2012 Fiscal Year Research-status Report
明治期日本建築界の満洲調査における歴史的及び現代的意味
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23560781
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
奥冨 利幸 近畿大学, 建築学部, 教授 (70342467)
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Keywords | 近代 / 満洲 / 伊東忠太 / 大江新太郎 / 北京 / 瀋陽 |
Research Abstract |
本年度は、現地調査と調査データの統合及びそれを基づく新たな研究成果を発表した。 現地調査は、満洲の中心都市である瀋陽とその東部の伊東忠太らの調査区域へ行き、宗教建築の平面構成、木軸煉瓦混合構造、都城の構造に重点を置いて調査分析を行った。また、満洲の仏教建築に関して、東アジアの視点に立っての検証も試みた。 本研究の最終的な目的は、明治期の日本人満洲建築調査のデータを活かして、現代的な意義を与えることである。その具体的な目標には、歴史的な資料を満洲に現存する建築と照合、精査し、今後の保存と修復に活かすこと。また、建築史・都市史研究においては、新たな中国建築史、あるいは大きく言えばアジアから見た日本建築史、都市史の構築に向けた基礎的な研究にすることであるが、今年はそれを向かって確実な一歩を踏みだしたと言える。 国際的な発信では、台湾国立金門大学で開催された中国近代建築史研究第13回年会議において、「近代アジアにおける建築思想史序説:伊東忠太の建築論と中国フィールドワーク」、オーストラリアのメルボルン大学で開催された国際会議(Senior Academics Forum on Ancient Chinese Architectural History)において、「モンゴル帝国以降カラコルムにおける木造仏教建築について」を発表した。学術論文は、奥冨利幸・包慕萍著「大江新太郎の瀋陽故宮調査とその方法」、包慕萍著「13世紀中国大陸における都城構造の転換――カラコルムから元の大都へ」(玉井哲雄編『アジアからみる日本都市史』、山川出版社、2013年3月、pp.79-107)を刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度の瀋陽での調査結果と分析を踏まえて、さらに、瀋陽での文献資料の調査を継続すると共に、興京での建造物調査を行った。また、これらの調査結果を基に満洲建築として寺院建築等の様式や技法の類似性を検証すると共に、東アジアまで視野を広げて、満洲におけるチベット仏教建築から受けた影響を考察した。 これらの研究成果は、論文にまとめて、オーストラリアと台湾の国際会議で発表できた。また、日本で共著『アジアからみる日本都市史』を刊行して、アジアの視点から中国や日本の建築史を再構築することを行った。具体的には、明治に行われた満洲建築調査について、その調査の実態を明らかにし、調査結果がもたらした日本建築への影響、また、東アジアに視野を広げた場合の調査結果の意義などを検証することにより、多角的な視点から、本調査の意義を再考できた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、ヘトアラ、興京の民家と廟及び都城について、現状確認と史料との照合を目的に現地調査を行う予定で、調査分析点としては、(1) 民家のプランと構造、(2)商店のプランと構造、(3)都城の遺跡施設が挙げられる。 ヘトアラと興京は、満洲族の発祥の古地で、ヌルハチは1603 年から16 年間、首都にしており、現在も満洲族のオリジナルな建築文化を残している都市である。興京は、興京陵と言って、太祖ヌルハチが祖先を埋葬するために1598 年に築造し、1659 年に永陵に改称され、清朝の第一陵と呼ばれて、現在は世界遺産となっている。こうした歴史的背景も踏まえた調査を行う。また、開原と鉄嶺は、満洲の中核的な地方都市で、大江らが実測した民家や商店の遺物の現存状態を確認する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度における研究費の使用は、大きく文献資料の購入、調査データ、調査旅費、資料整理等への謝金、研究成果発表費に分類できる。 文献資料では、日本と中国の近代建築、満洲の建築と都市、東アジアの仏教寺院や都市、古地図類の購入に充てる。調査データはデジタル保存を基本とし、それに必要な記録メディアを購入する。調査旅費では、中国での現地調査と日本における文献調査のための旅費に充てる。調査記録の画像や図面は、デジタルデータ化を推進し、そのための作業に対する謝金を計上したい。 また、研究成果の発表のため、論文の翻訳や投稿料、会議の参加費などに次年度の予算内で研究費を使用したい。
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Research Products
(5 results)