2011 Fiscal Year Research-status Report
明治期日本建築界の満洲調査における歴史的及び現代的意味
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23560781
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
奥冨 利幸 近畿大学, 建築学部, 教授 (70342467)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 近代 / 満洲 / 伊東忠太 / 大江新太郎 / 北京 / 瀋陽 |
Research Abstract |
本年度は研究計画のどおりに研究を実施した。主に満洲の寺院や宮殿の建築装飾に関する研究に重点を置き、北京と瀋陽及びウルムチなどの現地調査を実施した。瀋陽故宮の装飾模様や寺院、モスクの史料を収集、解読し、満洲における建築様式の独自性を確認するために、伝来元の寺院やモスクの平面構成、彩色の装飾模様などに関する調査を行った。よって、包頭のチベット仏教寺院、敦煌石窟の装飾模様、新疆のモスクなどを対象に現地調査を実施した。この現地調査と文献研究を合わせて、明治期の日本人による満洲建築調査が、当時の日本建築界にどのような影響を及ぼしたのかを分析した。具体的には、伊東忠太が1909年に提出した「建築進化の原則より見たる我邦建築の前途」(建築雑誌23巻265号、1909年)と大江新太郎の「満洲に於ける建築装飾に就て」(建築雑誌21巻243号、1907年)から7回に渡って建築雑誌に発表された満洲調査の報告との関連性を検証した。その成果は、奥冨「大江新太郎の満洲調査-近代日本の建築の将来を見据えて」(風媒社、2012年)、奥冨、包共著「大江新太郎の瀋陽故宮調査とその方法」(第13次中国近代建築史学術年会会刊『中国近代建築研究与保護 八』、2012年)、また、包「近代アジアにおける建築思想史序説:伊東忠太の建築論と中国フィールドワーク」(同、2012年)を発表した。本年度に発表した三つの論文は、伊東忠太と大江新太郎を取り上げ、彼らの満洲建築調査とその後の世界建築体系や進化主義の論説との関連性を分析し、近代アジア建築思想の初期段階の状態を明らかにした。これらの成果は、日本建築界の発展の軌跡を明らかにするばかりではなく、中国において、明治期の日本人による建築調査の成果を公表し、建築史研究としての意義だけでなく、今後の中国東北部の歴史的建築物の保存修復にも寄与できたと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
計画当初の瀋陽での歴史史料と現地の建造物を照合することができた。また、現地の連携研究者である陳伯超教授の協力も得て、瀋陽故宮の調査も順調に進んだ。また、満洲建築調査が、当時の日本建築界やその後の進化主義や伝統様式の継承などに如何に影響をもたらしたのかも明らかにした。それらの研究成果は、3本の論文にまとめて、日本と中国でそれぞれ発表できた。(1)宗教建築の平面構成、本年度は、満洲建築調査によって実測された寺院平面図などの史料を収集してリスト化した。平面図により、満洲地域の特徴、チベットからの影響なども分析した。また、調査対象建造物を現存と消失で分類した。(2)木軸煉瓦混合構造、伊東忠太と大江新太郎が満洲で調査した「木軸煉瓦混合構造」に関する見識と進化主義への関連を分析した。具体的に大江は、満洲の木と石、煉瓦の混合構造の優れた歴史的建造物から、その後の進化主義へと進む確信を得たと思われる。(3)装飾と色彩、大江新太郎の7回に渡る満洲の建築装飾についての報告を詳細に検討し、奥冨・包共著「大江新太郎の瀋陽故宮の調査とその方法」(第13次中国近代建築史学術年会会刊『中国近代建築研究与保護 八』、2012年)の論文を発表した。本論文では、アジアにおける建築史構築の黎明期に当たる1905年に大江新太郎が伊東忠太に随行して実施した瀋陽故宮調査を取り上げ、その調査報告を分析し、大江が瀋陽故宮(当時奉天宮殿)の建築をどのように理解、評価したのかを検証した。検証の結果、大江は、奥山恒五郎が行った北京宮殿装飾調査の分類手法を参考にして、文献から得た西洋建築の知識を十分に発揮して、さらに、生い立ちで得た装飾に関する知識を踏まえて、満洲建築装飾を類型化し、独自の美学観で分析したことを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、遼陽を中心に調査対象地を定めて、特に、宗教建築の平面構成、木軸煉瓦混合構造、彩色の三つのテーマで調査分析を実施する。(1)宗教建築の平面構成、主に仏教、チベット仏教寺院、モスクの平面構成を確認し、実測調査を実施する。そして、伊東忠太「満洲の佛寺建築」、佐野利器「満洲旅行談」の論文と比較照合しながら、現状を当時の状況と比較すると共に、西域からの建築様式の伝播も視野に検討を進める。(2)木軸煉瓦混合構造、木造の柱、梁のフレームに、煉瓦、日干し煉瓦、石などで壁を組込む混合構造である。木軸煉瓦混合構造の立面の構図や構造的(石壁、アーチ、煉瓦壁、木材の欄間)手法を考察する。瀋陽での調査結果も参考にしながら、構造形式の分類なども検討したい。(3)装飾と彩色、昨年度に実施した瀋陽故宮の調査結果と照らし合わせながら、満洲における装飾と彩色の特徴を検証すると共に、伊東忠太が明治期に実測した北京宮殿の彩画について書いた『支那建築装飾』などの論文も再考する。次年度も明治期の建築調査地での現地調査を進めて、資料の収集に努めると共に、当時の文献資料との照合作業も継続させて、満洲建築の特質と明治期建築調査の意義を解明したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度における研究費の使用は、大きく文献資料の購入、データ記録メディア、調査旅費、資料整理等への謝金、研究成果発表費に分類できる。文献資料では、日本と中国の近代建築、満洲の建築と都市、古地図類の購入に充てる。調査データはデジタル保存を基本とし、それに必要な記録メディアやデータ変換や読取り装置を購入する。調査旅費では、中国での現地調査と日本における文献調査のための旅費に充てる。調査記録の画像や図面は、デジタルデータ化を推進し、そのための作業に対する謝金を計上したい。また、研究成果の発表のため、論文の翻訳や投稿料、会議の参加費などに研究費を使用したい。
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Research Products
(3 results)