2011 Fiscal Year Research-status Report
がん細胞の三次元培養による薬剤耐性の発現と新規制がん剤アッセイ系への応用
Project/Area Number |
23560951
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Research Institution | Sojo University |
Principal Investigator |
松下 琢 崇城大学, 生物生命学部, 教授 (10209538)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松本 陽子 崇城大学, 生物生命学部, 教授 (00133562)
石田 誠一 国立医薬品食品衛生研究所, 薬理部, 室長 (10270505)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 三次元培養 / がん細胞 / 薬剤耐性 / MDR1 / ドキソルビシン / 薬物排出活性 / ハイブリッドリポソーム |
Research Abstract |
がんには、制がん剤を使って治療を続けるうちに、細胞の薬物排出活性の亢進による薬剤耐性を獲得するケースがあり、この薬剤耐性の克服は、がん治療の大きな課題となっている。近年、このがん細胞の薬物排出活性の亢進に三次元組織形成が関与していることが報告されているが、現在の制がん剤スクリーニングには二次元単層(monolayer)培養が用いられており、がん細胞の薬剤耐性が十分に発現できていない。そこで、本研究では、これまで本研究室で研究されてきた正常肝細胞の三次元(spheroid)培養法を肝がん細胞に適応し、薬剤耐性などのがん細胞の諸性質を生体外で発現させることを検討した。23年度は、1、松下らが独自に開発したpoly-L-glutamic acidを被覆した96ウェルプレートを用いて、肝がん細胞(HepG2)の三次元培養を利用した新規アッセイ系を開発した。このアッセイ系を用いて、肝がんに効果のある様々な制がん剤の増殖抑制試験(IC 50値の測定)を行った。その結果、三次元培養によって薬物排出タンパク質(MDR1)の発現の増大が確認されるとともに、MDR1によって排出されるドキソルビシン(DOX)やエピルビシンなどの薬剤に対して、肝がん細胞の三次元培養によって、薬剤耐性の発現が確認された。2、このアッセイ系を用いて、がん細胞の薬剤耐性を低下させる新しいタイプの制がん剤(薬剤耐性克服薬)の探索を行った。その結果、研究分担者の松本らが開発した、がん細胞膜に選択的に融合蓄積し膜タンパク質に作用することでがん細胞のアポトーシスを誘導するハイブリッドリポソーム(HL)が、本肝がん細胞のMDR1タンパク質による薬物排出活性を阻害し、DOXに対する薬剤耐性を低下させる効果を見出した。このことは、HLが制がん剤としての効果だけでなく、薬剤耐性克服薬としての効果を有していることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
23年度の研究計画は、次の3点であった。1、肝がん細胞(HepG2)の三次元培養を利用した新規アッセ実施イ系の開発。2、HepG2の三次元培養を利用した新規アッセイ系における網羅的遺伝子発現解析。3、HepG2の三次元培養アッセイ系を用いたハイブリッドリポソーム(HL)の薬物排出活性に与える効果の検証。この内、1については、申請者らが独自に開発したpoly-L-glutamic acidを被覆した96ウェルプレートを用いて、肝がん細胞(HepG2)の三次元培養に適した播種細胞密度などを検討し、培養条件の最適化を行うことで、新規アッセイ系を開発できた。また、24年度に予定されていたウェスタンブロット法によるMDR1タンパク質の発現量の解析もすでに実施しており、従来の二次元単層培養よりも増大することが示された。3についても、研究分担者の松本らが開発したHLの制がん剤ドキソルビシン(DOX)の排出活性に与える効果を、上記のアッセイ系を用いて検討した。その結果、ある脂質組成のHLがMDR1によるDOXの排出活性を阻害することを証明し、肝がん細胞の三次元培養によって上昇したDOXの高いIC50値を、HLが著しく低下させることを見出した。このことは、HLが薬剤耐性克服薬として作用することを示している。HLは、それ自身が副作用のない制がん剤であるが、DOXなどの制がん剤との併用によって、相乗効果的にその制がん作用を高められることが期待できる。2については、研究分担者の石田氏との共同で、三次元培養した肝がん細胞からDNAを抽出するプロトコールを23年度に確立した。引き続き24年度には、遺伝子発現の網羅的解析を行う予定である。以上のように、23年度の研究実施計画は、概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度以降は、23年度に実施予定であった肝がん細胞(HepG2)の三次元培養による遺伝子発現の網羅的解析を進める。この遺伝子発現状態を肝がん組織のものと比較することで、三次元培養によって、生体内の肝がん組織の性質を、生体外でどこまで再現できるかの検証を行う。また、薬剤耐性が問題となる、より悪性度の高い肝がん細胞(HuH7)や、腎がん細胞、結腸がん細胞などの三次元培養についても、予定通り、24年度に研究を実施する。具体的には96ウェルプレートを被覆するpoly-L-glutamic acid濃度や、細胞の播種密度などを最適化する。その後、制がん剤ドキソルビシンを用いて、各細胞の薬物排出活性を測定するとともに、二次元培養と比較する。また、HLの薬剤耐性克服薬としての脂質組成や処理時間などについても最適化を行う。さらに、HepG2やHuH7細胞の三次元培養アッセイ系を用いたHLの作用に伴う遺伝子発現の網羅的解析についても、予定通り実施する。これまでHLの作用に伴うアポトーシスの誘導現象において、未解明であった遺伝子発現に与える影響を、GeneChipを用いた網羅的解析により検討を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度の研究費の使用計画は、以下の通りである。1、がん細胞の三次元培養による遺伝子発現の解析を行うための、DNA・RNAの抽出キットの購入費。2、肝がん細胞(HepG2)以外の薬剤耐性を有する他のがん細胞へ三次元培養を応用するための、より悪性度の高い肝がん細胞(HuH7)、腎がん細胞(OS-RC-2)、結腸がん細胞(LS174T)などの購入費。3、これらの細胞を培養するための培養器具、培地などの購入費。
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