2011 Fiscal Year Research-status Report
Ti基化合物分散型ブロンズを適用した高性能Nb3Sn超伝導線材の開発
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23560854
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
菊池 章弘 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 主幹研究員 (50343877)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | Nb3Sn / ブロンズ合金 / 高Sn濃度 / Ti添加 / CuSnTi化合物 / 熱間鍛錬 / 冷間加工性 / 複合加工 |
Research Abstract |
ブロンズ(Cu-Sn合金)中のSn濃度が15.8mass%を超えると、金属間化合物であるδ相が析出する。この可塑性のないδ相(Cu41Sn11)が、ブロンズの冷間加工性を著しく阻害する直接的な原因である。本研究は、α相中に固溶しきれないSnを、熱力学的に優先度の高いCuSnTi化合物として捕捉し、粗大なδ相の析出を抑制する。本年度は、従来にない多量のTiを含む高Sn濃度ブロンズを溶製して、微視的組織及び機械的性質の評価を実施した。インゴットの溶製には、黒鉛坩堝を直接水冷しながら一方向凝固させる実用製法を適用した。仕込みSn量は世界最高となる18.5mass%と固定し、Ti量は0.3から3.5mass%まで変化させた。Tiが0.3mass%と最も少ない場合、粗大なδ相が多量に析出し、その面積は全体の約20%を占める。室温における伸びは0.5%以下と極めて低く、冷間加工は望めない。ところがTi量が増加すると、δ相の面積比は急速に減少して2.0mass%Tiで完全に消失した。一方、Ti量とともに生成するCuSnTi化合物が単調増加するが、δ相が完全消失するCu-18.5mass%Sn-2.0mass%Ti組成でも10%程度の占積率にしか至らなかった。2.0mass%Ti試料の室温伸びは0.3mass%Ti試料の10倍に相当する4%程度の値を示した。さらに溶製直後の試料では100ミクロンを超える針状のCuSnTi粒子が観察されたが、軽微な熱間鍛錬(鍛練比で4程度)を行うことでほぼすべてのCuSnTi粒子は10ミクロン未満まで微細化することがわかった。これにより室温伸びはさらに倍の10%程度まで向上した。即ち本年度の研究で、従来は全く延性の無かった18.5mass%ものSnを含有するブロンズに対して、実用材である16mass%Snブロンズと同等の延性を発現させることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は、Tiを多量に添加(1.0~3.5wt%)したSn濃度が18wt%以上のブロンズ合金(~φ200)を製造し、組織と機械的性質を評価する計画であった。計画はほぼ予定通りに遂行したが、インゴットのサイズが直径80mm程度と若干規模を縮小した。研究調査する組成が多数になり、インゴットの製造時間の短縮及び原料の節約によるものである。組織や特性評価について影響を与えるものではないが、将来的に、実用量産規模(直径200mm)でのインゴットの試作は必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画に変更はなく、今後の研究の推進方策は以下になる。平成23年度に開発した新しいTi化合物分散型ブロンズ合金を使用して多芯線材の作製を行う。第一段階としてブロンズ単体での冷間伸線加工性を評価し、加工限界及び最適な中間焼鈍条件を見出す。次に第二段階として、実験室レベルの200芯程度の多芯線材を小規模の熱間押出を適用して試作する。そして最終的に、国際熱核融合実験炉(ITER)で使用されるブロンズ法Nb3Sn線材と同等の断面構造を有する実用極細多芯線材の試作を試みる。製造工程は可能な限り現状の量産条件に近いものを適用する。これらの多段階ステージの試作を通じて、新しいTi化合物分散型ブロンズの極細多芯複合線材の加工性と量産性を評価する。さらに、試作した線材で最大限に性能を高められる熱処理条件を調査し、微視的組織と超伝導特性の関係を明らかにして、特性改善の裏付けとなる材料科学的知見を獲得する。従来は、Nb3Sn中に多量にTiが取り込まれると特性が低下するため、多量のTi添加はタブーとされてきた。本研究で開発する高Sn濃度ブロンズにはこれまでにない多量のTiが含まれており、TiがNb3Snの生成及び特性に与える影響を多角的に調査する。また、本研究を遂行する上での最大の課題(難所)は、実用レベルの極細多芯複合加工である。直径1mm以下の線材中に、新しいブロンズを母材として1万芯以上ものNbフィラメントを複合しなければならない。万一断線が多発する事態に至った場合、その対策として、室温よりも塑性変形が容易になる200℃~400℃での温間加工を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
Nb等の原料費、超硬ダイス等の消耗品費、実用ブロンズ塊(直径200mm)の熱間鍛錬加工や400ton静水圧押出加工費等の外注加工費として主に使用する。50万円を超える備品の購入予定はない。
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