2012 Fiscal Year Research-status Report
プラズマ・壁相互作用研究ツールとしてのグロー放電発光分析の高度化
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23560998
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
波多野 雄治 富山大学, 水素同位体科学研究センター, 教授 (80218487)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
赤丸 悟士 富山大学, 水素同位体科学研究センター, 助教 (10420324)
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Keywords | プラズマ・壁相互作用 / 機器分析 / 薄膜 / 表面・界面 / プラズマ応用 / 水素同位体 / ヘリウム / 深さ方向分析 |
Research Abstract |
本研究の目的は、核融合炉プラズマ対向壁タイル等の大型試料を迅速に分析できるグロー放電発光分析法GDOESを用いてプラズマ対向材料(PFM)および堆積層構成元素、重水素(D)、トリチウム(T)、Heの定量的深さ方向分析を行う技術基盤を確立することである。今年度は金属材料中の水素同位体定量分析法の確立に注力し、既知濃度の水素同位体を含有する標準試料調製法として3つの方法を試みた。以下に各方法の概要と得られた結果を示す。これらの手法は原理的にH、D、T全ての同位体に応用可能なので、以下「水素」とまとめて呼ぶ。 (1)金属試料を重イオン照射し水素の捕獲サイトとなる欠陥を形成したのち、水素ガスに曝露することで欠陥に水素を導入する方法。導入した水素の濃度分布を別途核反応法等で分析する必要があるものの、PFMとして有望視されているW等の水素溶解度が低い金属では欠陥中に強く水素が捕獲され、安定した標準試料となりえることがわかった。水素の欠陥占有率も水素ガス圧力を変化させることで調整可能であった。 (2)水素吸蔵物質膜に既知量の水素を吸収させる方法。他の手法による水素濃度測定が不要というメリットがある。Mo基板上のTi膜にDを吸収させ測定したところ、平坦なD濃度分布は得られなかったが、D信号強度の深さ方向積分値とD吸収量の間に比例関係が確認された。今後、D分布の平坦化を図る。 (3)アークプラズマガンを用いて水素ガス雰囲気中で金属膜を成膜する方法。膜中の水素濃度を昇温脱離法等で定量する必要があるが、水素吸蔵能が低い元素にも応用できる。TiやTa膜をH2やD2ガス中で成膜したところ、(2)と比べより平坦な水素濃度分布が得られた。膜中の水素濃度は成膜時のガス分圧を変化させることで調整可能であった。 以上の成果より、金属材料については標準試料の調製法をほぼ確立できたと結論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述のように金属材料中の水素同位体の定量分析手法の確立に見通しを得た。また、金属元素については比較的容易に標準試料を準備できる。一方で、炭素堆積層の測定では、水素含有量によってスパッタ速度が大きく変化するという、金属材料にはない問題が生じることも見出した。ただし、後述するように、その解決に向けた計画も立案されている。以上のことを総合的に判断し、おおむね順調に進展していると結論した。
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Strategy for Future Research Activity |
多くの核融合装置では、ダイバータ板等の高い熱負荷を受ける箇所に炭素系材料を用いており、この炭素のスパッタリングと再堆積により、炭素系材料自身のみならず第一壁等の金属材料の表面にも水素同位体を比較的高濃度に含有する炭素堆積層が形成される。また、炭素堆積層中の水素同位体濃度は壁温度等で変化する。従って、プラズマ対向材料中の水素同位体挙動を知るうえで、炭素堆積層中の水素濃度の定量測定は極めて重要である。 GDOESでは、試料表面を連続あるいはパルス的にスパッタし、プラズマ中に混入した原子からの発光強度を測定することで深さ方向分布を得る。発光強度は試料のスパッタ速度と、プラズマ中での励起確率によって決まる。金属の場合には試料中の水素の存在がスパッタ速度にほとんど影響しないので、例えばTiなど一種類の金属について水素濃度の校正曲線を得ておけば、Wなど他の金属についても純Tiと純Wの発光強度とスパッタ速度を測定するだけで水素濃度を比較的容易に評価できる。一方で、炭素の場合には水素含有量によって化学結合様式とスパッタ速度が大きく変化するため、水素濃度とスパッタ速度の関係を把握しておかなければ、水素濃度のみならず炭素濃度や堆積層の厚さも評価が困難となる。 そこで2013年度は、水素含有量が異なる炭素堆積層を作製し、水素含有量-スパッタ速度-GDOES測定における炭素発光強度-水素発光強度の相関関係をデータベース化することを目指す。WやMo等の水素溶解度が低い金属の表面に、水素ガス雰囲気中で炭素膜をアークプラズマ法やスパッタ成膜法で形成させる。これらをGDOOESで測定すると共に、水素含有量を昇温脱離法等で、膜厚を表面粗さ計等で調べることで上記相関を評価する。成膜手法による違いを調べるため、市販のダイヤモンドライクカーボン膜等についても測定を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究に必要な設備備品は既に富山大学水素同位体科学研究センターおよび自然科学研究支援センター機器分析施設に既設であり設備備品費は不要なので、物品費は主に試料、試料調製に必要な消耗品(研磨剤等)、ガス類の購入にあてる。標準試料の成膜や水素含有量測定のための研究補助者の人件費・謝金の使用を予定している。加えて、研究成果を速やかに公表するための学会参加旅費および論文印刷費を使用する。次年度使用額(15,997円)は主に旅費や消耗品費の年度当初見積額との差額の累積により生じたが、これは主に上述の消耗品費に充当する予定である。
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