2011 Fiscal Year Research-status Report
アルミニウムおよびマグネシウム表面への合金プリント法の開発と超軽量材料への展開
Project/Area Number |
23560834
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
桐原 聡秀 大阪大学, 接合科学研究所, 准教授 (40362587)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | マイクロパターニング / インクジェット描画 / 反応拡散 / 金属間化合物 / 軽量金属材料 / 応力制御 |
Research Abstract |
アルミニウム合金やマグネシウム合金は、現代工業において幅広く用いられる軽量金属材料であるが、地球環境保全や持続的エネルギー確保に対する社会的な動向に呼応して、より高い特性を発揮することが求められている。炭酸ガスの排出削減やエネルギーの消費低減を実現するため、各種車両の軽量化を目指した実践応用が進められており、更なる高強度化に加えて耐熱性や耐食性の向上が強く望まれている。 本研究においては、金属微粒子を分散した樹脂スラリーを原料として、マグネシウムやアルミニウムなど軽金属にインクジェットプリントを施し、加熱や加圧処理を経て定着させ、材料表面に高機能の合金や化合物をマイクロパターニングを行った。シリコン系硬質合金の分布による強度の向上や、ニッケル系化合物の分布による高温耐食性の向上を目指した。軽量合金に幾何学パターンを有する人工的な表面構造を形成することで、材料特性を自在に制御し得る新規プロセスを構築し、超軽量機能材料創製への展開を図った。学術的な特色は、軽金属表面に形成する合金パターンの幾何学デザインにより、強度をはじめ耐熱性や耐食性を制御できる点である。予測計算と実測結果の系統的な比較検討により、制御理論を確立することを最終目標とした。 実際の研究遂行においては、実用化されている各種アルミニウム合金およびマグネシウム合金も基材として検討する範囲に含め、幾つかの材料系と課題について検討を進めた。硬質のシリコン系および銅系共晶合金のパターニングでは、破壊起点となる材料表面の応力状態を制御し、機械的特性の向上を目指した。高温耐食性に優れるニッケル系および鉄系化合物のパターニングでは、比較的靭性の高い金属リッチの合金相を分布させ、応力付加による表面亀裂の発生を抑制し、被覆層の信頼性向上を図った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究遂行において、平成23年度分の第一段階では、軽金属基板の表面に金属インクを精密にプリントするための、インクジェットシステムの開発を計画した。微細ノズルから金属微粒子を分散した樹脂インクを塗出させるため、微粒子径やノズル孔径の最適化を目指した。平成24年度分の第二段階では、プリント金属を基板に定着させるための、加熱ならびに加圧プロセスを確立する。効率良く反応拡散を生じさせる熱処理パターンや、ツール材質の選定を含めて圧縮工程を検討する。平成25年度分の第三段階では、合金の幾何学パターンが発現する特性について、予測計算と実測結果を比較検討する。機能性表面を構築基盤となる基礎理論の確立を目指す。 平成23年度の研究遂行において、具体的には「金属インクジェットシステムの構築」を目標に掲げた。成果として、(1)紫外線硬化性の液体樹脂(アクリル系・ウレタン系)に、平均粒径1~10μmの金属微粒子(シリコン・銅・ニッケル・鉄)を体積分率60~70%で混合し、スラリー状インクを作製することに成功した。遠心力付加の攪拌脱泡により混合条件を最適化した。(2)孔径50~100μmのシリンジノズルから金属インクを塗出させ、マイクパターンを軽金属(アルミニウム・マグネシウム)の基板上に描画するため、圧搾空気によるパルスコントロールを確立した。加圧力と時間を最適化し塗出量を制御することに成功した。(3)基板をモータ駆動により速度10~100mm/sおよび位置精度10μmで送り移動させるとともに、金属インクを充填したシリンジを水平および垂直移動させ、パターン高さを10~100μmの範囲で制御した。移動速度とインク塗出量を最適化することに成功した。 以上に加えて、平成24年度の具体目標である、「金属プリントの定着と合金パターンの形成」に関しても、反応拡散における熱処理条件の最適化について、一部検討を始めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究遂行の第二段階として平成24年度は、「金属プリントの定着と合金パターンの形成」を具体目標として掲げる。 前半は、加熱プロセスの確立(反応拡散における熱処理条件の最適化)を進める予定であり、計画として、(1)共晶反応を利用する場合には、シリコンおよび銅粒子インクをアルミニウムおよびマグネシウム基板にプリントし、不活性ガス雰囲気の炉内において、それぞれの共晶点直上に加熱することで、界面付近で固相拡散により融液を生成させる。加熱温度と保持時間を最適化し、熱処理後に得られる合金パターンの寸法精度を向上させる。熱処理温度としては、Si-Al:580℃,Cu-Al:550℃,Si-Mg:620℃,Cu-Mg:480℃を検討する。さらに、(2)合成反応を利用する場合には、ニッケルおよび鉄粒子インクを金属プリントし、不活性ガス雰囲気で反応温度に加熱することで、溶融金属と基板の間で反応熱による部分的な溶融を生じさせ、制御冷却による凝固を経て化合物や金属立地の合金相を形成する。熱処理後に得られる基板上の化合物と合金の分布割合を最適化する。熱処理温度としては、Ni-Al:550℃,Fe-Al:580℃,Ni-Mg:520℃,Fe-Mg:500℃を検討する。 後半は、加圧プロセスの確立(塑性変形における加工条件の最適化)を進める予定であり、計画として、(1)金属インク(シリコン・銅・ニッケル・鉄)を基材に定着させる、圧縮加工用ツールの材質や表面処理法を選定する。機械加工において金属固着の恐れが低いとされるサイアロンセラミックスや、窒化チタンコートを施した工具鋼などを検討する。さらに、(2)金属プリントした軽金属(アルミニウム・マグネシウム)基材を常温で短軸圧縮し、塑性変形により元素を固相拡散させ、合金パターンとして定着させる。圧縮加重や加工率の最適化により、合金組織形成とパターニング精度の向上を両立させる。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究遂行における設備的な達成目標は、「金属インクジェット装置」すなわち、純金属微粒子を分散した樹脂インクを、パルス制御の圧搾空気を用いてシリンジノズルの微細孔より塗出させ、マイクロドットの連続形成により基板上にマイクロパターンを描画する装置の完成である。幾何学パターンの寸法精度や再現性に高い信頼性が要求されるため、市販システムとして、精密卓上型塗布ロボット(武蔵エンジニアリング社製:Shot Mini = SM200Ω-3A)を購入する。 また、「有限要素シミュレータ」の購入に向けた、オプションプログラムの選定も進める。合金・化合物・金属相のマイクロパターニングを施した軽金属の基板に関して、材料表面の力学的・熱的・化学的な特性を予測するために、必要となるプログラムである。幾何学パターンや材料物性などを数値入力し、計算結果を系統的に可視化するため、市販アプリケーションとして、有限要素法マルチフィジックス解析ツール(サイバネットシステム社製:ANSYS)について検討を行う。 新たに購入する設備は予算内で購入可能な市販物品であり、要求性能についても製造元に確認している。その他、金属インクをマイクロプリントした軽金属板に対して、加熱もしくは加圧処理を施し、合金パターンとして定着させる「電気炉」や「プレス機」をはじめ、耐熱および硬質合金のパターニング材への、熱衝撃特性や力学的特性の評価に用いる「加熱装置」や「引張試験機」などは全て既存設備を活用する。 その他に研究費算は、研究の遂行に必要な金属微粒子・液体樹脂・軽金属基板などの原材料をはじめとして、研究成果の発表に必要な国内および国外旅費などに使用する。本研究で得られた学術的成果は、国内外で開催される学会での講演発表をはじめとして、学術雑誌誌への論文投稿や解説執筆などを通じて積極的に公開する予定である。
|
Research Products
(9 results)