2012 Fiscal Year Research-status Report
感温性高分子の親疎水性転移を利用した新しい吸脱着機構を持つレアメタル吸着剤の開発
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23560911
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
後藤 健彦 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10274127)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
飯澤 孝司 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60130902)
迫原 修治 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80108232)
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Keywords | レアメタル回収 / 高分子吸着材 / イオン性相互作用 / 配位結合 / 感温性高分子 / 再利用 |
Research Abstract |
昨年度、感温性のN-isopropylacrylamide(NIPA)とカルボキシル基を持つアクリル酸(AAc)を共重合したイオン性感温性ゲルを合成し金属イオンを吸着させたが、カルボキシル基と金属イオン間の相互作用が強いために、AACの割合を高めると、吸着量は増加するが、脱着割合が小さくなり、吸着剤の転移温度が上昇して、温度応答性も低下することが判った。そこで、本年度は、AAcに代えて金属イオンとの相互作用がAAcよりも弱いポリビニルアルコール (PVA)とNIPAを用いてイオン性感温性ゲルを合成した。また、ゲルの構造をPVAとNIPAが共重合していないセミ-IPN(相互侵入網目)構造とすることで、PVAの割合を高めてもNIPAの転移温度に影響を与えずに、脱着量を増やせるのではないかと考え、NIPA-PVAセミIPNゲルを合成し、膨潤特性、吸着、脱着特性について検討を行った。その結果、NIPA-PVAセミIPNゲルの転移温度はNIPAの転移温度(約32℃)とほぼ同じであり、NIPA/PVAゲルへのAg+イオン、Cu2+イオンを吸着させたところ、高温での吸着量は低温での吸着量よりも少なかった。このことより、PVAを共重合させた場合にも低温から高温に温度変化させることで金属イオンが脱着でき、イオン基の割合を増やしても温度変化による吸脱着が可能になると考えられる。そこで、低温でそれぞれのイオンを吸着させた後、溶液温度を上昇させて脱着を試みたところ、Ag+イオンは脱着したが、Cu2+イオンはほとんど脱着しなかった。これは、金属イオンとPVAの結合はイオン結合だけではなく一部配位結合をするため、水酸基と各イオンの配位数や結合のしやすさの違いにより結合の安定性が異なり、Ag+イオンよりCu2+イオンの方がPVAと安定な結合を形成し、温度変化による脱着が起こりにくかったと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新しく金属の吸着特性を検討したPVA/NIPAセミIPN(相互侵入網目)構造のゲルは昨年度検討したランダム共重合の吸着剤の構造とは異なり、イオン性成分と感温性成分が独立した網目を形成しているため、感温性成分の温度応答性にイオン性成分が与える影響が小さく、転移温度はNIPAの転移温度から大きく変化しなかった。また、吸着特性はランダム共重合の吸着剤と同じく高温よりも低温の方が陽イオンの吸着量は多く、吸着等温線はLangmuir型となり、セミIPN構造の場合でも金属イオンが特定の吸着サイトに吸着することが明らかになった。また、イオン性成分としてAAcに比べてPVAは、金属イオンとの相互作用が小さいため、吸着量は大幅に低下したが、温度変化による脱着割合はAAcを共重合したときよりも高いということが明らかになり、さらにPVAは、AAc金属イオンとの相互作用がイオン結合のみであるのに対し一部配位結合しているが、イオン結合と比較して配位結合の力は弱いため、銅イオンと銀イオンで吸着特性を比較すると、平衡吸着量は、あまり変わらず、脱着量は銀イオンの方が多かった。これは、吸着時は、吸着サイトと相互作用する数が同じであるのに対し、脱着時は配位結合によって吸着した部分は配位数の違いや錯体形成の強弱によって、銀イオンの方が脱着し易くその分の差が出たと考えられる。一方、金属イオンの吸着特性を改善する目的での高分子へのホウ酸の導入の検討した結果、ホウ酸の水酸基は、水分子が配位することによって3配位から4配位と変化するので、ゲルの吸・脱水によって金属イオンの吸脱着が促進すると予想されたが、導入前と比較して吸脱着特性に大きな違いは見られず、この点についてはさらに検討が必要である。以上、ホウ酸の導入効果の検証を除いて、新規吸着剤の金属イオン吸・脱着特性、吸着機構について解明できたので、概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
1.吸着剤合成条件が感温性および、イオン化特性に与える影響の検討(平成25年4~7月)吸着量、脱着割合の向上のために、感温性イオン性吸着剤の感温特性や膨潤度に影響を与える要因として考えられるイオン性高分子導入率のさらなる増加が吸着剤の親・疎水転移温度、膨潤度変化に与える影響について確認する。また、ホウ酸の導入方法についても再検討し、ホウ酸の導入割合を上げて、感温性および、イオン化特性に与える影響を検討する。 2.合成組成や外部溶液の状態が、ゲルのレアメタル吸着特性に与える影響の検討(平成25年8月~9月)1.で合成した感温性吸着剤を用いてレアメタルイオンの吸着特性を検討する。モノマー濃度、合成温度、架橋剤濃度等の合成条件の異なる吸着剤を所定濃度のレアメタルイオン溶液に添加する。濃度変化をHPLCにより測定し、合成条件がそれぞれの金属イオンのそれぞれの吸着量に与える影響を明らかにする。また、複数の金属イオンが同時に存在するときの吸着量を測定し、ゲルの選択吸着性についても検討する。 3. 溶液の温度、pHがレアメタルイオンの吸着特性に与える影響の検討 (平成25年10月~12月) レアメタルによって吸着量が最大となる温度やpHは異なるため、濃度の異なる数種類のレアメタル溶液を調整し、所定の温度、pHで吸着させ濃度変化をイオンクロマトグラフにより測定する。吸着等温線を作成し、レアメタル毎に吸着量が最大となる温度やpHを明らかにする。 4.レアメタルに対応したゲルの選択および、最適操作条件の検討(平成26年1~3月)1~3で得られた知見よりレアメタル毎に適切なゲル吸着剤を作製し、ガラス容器中のレアメタル溶液に添加する。温度調節の可能な恒温槽中で、高温、低温に温度変化させて繰り返し吸着、脱着操作を行い、連続的な吸・脱着操作に最適な温度、pH、吸脱着時間などの操作条件を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費(直接費)の使用計画は、物品費を\650,000計上しているが、内訳は、消耗品\450,000(吸着剤合成要試薬:\150,000、合成用ガラス器具:\100,000、樹脂製消耗品:\50,000、分析用カラム:\150,000)設備備品費:\20,000(恒温槽:\200,000)である。ゲルを合成、物性の測定のために、ガラス器具、試薬・薬品、プラスチック製器具(ピペットチップ、遠沈管)などの消耗品が毎年必要となる。HPLCカラムは、イオン濃度の測定に必要であり消耗品であるため1本分計上した。恒温槽は吸着材の温度と吸着特性の関係を測定するために使用する。 旅費として計上した¥30,000の内訳は、国内での主に化学工学会、分離技術会等での成果発表と情報収集のための参加旅費¥100,000である。 その他¥50,000は、主に学内共同施設である、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)の使用料(¥1,000/hr)である。 以上、合計¥1,100,000を次年度の研究費(直接費)として計上し、研究代表者に¥900,000、研究分担者2名にそれぞれ¥100,000を分担する。
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