2013 Fiscal Year Research-status Report
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23560773
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Research Institution | Tokyo Kasei Gakuin University |
Principal Investigator |
大橋 竜太 東京家政学院大学, 現代生活学部, 教授 (40272364)
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Keywords | 歴史的建築物 / 保存・再生 / 防災 / 安全 / 制度 / 東日本大震災 / 国際情報交換 |
Research Abstract |
本研究では、歴史的建築物を保存・活用する際の安全性確保にかかわる諸問題について、諸外国の対応の調査研究とわが国の現状把握の2点から検討を加えている。 前者に関しては、平成25年度は、インドの文化財保護の現状について、現地調査を実施した。関係者へのインタビューによって、インドの文化財保護は、世界遺産などの国が管理する文化財に関しては、文化財保護関連法にもとづき手厚い保護がなされており、修復工事等に関しても高く評価できる点が多々見受けられた。しかしその一方で、安全性の確保といった観点からは、消防等の他の部局との連絡が十分ではなく、課題が多く残されている。また、最近では地域の文化財の保護を積極的に行うようになり、地方自治体の果たすべき役割が大きくなってきたが、その対応も万全とはいえない。特に、歴史的地区には木造密集地区が多く、防火対策等の安全性の確保に関しても早急に取り組まなければならないところであるが、地方自治体が管轄する消防等との関係はまったくといってよいほど検討されておらず、問題が多く残されている。今後、さらなる情報交換と改善に向けた検討が望まれる。 他方、わが国の歴史的建造物の保存・活用における安全性の確保に関しては、東日本大震災の調査を通して、災害時の歴史的建造物の対応について考察し、震災による歴史的建造物の被害概要をまとめるとともに、災害後の対応の問題点等を整理した。また、これら経験をもとに、阪神淡路大震災後に作成されたさまざまなマニュアル等を再検討し、修正を加えた。その際、建築構造の専門家、施工業者等と情報交換を行い、自然災害等が発生した際にどのような対応をしたらよいか、災害発生直後の被災調査、応急措置、本格復旧と分けて、その対応の指針を示した歴史的建造物に特化したマニュアルの作成に取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東日本大震災の歴史的建造物の被害およびその対応に関する調査・研究に関しては、日本建築学会の活動や文化庁の文化財ドクター派遣事業との連携により、多数の情報を得ることができた。また、諸外国の事例収集に関しても、調査国(アメリカ、ニュージーランド、インド)の文化財保護制度および中央省庁の対応等に関しては、ほぼ計画通りの情報収集・分析を行うことができた。しかし、現場レベルの実務上の問題点等に関しては、日本とは文化財保存および防災の体制が異なっているため、なかなか適当なインタビュー対象者が見つけられず、十分な調査ができていない。今後、これらの情報をいかにして収集していくかが課題である。また、平成25年度は、研究成果を端的にまとめることができず、成果の公表といった観点からは十分とは言えない状況にある。平成26年度は積極的な研究成果の公表を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、本研究の最終年度にあたる。これまでの研究を継続するとともに、まとめにかかる。諸外国の調査に関しては、昨年度に引き続き、アジア・オセアニア諸国の歴史的建造物の安全対策に関する情報収集を計画している。調査対象国としてはオーストラリアを予定しているが、より適切なインタビュー対象者が見つかった場合は、調査国を変更する可能性もある。他方、わが国の状況の把握に関しては、平成24・25年度は東日本大震災の経験をもとに、自然災害が起こった後の対応に関するマニュアルの作成を行ったが、平成26年度は、災害に備えた事前の対応に関して検討を加える。また、震災後、3年以上が経過した段階で、被災した歴史的建造物がどうなっているか、現地でインタビュー等を行ないながら、追跡調査を行う予定である。同時に、各地で活発になってきたヘリテージ・マネージャーの活動可能性に関して検討を加えたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究の研究費使用額の多くは、海外調査および国内調査の旅費である。平成25年度は、閑散期に海外調査を実施したため、旅費の支出が予定より少なく済んだ。また、予定していた国内調査が、先方との調整がなかなかつかず延期となった。そのため、次年度使用額が生じた。 当該研究費は、海外調査費および昨年度予定していた国内旅費等にあてる予定である。
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