2011 Fiscal Year Research-status Report
高精度拡散係数測定による金属融体の拡散メカニズムおよび動的挙動の解明
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23560790
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
鈴木 進補 早稲田大学, 高等研究所, 准教授 (10437345)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 拡散 / 融体 / 金属 / シアーセル |
Research Abstract |
本研究は、高精度拡散測定を行い高温融体の拡散メカニズムを明らかにすることを目的とする。本年度は、拡散係数測定、および測定値の信頼性評価を行い、不純物元素が拡散係数に与える影響を調べた。直径1.5 mmのキャピラリーを用いて、長さ3 mmの合金層(Sn-5at%Bi、Sn-5at%In、Sn-5at%Sb)から57 mmのSn層へ、拡散温度573 K、拡散時間28800 sで各合金元素を拡散させた。自然対流を抑制するために、重力方向に密度が増加する試料配置(安定密度配置)を用いた。拡散時間終了後、1本のキャピラリーを20個のセルに分離させて冷却し、それぞれに対してICPによる各合金元素の濃度分析を行った。得られた濃度プロファイルを用いて拡散理論式によるフィッティングを行い、各定量補正により液体Sn中の各合金元素の不純物拡散係数を算出した。一度に同条件で4本のキャピラリーを用いた拡散実験を行い、拡散係数の平均値と標準偏差を求め、測定の再現性を評価した。いずれの実験においても、得られた濃度プロファイルは薄い層からの拡散を記述する理論式でフィッティングすることができ、4回の同条件下の実験で得られた拡散係数測定値の標準偏差は3%以内であった。得られた拡散係数D[10^-9m^2/s]は、D(Bi)=2.46±0.05、D(In)=2.76±0.06、D(Sb)=2.84±0.08となり、D(Bi)は過去の微小重力を用いた拡散実験の参考値と一致した。以上の結果から、本実験での安定密度配置による自然対流の抑制効果を確認した。溶質元素との親和性が高いほど液体Sn中における不純物拡散係数が高くなることが明らかになった。また、文献値も含めて拡散係数が温度の約2乗に比例する式で記述可能であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H23年度に目標としていたシアーセル実験装置の製作及び動作確認が完了した。その後、安定密度配置による対流抑制効果を確認した。信頼性が確認された測定結果を用いて、溶媒との親和性など不純物元素種が拡散係数に与える影響など拡散メカニズム解明に有益な知見を与える結果が得られたため。
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Strategy for Future Research Activity |
拡散実験を行い,文献値を参考にしながら,以下の点を明らかにする。・ 液体構造と拡散係数 最近のX線や中性子回折実験や剛体球モデルにより、PbやAlなど多くの純金属液体は構造因子の第一ピークはなめらかであるが、Snは構造因子の第一ピークの高角度側にサブピークを持つことが知られている。多くの純粋液体では、等方的な等電荷密度分布であるのに対し、Snでは隣接イオンの間隙部分の一部に荷電子密度の高いあるいは低い領域が生じるような等電荷密度分布の挙動を示すことが原因と考えられる。このような溶媒原子における液体構造の違いは当然ながら拡散挙動に影響を与えると考えられるため、溶媒原子による差異の原因を液体構造の観点からも考察する。 ・粘性挙動と拡散挙動の関係拡散係数Dが、粘性係数の逆数(1/η)と温度の積に比例するというEinstein-Stokesの式を基にした拡散係数の温度依存性の理論式がいくつか提案されているが、これらが実験結果を正確に記述可能であるかは明確ではない。本研究で対流を抑制することにより得られた自己拡散係数データを用いて粘性挙動との関係を調べ、原子半径などの因子の影響を調べる。 以上の結果から、各因子が拡散係数に与える影響を定量的に評価することにより、従来提案されてきた液体中の拡散を記述する各種理論モデルを検証するとともに、新たな拡散係数の理論式を構築し、拡散メカニズムを解明する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度と同様に拡散実験を行う。本研究で対象とする溶質元素(溶媒元素)の組み合わせは、Sn(In、Bi、Sb、Ag、Cu)を基に随時他の系でも実験を行う。また、合金試料側に溶媒元素の同位体元素を混合し、安定密度配置による不純物拡散実験と同時に自己拡散係数を測定する実験も行い,文献値を参考にしながら以下の点を明らかにする。 ・溶質元素と溶媒の元素の原子半径比と拡散係数:同じ溶媒内でも溶質元素により異なる拡散係数を示す。また,SnとPbのように価数の等しいIVB族を溶媒とした場合、溶媒元素の化学的諸性質は似たものであると考えられる。これに対し、溶質元素をIn、Bi、Sb、Agなどと変化させた場合、これらの溶質と溶媒の間には溶質の大きさの差異、溶媒の自由体積の差異が大きく影響するものと予想される。従って、原子半径比が大きくなるほど拡散係数が小さくなると予測されるが、この関係を定量的に明らかにする。・ 溶質元素と溶媒の静電相互作用と拡散係数:溶質と溶媒の原子半径比が等しい場合においても、溶媒元素と溶質元素の組み合わせにより拡散現象に差異が生じることが予想される。この原因の一つとして、溶媒と溶媒の静電相互作用の違いを考え、その影響を定量的に評価する。・ 自由体積の変化と拡散係数の温度依存性:膨張率から求めた各温度での自由体積と拡散係数の関係を求めることにより、自由体積の変化が拡散係数に与える影響を定量的に評価する。
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