2011 Fiscal Year Research-status Report
Ag-エポキシ系等方性導電性接着剤の疲労寿命解析手法の確立
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23560846
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Research Institution | Shibaura Institute of Technology |
Principal Investigator |
苅谷 義治 芝浦工業大学, 工学部, 准教授 (60354130)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 導電性接着剤 / 電子実装 / 低サイクル疲労 / マイクロ接合 |
Research Abstract |
平成23度は,標準的であるAgフィラーを含有したエポキシ系導電性接着剤と電極材として用いられるCuを接合した微小接合体試験片を用いて,ひずみ制御型の低サイクル疲労特性を複数温度で調査し,以下の成果が得られた.導電性接着剤の疲労損傷では,電気抵抗がき裂の進展とともに増加し,疲労損傷の進行と良く対応することが明らかになった.このことより,疲労試験における寿命の判定は電気抵抗により定義できる.なお,疲労寿命予測で用いる初期き裂発生相当のサイクルは,10%増加時点のサイクル数が対応することがわかった. 疲労寿命はいずれの試験条件においても非線形ひずみ範囲もしくは粘弾的損失エネルギー(ヒステリシスループ)とべき乗則に関係にあり,金属材料の疲労寿命予測で用いられるManson-Coffin則やMorrowのエネルギーベース寿命則と同一の寿命則が適用できる.この疲労寿命は試験温度に依存し,試験温度がガラス転移点を超えると疲労寿命が増加する金属材料とは逆の傾向(温度が上昇すると寿命が低下する)を示す興味深い結果が得られた.本研究における疲労損傷はAgフィラーとエポキシ樹脂界面で発生しており,いずれの試験条件でも損傷形態に変化は見られない.また,粘弾的損失エネルギーを用いて寿命を整理した場合,試験温度に係わらず,1本の寿命則で疲労寿命を整理するこができることがわかった.このことから,有限要素法を用いた電子デバイスの寿命予測に際しては,導電性接着剤の力学挙動を記述する適切な構成方程式を構築することにより,疲労変形における粘弾的損失エネルギーを計算することにより比較的簡易に信頼性予測を行うことが可能であることが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は,当初の計画した,(1)微小接合試験片による低サイクル疲労試験の実施,(2)疲労き裂発生と電気抵抗の関係,(3)疲労寿命の環境依存性,(3)疲労寿命予測パラメータの検討,のすべてに対し研究を遂行し,これらの研究から粘弾的損失エネルギーを計算することにより試験条件に係わらず比較的簡易に疲労寿命予測を行うことが可能であることを導いている.特に,疲労寿命予測パラメータに粘弾的損失エネルギーを用いることで,環境条件(温度)によらず,疲労寿命を予測することが可能である事実を得たことの意義は大きく,次年度以降で計画する有限要素法解析を用いた疲労寿命予測法確立のベースとなる部分が構築された. また,これら成果を電子実装関連の技術者が参加するエレクトロニクス実装学会で発表し,優秀ポスター賞を受賞,また,国内の専門誌学術雑誌へ論文を投稿するなど,着実に研究成果を公表するに至っている.これらの理由により,順調に研究が進行していると判断できる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は,当初の計画どおり,平成23年度で明らかになった疲労寿命予測パラメータを実際のデバイス構造でFEMを用いて取得するための構成方程式を,マルチスケール解析を用い構築する.具体的には以下の計画を推進する.(1)FEMを用いた導電性接着剤の構成方程式構築用実験データの取得. 導電性接着接合部の熱疲労変形挙動をFEMで解析するのに必要となる基本的な力学特性(粘弾性,塑性特性)を,前年度で用いた微小試験片を用いて,熱疲労変形が問題となる-40℃から150℃の範囲で測定する.なお,導電性接着剤ではフィラー配向により力学特性に異方性が出現することが予測されるため,後述するミクロスケールによる数値材料試験が必要となる.このため,力学特性の取得は,導電性接着剤を構成するエポキシ樹脂単体の特性についても行うものとする.(2)3次元ミクロスケールモデルを用いた数値材料試験による異方力学特性の算出と,均質化手法によるマクロスケール構成式の決定. 導電性接着剤は,異方性を有すると予測されるため,正確な解析には,接着剤層内にフィラーが存在するミクロ構造を再現した解析モデルが必要となる.しかし,実際のデバイス構造でこのミクロモデルを適用することは,解析モデルの規模から不可能であるため,デバイス構造での解析は,接着剤が異方性を有する均質な一つの材料と見なして行う必要がある.異方性を考慮した力学特性を記述する構成方程式の構築には,6方向の力学試験が必要となるが,接着剤の場合,6方向の試験すべてを行うことが出来る試験片の作成は事実上不可能である.このため,フィラー構造を再現した3次元のミクロモデルを作成し,FEMを用いて材料試験を行い,異方性を取得し,Hillモデルなどに代表される異方性を再現出来る構成方程式を構築する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は,有限要素法を用いた電子実装部の疲労変形シミュレーションで必要となる導電性接着剤の力学挙動を記述する構成方程式を構築するための力学実験が必要となる.このため,力学試験に必要な消耗品,特に,導電性接着剤のバルク力学試験片作成,および試験片内部のフィラー状態観察に必要な消耗品を計上する(60万円).また,測定した力学挙動を基に,構成方程式を構築し,これを使用して有限要素法解析を行うため,有限要素法解析関連のソフトウェア,また,ミクロスケール解析を行うためのモデル作成用画像処理ソフトウェアを計上する(50万円). 本研究では,導電性接着剤の熱疲労信頼性に関する他にはない学術的にも,工業的にも重要な成果が得られつつある.このため,その成果を国内の学会を通じて広く公表することを目的とし,この分野の関連学会である,エレクトロニクス実装学会,日本金属学会での論文発表旅費を計上する(10万円).
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Research Products
(2 results)