2011 Fiscal Year Research-status Report
波形分離による漁船機関に最適な次世代型状態監視システムの高精度化
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23560981
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Research Institution | National Fisheries University |
Principal Investigator |
太田 博光 独立行政法人水産大学校, その他部局等, 准教授 (80399641)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 漁船 / 状態監視 / 波形分離 / 超音波振動 / 機関 / 潤滑油 / 音響診断 |
Research Abstract |
本研究は機関損傷の要因として最多である潤滑油性状劣化を機関の摺動部から発生する超音波振動を非接触にて監視することで評価することが可能となる,いわゆる故障原因除去型保全(プロアクティブメンテナンス)に立脚する次世代型状態監視システムの開発と高精度化である.さらに本研究では船舶の機関室内のように狭空間かつ比較的低剛性下の環境において主機関,発電機,レシプロコンプレッサなど複数の機械設備が設置された場合でも高精度な状態監視を行うシステムの開発が目的である.狭空間かつ低剛性の環境下で振動診断による状態監視を行う場合,機械設備ごとにセンサーを設置する必要があるためコスト面,配線などの取り回しの面で難がある.本研究では「単一の指向性マイクロホン」と提案する「波形分離」の手法を取入れることで機関室にて複数台稼動する機械設備の状態監視を同時かつ高精度化に行えるシステムの開発を目指す.本研究の特長は以下2点である.(1) 潤滑油性状の劣化や潤滑状態を機関の摺動部から発生する超音波振動を非接触にて監視することで簡便かつ高精度に評価することが可能.(2) 特定の方向のみに感度が優れた指向性マイクロホンを遠方に1個設置し,測定された合成波形に対し提案する「波形分離」を適用することで複数存在する機械設備の中から特定の状態監視対象設備のみから生じた時系列波形を分離することが可能となり高精度な状態監視が可能.本年度は「波形分離」に関する手法の有効性検証を行っている.提案手法の考え方は使用する指向性マイクロホンの指向特性を利用した周波数成分の判別と判別後の逆フーリエ変換による周波数領域から時間領域への波形再構成にある.本年度は軸受,歯車など機械要素の異常が再現可能な回転ローター装置 計3台を使用して波形分離の基礎実験を実施し手法の有効性を確認している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は指向性マイクロホン(以下,指向性マイクと略)を遠方場に1個設置し,測定された合成波形に対し提案する「波形分離」を適用することで複数存在する機械設備の中から特定の状態監視対象設備のみの時系列波形を分離することで高精度な状態監視を行うものである.本年度は「波形分離」に関する手法の有効性検証を行った.提案手法の考え方は使用する指向性マイクの指向特性を利用して周波数領域で得られる周波数成分の強度変化から各周波数成分の到来方向を判別する手法である.対象設備ごとに指向性マイクを向け発生する駆動周波数成分の強度差から対象設備を判別する手法である.その後,周波数領域において監視対象の設備のみから生じた周波数成分を残し,それ以外の設備から生じた周波数成分値を0(ゼロ)と置き,逆フーリエ変換を施すことで監視対象のみから発生した時系列音響波形を得ることが可能となる. 本年度は軸受,歯車などの異常の再現が可能な回転ローター装置,計3台を実験室内に設置し,指向性マイクを使用して波形分離の基礎実験を実施し提案手法の有効性を確認している.また真空ポンプ計3台も使用し有効性検証を行っている.波形分離を行う損傷状態として転がり軸受損傷,歯車摩耗,ローターアンバランスである.特に各回転ローター装置の異常を判別するために重要な駆動周波数を分離するために有効である「装置-装置」間距離と「指向性マイク-装置」間距離となす角を実験により定量化している.また波形分離の精度に悪影響を与える壁面からの反射音の影響を検証し識別に有効な「指向性マイク-壁面間」距離と壁面に吸音材を配置し,反射音を低減させた場合の有効な距離を検証し定量化を行った.他に本研究課題に関して2企業と共同研究を実施している.来年度平成24年度に本研究課題に関する共同特許出願を予定していることから本研究はおおむね順調に進展していると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は研究室に設置してある回転ローター装置 3台および4サイクルガソリンエンジン 3台を使用し波形分離の有効性を検証する.特に超音波領域に発生する潤滑油性状の劣化に関連する周波数帯での波形分離の有効性および駆動周波数帯である低周波領域に現れる危険なトルクリッチ状態の波形分離の有効性を検証することを目的とする.提案法に対する検証値としてシリンダ壁面に設置したAE(Acoustic Emission)センサのデータを用いる.また潤滑油性状の検証は計数汚染度,SOAP法,フェログラフィー法により性状解析を実施し周波数成分の強度との定量化を行う.提案手法では機関ごとの周波数成分の強度差を単一の指向性マイクを使用して測定する.使用している指向性マイクは一般に高周波帯域ほど指向性が鋭くなるため潤滑油性状に関する超音波帯域の方向定位は比較的良好に行なるものと考えられる.しかしながら距離減衰によるSN比低下防止対策として適応フィルタを用いることで異常に関連ある周期成分の強調を行い,ランダムなホワイトノイズ成分の除去を行なう計画である. 危険なトルクリッチ状態の検出に関してはトルクリッチ関連の周波数成分は距離減衰効果の少ない低周波帯に現れるため距離減衰によるSN比低下は超音波領域より少ないため検出精度の低下は比較的低く抑えられるものと思われるがSN比向上対策として前述の適応フィルタを用いる計画である.さらに有効な波形分離が可能な「機関-機関」間距離と「指向性マイク-機関」間距離に関して定量化を行なう計画である. また反射音の影響を検証し識別に有効な「指向性マイク-壁面間」距離も定量化させる予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は提案する「波形分離」に関する技術を研究代表者の使用している回転ローター装置 3台および実機4サイクルガソリンエンジン3台に適用し潤滑油性状および危険なトルクリッチ状態検出の高精度化を検証する計画である.4サイクルエンジンオイル,エンジン始動用バッテリおよび燃料であるガソリンを当研究費にて購入する予定である.他に連携協力者との打合せ2回(三重大学,三重―下関),研究協力者との打合せ1回(トライボテックス株式会社,下関―名古屋),国内成果発表2回,海外成果発表1回に相当する旅費を計上している.さらに本研究にて提案している技術を「設備状態監視システム(仮名称)」として特許出願のための費用を計上している.
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Research Products
(11 results)