2012 Fiscal Year Research-status Report
がん細胞の三次元培養による薬剤耐性の発現と新規制がん剤アッセイ系への応用
Project/Area Number |
23560951
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Research Institution | Sojo University |
Principal Investigator |
松下 琢 崇城大学, 生物生命学部, 教授 (10209538)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松本 陽子 崇城大学, 生物生命学部, 教授 (00133562)
石田 誠一 国立医薬品食品衛生研究所, 薬理部, 室長 (10270505)
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Keywords | 三次元培養 / がん細胞 / 薬剤耐性 / MDR1 / ドキソルビシン / 薬物排出活性 / ハイブリッドリポソーム / DMPC |
Research Abstract |
がんには、制がん剤を使って治療を続けるうちに、細胞の薬物排出活性の亢進による薬剤耐性を獲得するケースがあり、この薬剤耐性の克服は、がん治療の大きな課題となっている。近年、このがん細胞の薬物排出活性の亢進に三次元組織形成が関与していることが報告されているが、現在の制がん剤スクリーニングには二次元的な単層(monolayer)培養が用いられており、がん細胞の薬剤耐性が十分に発現できていない。そこで、本研究では、これまで本研究室で研究されてきた正常肝細胞の三次元(spheroid)培養法を肝がん細胞に適応し、薬剤耐性などのがん細胞の諸性質を生体外で発現させることを検討した。23年度は、松下らが独自に開発したpoly-L-glutamic acidを被覆した96ウェルプレートを用いて、肝がん細胞(HepG2)の三次元培養を利用した新規アッセイ系を開発した。24年度は、このアッセイ系を用いて、がん細胞の薬剤耐性を低下させる新しいタイプの制がん剤(薬剤耐性克服薬)を探索した。その結果、研究分担者の松本らが開発した、がん細胞膜に選択的に融合蓄積し、膜タンパク質に作用することで、がん細胞のアポトーシスを誘導するハイブリッドリポソーム(HL)が、本肝がん細胞のMDR1タンパク質による抗がん剤ドキソルビシン(DOX)の排出活性を阻害し、DOXに対する薬剤耐性を低下させる効果を見出した。また、脂質成分としてL-α-Dimyristoylphosphatidylcholine(DMPC)が有効であることや、150μMの濃度で効果を上げることを見出した。また、研究分担者の石田との共同で、がん細胞の薬剤耐性発現の機構を、細胞活性と遺伝子の網羅的解析から検討するための遺伝子抽出などの準備を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
24年度の計画では、肝がん細胞(HepG2)の三次元培養による遺伝子発現の網羅的解析を勧める予定であった。また、肝がん細胞以外に、腎がん細胞、結腸がん細胞などのがん細胞の薬剤耐性についても、三次元培養による生体外での発現について検討する予定であった。しかし、肝がん細胞でのハイブリッドリポソーム(HL)による薬剤耐性の阻害効果が見出されたため、その最適な脂質組成や、適用濃度の検討に時間を費やすこととなり、これらの研究計画が十分に行えなかった。但し、網羅的遺伝子発現の解析に必要な、三次元培養した細胞からの遺伝子(DNAとRNA)の抽出については、ほぼプロトコール作成を終えたので、今年度、是非検討したいと考えている。また、肝がん細胞以外の細胞についても、腎がん細胞では、三次元培養の予備的検討は行っており、今年度は十分に行えると思われる。他の計画については、上述したように、HLが薬剤耐性克服薬になりうることが示され、大変に研究が推進された。HLは、すでに制がん剤として、臨床応用が進んでおり、安全性も確認されているため、これまで困難であった副作用のない、薬剤耐性克服薬の開発につながる成果をあげることができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度は、24年度に実施予定であった肝がん細胞(HepG2)の三次元培養による遺伝子発現の網羅的解析を進める。この遺伝子発現状態を肝がん組織のものと比較することで、三次元培養によって、生体内の肝がん組織の性質を、生体外でどこまで再現できるかの検証を行う。また、薬剤耐性が問題となる、腎がん細胞や結腸がん細胞などの三次元培養についても今年度研究を実施する。さらにHLの薬剤耐性克服薬としての効果が、肝がん細胞以外の、これら他の臓器がん細胞に対しても有効であるかどうかの詳細な検討を行う。 上述したようにHLは、各種のがん細胞に特異的に蓄積して、アポトーシスを引き起こすことが知られているが、このアポトーシスの誘導現象において未解明であった遺伝子発現に与える影響に関しても、GeneChipを用いた網羅的遺伝子解析により検討を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度の研究費の使用計画は、以下の通りである。 1)各種がん細胞の購入費。 2)がん細胞の三次元培養による遺伝子発現の解析を行うための、DNA・RNAの抽出キットの購入費。 3)これらの実験を行うための、培養器具、培地などの消耗品費。 また、24年度には33546円の次年度使用額(B-A)が発生したが、これは実験の進捗に若干の遅れがあったためで、次年度に繰り越して使用したいと考える。
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