歴史建築物の保存における安全性の確保は、伝統的に、各国で独自の手法で行われてきたが、近年、これまでの手法では十分ではないと認識されるようになり、各国で他国の手法の長所を取り入れた最新の手法が検討されつつある。これらの手法は、まだ、確立されたものではなく、検討課題も多い。そこで、本研究では、現在、この問題について注目している国を対象として取り上げ、その実情および検討内容について分析し、わが国の今後に役立てる。特に、イコモス等の国際的な機関で、今後、協力関係が期待されるアジア・オセアニア地域の国々の実情について検討を加えていく。 また、わが国でも、東日本大震災を経験したことにより、歴史的建築物であっても、安全性の確保は重要であるという認識が高まってきている。そこで、東日本大震災の復旧計画のなかで、わが国における建築保存における安全性確保に関する課題を整理し、その解決法を提案していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、これまで同様に、歴史的建築物の保存に積極的なアジア・オセアニア地域の国について、保存の際の安全性確保の実情について、文献調査ならびに現地での聞き取り調査を実施する。現在、対象国として検討をすすめているのは、インド、オーストラリア、香港であり、これらのうち一か国の現地調査を実施する予定である。そのために、研究費における海外調査旅費の占める割合が多くなることが予想される。 また、現在、東日本大震災で被害を受けた歴史的建築物の修理工事が各地ですすめられている。わが国の歴史的建築物の保存における安全性の確保に関する問題を明らかにしていくために、これらの事例の調査は不可欠となる。そのため、現地調査のための国内旅費も必要となる。
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Research Products
(6 results)