2012 Fiscal Year Research-status Report
アルミニウムおよびマグネシウム表面への合金プリント法の開発と超軽量材料への展開
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23560834
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
桐原 聡秀 大阪大学, 接合科学研究所, 准教授 (40362587)
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Keywords | マイクロパターニング / インクジェット描画 / 反応拡散 / 金属間化合物 / 軽量金属材料 / 応力制御 |
Research Abstract |
炭酸ガスの排出削減やエネルギーの消費低減を実現するため、各種車両の軽量化を目指した実践的な取り組みが国内外で進められている。その中でも、実用的な軽量金属材料であるアルミニウム合金やマグネシウム合金は、より高い強度特性の発揮もさることながら、地球環境保全や持続的エネルギー確保に対する社会的な動向に呼応して、そのリサイクル性の向上にも厳しい要求が突きつけられている。 本研究では、金属微粒子を液体樹脂に分散して調合したスラリペーストを、マグネシウムやアルミニウムなど軽金属基材にインクジェットプリントし、加熱による反応拡散を経て定着させ、高機能化合物をマイクロパターニングする取り組みを進めた。シリコン系硬質合金やニッケル系化合物のラインパターンを形成し、幾何学模様に沿って応力分散を実現することで、部材全体の強度を相対的に向上させるなど、力学特性を自在に制御し得る新規プロセスを構築し、超軽量機能材料創製への展開を図った。学術的な特色としては、軽金属表面に形成する合金パターンに自己相似性を付与し、フラクタル構造による応力分散や意図的な集中を実現させる試みが挙げられる。自己相似性を有しない周期パターンとの幾何学的な差異を検証し、予測計算と実測結果の比較検討により、制御理論の確立を進めた。 実際の研究遂行においては、当初計画していた各種アルミニウム合金およびマグネシウム合金に加えて、非強度が高く実用性の高いチタン合金も基材としての検討対象に加えた。実際のチタン合金に対するアルミナイド系化合物のマイクロパターニングにおいては、引張試験片に対して、樹枝状分岐を有するデンドライト型フラクタル構造をマイクロパターニングし、亀裂の発生源となるように意図的な応力集中を導き、部材の破壊過程を制御することに成功した。人工的な破壊起点にセンサを設置すれば、部材の応力状態を瞬時に知ることができると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究遂行における第二段階として平成24年度の目標に掲げたのは、プリント金属を基板に定着させるために、加熱ならびに加圧プロセスを確立することである。効率良く反応拡散を生じさせる熱処理パターンや、ツール材質の選定を含めて圧縮工程を検討した。度の前半部分では、加熱プロセスの確立を目指し、反応拡散における熱処理条件の最適化を進めた。共晶反応を利用する場合では、シリコンおよび銅粒子インクをアルミニウムおよびマグネシウム基板にプリントし、不活性ガス雰囲気の炉内において、それぞれの共晶点直上に加熱することで、界面付近で固相拡散により融液を生成させた。加熱温度と保持時間を最適化し、熱処理後に得られる合金パターンの寸法精度を向上させた。これに対して、合成反応を利用する場合では、ニッケルおよび鉄粒子インクを金属プリントし、不活性ガス雰囲気で反応温度に加熱することで、溶融金属と基板の間で反応熱による部分的な溶融を生じさせ、制御冷却による凝固を経て化合物や金属立地の合金相を形成した。熱処理後に得られる基板上の化合物と合金の分布割合も最適化した。当初は計画に含めていなかった、チタン合金に対するアルミナイド系化合物のパターニングも試みた。年度の後半部分では、加圧プロセスの確立を目指し、塑性変形における加工条件の最適化を進めた。はじめに、シリコン・銅・ニッケル・鉄などの金属インクを基材に定着させる、圧縮加工用ツールの材質や表面処理法を選定した。機械加工において金属固着の恐れが低いとされるサイアロンセラミックスや、窒化チタンコートを施した工具鋼などを検討した。つぎに、金属プリントしたアルミニウム・マグネシウム・チタン合金などの軽金属基材を常温で短軸圧縮し、塑性変形により元素を固相拡散させ、合金パターンとして定着させた。圧縮加重や加工率の最適化により、合金組織形成とパターニング精度の向上を両立させた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究遂行の第三段階である平成25年度においては、合金の幾何学パターンが発現する特性について、予測計算と実測結果を比較検討する。機能性表面を構築基盤となる基礎理論の確立を目指すものである。最終的な達成目標は、「合金パターンの幾何学デザインと機能特性の評価」である。具体的な第1番目の課題は「機械的特性の向上」であり、アルミニウムおよびマグネシウムを基材として、硬質相であるシリコン系および銅系共晶合金のマイクロパターニングする場合に、幾何学模様と表面応力状態の関連について調査する。合金パターンを形成した薄板試験片の機械的特性を評価し、有限要素シミュレーションによる予測計算と比較検討する。その際に、幾何学パターンの構造次元を算出し、応力分布の効率との相関性を系統的に整理する。構造パターンを意図的に乱した、応力集中点の導入についても検証する。第2番目の改題は、「高温耐食性の向上」であり、アルミニウムおよびマグネシウムへの被覆において、高温安定であるニッケル系および鉄系化合物と、靭性が期待できる金属リッチ合金の組織パターンを検討することで、表面への応力付加による表面亀裂の発生を抑制する。燃焼温度域における酸化試験や、室温における水や酸に対する腐食試験を行う。これらの検討に加えて、機能性パターニングを施す基材として、実用材料のアルミニウム合金(Al-Mg-Si)をはじめマグネシウム合金(Mg-Al-Zn)やチタン合金(Ti-Al-V)を採用し、上記と同様の検討を行う。具体的なマイクロパターンとしては、合金・化合物・金属相の微小な多角形を周期的に多数配列した幾何学図形を考える。形状寸法や配列間隔を系統的に変化させることで、有限要素法を用いた、力学的・熱的・化学的な特性の予測手法を確立させるとともに、実測試験との比較を経て制御理論を完成させる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究遂行における設備的な達成目標は、有限要素法マルチフィジックス解析ツール(サイバネットシステム社製:ANSYS)の導入であり、合金・化合物・金属相のマイクロパターニングを施した軽金属の基板に関して、材料表面の力学的・熱的・化学的な特性を予測するために、アプリケーションプログラム一式を購入する。幾何学パターンや材料物性などを数値入力し、計算結果を系統的に可視化するために必要な仕様で、市販品の導入を進める。新たに購入を予定しているアプリケーションプログラムは、予算内で購入可能な市販物品であり、例えば応力分布計計算における有限要素メッシュ細かさを表すノード数など、必要とされる性能について製造元に確認するともに、デモ用プログラムを用いて目的動作の検証を既に終えている。幾何学パターンをシミュレータへ代入するプロセスにおいては、インクジェットプリント装置を動作させるモデル設計プログラムから、構造データをそのまま抜き取る手法を採用し、プログラム間での数値転送を自動化することで、計算精度の向上を図る。これらのデータ転送に必要なモジュールプログラムの購入も計画に含めており、予算内での導入が可能であることも既に確認している。その他の研究費用としては、研究の遂行に必要な軽金属基板をはじめ、金属微粒子や液体樹脂などの原材料購入とともに、研究成果の発表に必要な国内および国外旅費なども計上する。本研究で得られた学術的成果は、当該研究課題に関連して、定評のある国内外の学会における講演発表をはじめ、学術雑誌誌への論文投稿や解説執筆などを通じて積極的に公開する予定である。さらに、研究遂行のなかで得られた、技術的成果を特許申請し知財化することで、社会に対する学術知見の還元を達成しようと計画している。
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Research Products
(11 results)