2012 Fiscal Year Research-status Report
低温プラズマ処理での非平衡相による鉄系材料の表面構造制御
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23560873
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
辻川 正人 大阪府立大学, 地域連携研究機構, 教授 (90172006)
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Keywords | プラズマ / 表面処理 / ステンレス鋼 / 浸炭 / 窒化 / 耐摩耗性 / 硬さ / DLC |
Research Abstract |
良好な耐食性を示すものの、その強度の低さと耐食性を落とさない熱処理硬化法がないことから機械構造用材料として用いいられることが稀であったオーステナイト系ステンレス鋼の表面硬化法として、低温プラズマ窒化あるいは浸炭法は、過飽和固溶体を形成する ことで、1000HV~600HVという基盤の5倍~2倍の表面強化を耐食性を落とすこと無く達成することができる。この過飽和固溶体相はS相と呼ばれる。 この表面硬化層のさらなる強化が求められており、そのためショットピーニングと微粒子ショットピーニングの効果およびDLCコーティングの基盤として窒化のS相か浸炭によるS相のどちらが効果的であるかを知ることが必要となっている。 本年度は靭性の高い浸炭によるS相のショットピーニングによる強化(1200HV)とショットブラスティングによる浸炭S相再表面層の削除による耐食性の保持が明らかとなった。さらに、硬さは低いが延性のある浸炭によるS相のほうが、硬いが脆い窒化S相よりDLCコーティングの基盤として良好な対摩擦荷重性能を持つことが明らかとなった。 これらの成果は、非平衡相であるS相の実用化のための基礎的なキャラクタリゼーションであり、DLCとS相の同時複合処理の可能性 を示す結果である。また、実用的にも靭性を持つ浸炭によるS相の耐食性の確保法として重要な知見を示すものであると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、オーステナイト鋼の低温プラズマ拡散処理材のさらなる硬さ向上を目指してさらなる表面構造化を行う計画であった。実際にはショットピーニングによる強化の可能性が浸炭S相には存在するが、窒化S相では望めないこと明らかとなった。さらに、浸炭S相の変形能は、圧延試験によると圧下率20%では表面に微細なクラックが入ることが明らかとなった。圧延試験によると10%程度の冷間圧延に耐えることが明らかで、この変形機構について明らかにすることが必要と考えている。 表面硬さを得るにはDLCコーティングが可能である。しかし、オーステナイトステンレス鋼の表面硬さは高々300HV程度であり、非常に硬いDLC層を被覆してもその厚さは数ミクロン以下であるため、大荷重の摩擦には基盤の塑性変形が起こり、硬い皮膜は破壊される。DLCコーティングの基盤としてはより硬い窒化によるS相より、硬さは低い浸炭によるS相のほうが大荷重の摩擦でもDLC皮膜の剥離が起こりにくいことが明らかとなった。 これらの知見は、既に明らかにした浸炭層と窒化層による2重層による硬さの傾斜化をより進めることができることを示唆している。次年度に計画しているさらなる侵入型元素による硬化層の追加につなげることのできる成果であり、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、オーステナイト系ステンレス鋼表面に用途に応じた複合改質相を重ねるという構造化のために、これまで行ってきた浸炭と窒化層の複合構造を持つ表面に、さらに硬い相としてのDLCおよびボロン拡散処理によって形成される新たな層の形成と、構造化された表面組織の構築を目指す。 同時に、これらの層は低温での拡散処理であることから、その深さが限られてしまう。これを改善するためには、この温度で炭素 や窒素の拡散速度を上げなければならない。これら侵入型原子の移動を速やかにするためには格子の拡張が必要となる。大型原子の置換型固溶によって格子間隔を拡張させることが、処理層深さを大きくするために効果的である。例えば、モリブデンや銅といった鉄や クロムより大きなイオンサイズをもつ元素の添加が効果的である。これらによって、より耐摩耗性が高い表面をオーステナイト系ステ ンレス鋼に構築することが可能となり、耐食性に優れたこの材料の部材化が促進されることになる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、ボロンによるS相の構造化を実施するために、処理装置の改造費に30万円。基盤表面での反応による化合物形成を 解明するため、アクティブスクリーンによるプラズマ処理に目家手の装置改造(スクリーン取り付け)に30万円。成果報告ための旅費等に30万円の支出を計画している。 これによって、窒素、炭素、ボロンによる侵入型位置の奪い合いに関する理論が完成し、その結果、ボロンによる硬化層を加えるこ とで構造化のバリエーションが大幅に拡大する。耐食性と耐摩耗性の両立した材料を対象に合わせた表面構造で構築することが可能となる。 また、本年度の成果である浸炭S相の塑性変形能について、炭素が過飽和に固溶した拡張オーステナイト相としてのすべり機構についての検討を行う。このため、皮膜だけの試験片を作製し、引張試験を行なう等の方法で塑性変形をおこさせ、TEM観察で転位の挙動を観察することに10万円の支出を計画している。
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Research Products
(5 results)