2011 Fiscal Year Research-status Report
感温性高分子の親疎水性転移を利用した新しい吸脱着機構を持つレアメタル吸着剤の開発
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23560911
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
後藤 健彦 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10274127)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
飯澤 孝司 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60130902)
迫原 修治 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80108232)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | N-イソプロピルアクリルアミド / イオン性感温性ゲル / 吸着分離 / 金属イオン / 高分子網目 / 選択吸着 / イオン半径 / アクリル酸 |
Research Abstract |
感温性のN-isopropylacrylamideとカルボキシル基を持つアクリル酸 (AAC)を共重合し、イオン性感温性ゲルを合成した。このゲルは転移温度(約35℃)以下では膨潤してカルボキシル基がイオン化することで陽イオンを吸着し、転移温度以上では収縮して陽イオンを脱着すると考えられるが、具体的な吸脱着メカニズムは明確になっていない。そこで、イオン半径の異なる3種類のアルカリ金属イオン(Li+, K+, Cs+)を用いて、吸脱着機構を検討した。 まず、AAC共重合率が異なるゲルを用い、20℃、50℃での吸着等温線を、Langmuirプロットと比較すると、実験値とプロットは、ほぼ一致した。即ち陽イオンは特定の吸着サイト(カルボキシル基)に吸着していると考えられる。また、全てのイオン種においてAAC共重合率が高いほど吸着量は多くなったが、共重合率がある程度高くなると、吸着量に大きな差は見られなくなった。これは吸着サイトであるAACの共重合率のみを上げても、複雑なゲルネットワークによって陽イオンがゲルの奥まで拡散できず、一部の吸着サイトが有効に使われなかったためと考えられる。また、K+とCs+については低温時の吸着量の方が高温時よりも多くなったが、Li+ではその差があまり見られなかった。これは、低温ではゲルが膨潤し高分子網目の密度が高温時に比べて低いため、全てのイオンが自由に吸着サイトに吸着できるが、高温ではゲルが収縮し網目密度が増加するため、イオン半径が大きなK+やCs+は吸着サイトと接触しにくかったと考えられる。 以上より、共重合ゲルを用いて陽イオンの吸脱着機構を検証し、外部溶液の温度変化のみによって陽イオンを繰り返し吸脱着可能な吸着材を合成可できた。また、合成時の組成により、高分子網目のサイズを変えることでイオン半径の異なる陽イオンの選択的吸着分離の可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. NIPAM-AAC共重合ゲルの膨潤特性に及ぼす合成条件の影響の検討 アクリル酸(AAC)共重合率の異なるゲルを用いて共重合率の違いがゲルの膨潤挙動に与える影響について検討した結果、共重合率が高くなるほど転移温度がNIPAMゲルの転移温度である約32℃から、より高温側に移動することが示された。これはアニオン性のモノマーであるAACが導入されたことにより、NIPAMゲルに比べて、親水性が強まったためと考えられる。総モノマー量を1000 mol/m3、AAC共重合率を5.0 mol%、架橋剤濃度50、75 mol/m3で合成したゲルの膨潤挙動を調べた結果、架橋剤濃度が低い方が高温時と低温時の膨潤径の差が大きくなることが示された。これは、架橋剤濃度が低いほど架橋点の数が減少し、ポリマーの自由度が増加してゲルが膨潤収縮しやすくなったためと考えられる。また、AACを共重合したゲルにホウ酸を導入し、Cs+イオンの吸脱着挙動に及ぼす影響を検討した。AACを共重合したゲルと同様に高温時に低温時よりも吸着量が低下することや、温度上昇により脱着が可能であることが示されたが、吸着量、脱着率共に大幅な向上は見られなかった。ホウ酸基の導入に効果がないのか、導入効率が悪いのかは、ホウ酸の導入方法も含めて来年度に更に検討が必要である。2. NIPAM-co-AACゲルの内部pHに及ぼす合成条件の検討 AAC共重合率の異なるNIPAM-co-AACゲルを、pH4.5以下に変色域を持つpH指示薬メチルレッド水溶液中で膨潤させ、ゲル内部pHに及ぼすAAC濃度の影響を検討した。温度20℃、pH7の溶液中では全ての共重合率においてゲルが赤色になり、ゲル内部がpH 4.5以下になっていることが示された。また、AACの共重合率が高くなるほどイオン化するカルボキシル基が増加しゲル内のpHが低下することが確認された。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 金属イオンの吸着特性の検討(2012年4月~10月) 昨年度得られた知見を基に作製した感温性吸着剤を用いて金属イオンの吸着特性を検討する。モノマー濃度、架橋剤濃度の影響については昨年度に一部前倒しで検討を行ったが、今年度は、それに加えてホウ酸導入率を変化させた吸着剤を合成し、ホウ酸導入率が膨潤特性および吸着特性に与える影響を再検討する。また、昨年度に行った実験より、イオン性モノマーのアクリル酸(AAC)だけを共重合させた場合には、共重合率を上げることで吸着量を増加させることは可能だが、AACと金属イオンの結合が強く、温度変化による脱着が不十分となったため、ホウ酸を介した金属イオンの吸着について再検討する。昨年度の結果より、AAC共重合ゲルへの導入では、ホウ酸基導入の効果があまり見られなかったので、ホウ酸との結合力の強いポリビニルアルコールをAACの代わりに使い、膨潤特性、吸着、脱着特性について検討を行う。2. 吸着材のイオン化、非イオン化機構の解明(2012年10月~13年3月) これまでの研究で相転移温度以上での ゲル内のアミノ基やカルボキシル基のイオン化の抑制は、共重合された感温性高分子の疎水化によるゲル内の含水率の減少によると考えているが、含水率の減少だけでは、内部pH変化から計算されるイオン化抑制の割合を充分には解明できていないので、昨年度に求めたゲルの合成条件と内部pHの関係より、ゲルの組成がゲル内部のイオン化状態の変化に与える影響を検討するとともに、感温性成分がゲル内部のpH変化ならびに、吸脱着機構に果たす役割についても検討する。また、昨年度充分に検討できなかった外部溶液のpHや、イオン濃度が吸着特性に与える影響について引き続き検討し、感温性吸着剤の陽イオン機構を明らかにする予定である。さらに、複数のイオンが存在する場合の吸着特性について新たに検討を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費(直接費)の使用計画は、物品費を\1,150,000計上しているが、内訳は、消耗品\800,000(吸着剤合成要試薬:\300,000、合成用ガラス器具:\150,000、樹脂製消耗品:\50,000、分析用カラム:\250,000とpH電極:\50,000)設備備品費:\350,000(振盪器用低温恒温チャンバー:\350,000)である。ゲルを合成、物性の測定のために、ガラス器具、試薬・薬品、プラスチック製器具(ピペットチップ、遠沈管)などの消耗品が毎年必要となる。HPLCカラムは、イオン濃度の測定に必要であり、pH測定用ガラス電極は、破損を考慮して1本分計上した。振盪器用低温恒温チャンバーは吸着材の温度と吸着特性の関係を測定するために使用する振盪器の温度を制御するために必要である。 旅費として計上した\500,000の内訳は、8月に米国、ジャクソンホールで開催される、Polymer Gels & Networksでの、成果発表と情報収集のための参加旅費\400,000と国内での主に化学工学会での成果発表と情報収集のための参加旅費\100,000である。 その他\50,000は、主に学内共同施設である、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)の使用料(\1,000/hr)である。以上、合計\1,700,000を次年度の研究費(直接費)として計上し、研究代表者(後藤)に\1,500,000、研究分担者(迫原、飯澤)に\200,000を分担する。
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