2011 Fiscal Year Research-status Report
パルスプラズマ化学気相成長法を用いた環境セル透過電子顕微鏡用隔膜の開発
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23560808
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
松谷 貴臣 近畿大学, 理工学部, 講師 (00411413)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 環境セル型透過電子顕微鏡 / 隔膜 / パルスプラズマ援用CVD / a-BCN薄膜 / a-SiCN薄膜 |
Research Abstract |
近年、透過電子顕微鏡(TEM)を使用し、金属酸化物に担持された金ナノ粒子の触媒の反応機構や生体試料等を各雰囲気化で観察する試みがなされている。この方法は、試料ホルダーに環境セルと呼ばれる容器を取り付けて行われる。電子線の発生は、高真空で行われるため、電子顕微鏡鏡筒内と環境セルの間には、電子線を透過し、かつ雰囲気圧力に耐えうる隔膜が必要となる。本研究では、電子散乱が少なく、化学的安定で機械的強度が高いアモルファスの窒素炭化ホウ素(a-BCN)を、パルスプラズマ援用化学気相成長法(p-CVD)により作製し、環境セル用隔膜として使用することを試み、その基礎的研究を行うものである。 平成23年度は、パルス幅およびパルス間隔を任意に変化できるパルスプラズマ発生用高圧電源を試作し、p-CVD法の開発を行った。窒素、アルゴンおよびトリメチルボレイトを原料とするp-CVDを行い、a-BCN隔膜を作製し、その特性評価を行った。さらに Cuメッシュ孔へのa-BCN薄膜作製技術を開発するために、トリアセチルセルロース(TAC)膜をCuメッシュ上に貼り付け、その後、p-CVDにてa-BCN薄膜を作製し、アセトンでエッチングすることでCuメッシュ孔上へa-BCN薄膜のみを残しテント張りを行った。TAC溶液からスライドガラス状にTAC膜を形成する際に使用する引き上げ装置を独自に開発した。作製した隔膜の耐圧を調べるために耐圧試験器を独自に開発した。 光電子分光法による評価では、窒素およびアルゴンの混合比を変化させることによって、膜中の窒素含有量を変化できることが明らかとなった。また基板から発生する光電子が皆無なことから、ピンホールフリーな膜が作製できていることがわかった。さらに透過電子顕微鏡による観察では、均一なアモルファスで、チャージアップによる影響が少ない膜が形成されていることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H23年度の目標は、独自のパルスプラズマを用いたCVDの開発を行い、1. プラズマ強度およびガス混合比による乖離、反応物質の挙動と薄膜形成との因果関係 2. 膜中の成分比による硬度の影響 3. 完全なアモルファス化 4. 平坦でピンホールフリーの被覆率100%の隔膜の開発であった。これらはほぼ達成され、さらに膜の均一性および成膜速度の向上を図るため、磁場を加えたp-CVDの開発を行い、隔膜の耐圧性が約1桁高く、成膜速度が1.5倍向上した。(Ref. Kayo YAMASAKI, Hidenori TSUTSUI, Takaomi MATSUTANI, and Tadahiro KAWASAKI "Development of Magnetic Field and Pulse Plasma Enhanced CVD for High-efficiency E-TEM Diaphragm Deposition" The 19th Annual Meeting of IAPS International Workshop 2012 in Taipei (March, 10, 2012, Taipei TAIWAN).) さらに、化学的安定で高強度のa-SiCN膜に着目し、隔膜への応用を試みた。その結果、従来のa-C隔膜では電子線により数秒で破損するのに対し、開発したa-SiCN隔膜では、15分以上の耐久性を持つことが明らかとなった。さらに、環境セル型透過電子顕微鏡による反応ガス雰囲気中の金ナノ触媒の観察に成功した。(Ref. 松谷 貴臣,山崎 佳代,筒井 秀徳,美浦 拓也,川崎 忠寛 「パルスプラズマ援用化学気相成長法による環境セル型透過電子顕微鏡用a-SiCN隔膜の開発」プラズマ応用科学 Vol.19 No.2 (2011) 159-164.)
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Strategy for Future Research Activity |
H23年度に得られた結果を基に、引き続き、各条件で作製した隔膜の耐圧試験を行い、その最適条件(膜厚、電子顕微鏡画像の鮮明化等)の探求を行う。現在、プラズマによる原料ガスの乖離、反応機構を調べるために四重極管質量分析計を用いた測定装置の開発を進行しており、それを使用し、作製した薄膜の諸特性との因果関係を調べる。また、隔膜を介して真空容器と反応ガスに分け、真空側に四重極型質量分析装置を設置し、ガスの漏れおよび耐圧に対する評価試験を行う。また電子線照射により膜の物理的、化学的浸食の有無を評価する。照射後の隔膜について、化学分析として光電子分光法、表面形状については走査型あるいは透過型電子顕微鏡により評価を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
必要な装置の開発はおおむね達成した。今年度は主に、若干の装置の改良や原料ガスおよびCuメッシュ等の消耗品費を計上する。また、環境セル型透過電子顕微鏡は、協力研究者である名古屋大学の川崎 忠寛先生が保有しているため、名古屋大学にて実験を行うための旅費を計上する。さらに、得られた成果を学会にて発表するための旅費の計上する。
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