2011 Fiscal Year Research-status Report
バイオマスの急速熱分解により得られるバイオオイルからの水素製造プロセスの開発
Project/Area Number |
23560982
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
岩佐 信弘 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30223374)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 水素 / バイオマス / バイオオイル / 酢酸 / スメクタイト |
Research Abstract |
本研究ではバイオマスから水素を製造することを目的に,バイオマスの急速熱分解により得られるバイオオイルを触媒を用いて水蒸気改質により水素に変換するプロセスの開発を行った。本年度はバイオオイルの主要な構成成分の一つである酢酸をモデル物質として取り上げ,水蒸気改質による水素の製造を粘土化合物の一種であるスメクタイトを触媒として用いて検討を行い,以下の結果を得た。水熱法により合成したニッケル,鉄あるいはコバルトを含有するスメクタイトの酢酸の水蒸気改質に対する活性および選択性は,含有する金属の種類により異なりニッケルを含むスメクタイトが最も優れた特性を示す。いずれのスメクタイトも反応初期に活性の低下が起こるが,反応開始200分以降は安定した活性を示すことが明らかになった。反応初期の活性の低下は,触媒上に析出する炭素種が原因であるが,反応後の触媒を水素あるいは酸素気流中で処理することにより,炭素種はメタンや二酸化炭素に変換されて除去されること,水素処理を施すことにより触媒を再生可能であることが明らかになった。メタンなどの炭化水素の改質においては,触媒にカリウムやナトリウムなどのアルカリ金属を添加することにより,反応中に析出する炭素種を抑制できることが報告されている。本研究においてもニッケルを含有するスメクタイトへのアルカリ金属の添加効果について検討したが,炭素種の析出は抑制できなかった。しかし,アルカリ金属を添加すると反応初期の活性が著しく向上すること,その効果はカリウムの添加が最も効果的であることが明らかになった。カリウム添加量の影響を調べた結果,カリウムの最適添加量は5wt%であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は水熱法により種々の金属を含むスメクタイトを合成し,その特性評価を行い,ニッケルを含むスメクタイトがバイオオイルのモデル物資である酢酸の水蒸気改質に対して有効な触媒であることを明らかに出来た。しかし,当初から予想されたように反応中に触媒表面へ炭素種が析出することにより,反応初期に活性が低下してしまう。アルカリ金属をスメクタイトへ添加することにより,炭素種の析出を抑制することを試みたが,残念ながら炭素種の析出の抑制は出来なかった。しかし,新たな発見としてアルカリ金属,特にカリウムを添加したニッケル含有スメクタイトは,反応の初期活性が著しく向上することを見出した。この結果は,高活性な触媒の調製において重要な知見であり,今後,触媒のキャラクタリゼーションを行い,アルカリ金属の添加により活性点であるニッケルの状態がどのように変化しているのかを明らかにすることにより,高活性な触媒の調製に関する指針が得られると考えられる。また反応中に析出した炭素種は,水素あるいは酸素気流中で処理をすることにより容易に除去可能であること,水素処理により触媒の活性が回復することが明らかになった。水素処理の温度は,反応温度よりも低い400℃程度でも十分な効果があることから,水素を共存させて反応を行うことにより炭素種の析出による活性劣化が抑制されることが期待される。上記で得られた結果より,本研究は概ね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究において,ニッケルを含有するスメクタイトが酢酸の水蒸気改質に対して高い活性を示すことが明らかになったので,今後はこの触媒の活性をさらに向上させるとともに反応中の炭素種の析出を抑制することを目的に研究を進める。具体的には,活性向上においてはカリウムなどのアルカリ金属の添加により活性が向上することから,アルカリ添加のスメクタイト触媒のキャラクタリゼーションを行い,活性点であるニッケルの状態や作用機構を明らかにすることにより,高活性触媒を調製するための知見を得る。炭素種の析出の抑制においては,析出した炭素種が水素や酸素気流中で昇温すると反応温度よりも低い温度で水素化や酸化によりメタンあるいは二酸化炭素となり除去可能であることから,反応ガス中に水素や酸素を共存させて,その効果について検討する。またバイオマスから容易に合成可能なエタノールや実バイオオイルを用いた水素製造についても検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度の未使用額の発生理由本年度の研究において,アルカリ金属をスメクタイトに添加すると酢酸の水蒸気改質の初期活性が著しく向上することが明らかになった。その要因を明らかにするために,光電子分光(XPS, AES)や電子顕微鏡(FE-SEM, TEM)を用いて触媒のキャラクタリゼーションを行う必要が生じたが,本年度は時間がなく実施出来なかった。これらの測定には本学の共同利用設備である分析装置を使用するが,装置使用料が必要であるために本年度の研究費から200,000円ほどを繰り越した。平成24年度の使用予定上述のように本学共同利用の機器使用料金に23年度に繰り越した200,000円を使用する予定である。また,その他の研究費としては,次年度は薬品,高圧ガスやガラス器具などの消耗品費に600,000円,国内や外国で開催される学会において研究成果を発表するための旅費に600,000円を使用予定である。
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Research Products
(2 results)