2011 Fiscal Year Research-status Report
低温プラズマ処理での非平衡相による鉄系材料の表面構造制御
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23560873
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
辻川 正人 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90172006)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | プラズマ / 表面処理 / ステンレス鋼 / 浸炭 / 窒化 / DLC / 耐摩耗性 |
Research Abstract |
良好な耐食性を示すものの、その強度の低さと耐食性を落とさない熱処理硬化法がないことから機械構造用材料として用いられることが稀であったオーステナイト系ステンレス鋼の表面硬化法として、低温プラズマ窒化あるいは浸炭法は、過飽和固溶体を形成することで、1000HV~600HVという基盤の5倍~2倍の表面強化を耐食性を落とすこと無く達成することができる。この過飽和固溶体相はS相と呼ばれる。しかし、浸炭では条件によっては耐食性の劣化が見られる。この場合最表面の炭素濃度が非常に高いことがGDOESで確認され、詳細なXRD解析でクロム炭化物の形成が確認された。ラマン分光分析で表面にグラッシーカーボンが形成されること、その厚さは 4 時間のプラズマ浸炭で形成される 10 μm 程度のS相の表面で 0.5 μm 程度であること、およびクロム炭化物がその直下に形成され、これが固溶クロムの枯渇層を形成し耐食性を劣化させることを明らかにした。 さらに、このグラシーカーボン層は、条件によってはDLC相とする可能性が明らかとなった。また、このクロム枯渇層の除去にはプラズマ処理や微粒子ショットピーニングが効果的で短時間の処理で耐食性の確保が可能であることを示した。 これらの成果は、非平衡相であるS相の実用化のための基礎的なキャラクタリゼーションであり、DLCとS相の同時複合処理の可能性を示す結果である。また、実用的にも靭性を持つ浸炭によるS相の耐食性の確保法として重要な知見を示すものであると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、オーステナイト鋼の低温プラズマ拡散処理材のキャラクタリゼーションを行う計画であった。実際には浸炭処理組織についてのみS相のキャラクタリゼーションを行なった。その結果、グラッシーカーボンが最表面に形成され、その高炭素濃度のために、基盤最表面の過飽和度が上昇し、クロム炭化物の形成が促進され、クロム枯渇層が生じ、耐食性の劣化に繋がることが明らかとなった。このような状況が明らかになったことで、このクロム枯渇層より深いS相中では炭化物の形成が無く、耐食性の劣化もないことが実証され、この最表面のグラッシーカーボン層とクロム枯渇層を炭化物とともに除去すれば、耐食性の確保のされることが明らかとなった。 実際に 0.5 μm 程度と非常に薄い最表面層の除去には、Ar中でのプラズマ爆撃や、微粒子ショットピーニングが効率よく、かつS相厚さを必要以上に少なくすること無く、除去できることを示すことができた。これによって、オーステナイト系ステンレス鋼の靭性の高い硬化層形成方法としての低温プラズマ浸炭処理の実用化が促進されるものと考えられる さらに、キャラクタリゼーションの結果、確認されたグラッシーカーボンはこのままの状態ではDLCに遠く及ばない硬さしか持たないが、この層の形成はDLC形成の可能性を示すものである。浸炭基盤上のDLC形成が密着性よくしかも同時に可能となれば、オーステナイト系ステンレス鋼の耐食性を生かしたさらなる激烈環境での使用にも耐えられる部材開発が可能となる。この処理に関しても実験を重ね、DLC形成条件の探索を行った。窒化のキャラクタリゼーションはTEM観察のみに終わったが、浸炭で新しい領域への展開の可能性が見られたことで、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、キャラクタリゼーションを進めその結果から、オーステナイト系ステンレス鋼表面に用途に応じた、複合改質相を重ねるという構造化のために、これまで行ってきた浸炭と窒化層の複合構造を持つ表面に、さらに硬い相としてのDLCおよびボロン拡散処理によって形成される新たな層の形成と、構造化された表面組織の構築を目指す。 同時に、これらの層は、低温での拡散処理であることから、その深さが限られてしまう。これを改善するためには、この温度で炭素や窒素の拡散速度を上げなければならない。これら侵入型原子の移動を速やかにするためには格子の拡張が効果的である。例えば、モリブデンや銅といった鉄やクロムより大きなイオンサイズをもつ元素の添加が効果的である。これらによって、より耐摩耗性が高い表面をオーステナイト系ステンレス鋼に構築することが可能となり、耐食性に優れたこの材料の部材化が促進されることになる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、処理用ガス等消耗品に30万円。窒化で形成した硬いS相のキャラクタリゼーションと、S相へのDLCコーティングの可能性を明らかにするために各種金属あるはカーボンターゲットなどの消耗品に30万円。成果報告のための旅費等に40万円の支出を計画している。 これにより、非常に硬いDLC皮膜を最表面に持ちこれを支持するために中間的な硬さを持つ拡散処理で形成されたS相を有する、傾斜的に強さの変化する耐食性に優れたオーステナイトステンレス鋼を得ることができる。 平成25年度は、ボロンによるS相の構造化を実施するために、処理装置の改造費に30万円。基盤表面での反応による化合物形成を解明するため、アクティブスクリーンによるプラズマ処理に目家手の装置改造(スクリーン取り付け)に30万円。成果報告ための旅費等に40万円の支出を計画している。 これによって、窒素、炭素、ボロンによる侵入型位置の奪い合いに関する理論が完成し、その結果、ボロンによる硬化層と、デポジションとしてのDCL皮膜を加えることで構造化のバリエーションが大幅に拡大する。耐食性と耐摩耗性の両立した材料を対象に合わせた表面構造で構築することが可能となる。
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Research Products
(4 results)