2013 Fiscal Year Research-status Report
超高照射量領域での原子炉材料の力学挙動の実験/モデルによる推定
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23561022
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Research Institution | Fukushima National College of Technology |
Principal Investigator |
實川 資朗 福島工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (80354835)
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Keywords | 原子力エネルギー / 構造・機能材料 / 格子欠陥 / 加速器 / 弾き出し損傷 / 照射脆化 / 照射硬化 / ヘリウム脆性 |
Research Abstract |
核融合プラントの検討で、1000dpaを越える極めて高い照射損傷量での耐久性が必要になるとの見解が示された。福島での事故を受け、軽水炉の使用期間が短くなる傾向は有るが、部材によっては、弾き出し損傷量が100dpa、核変換生成ヘリウム(He)量が5000appm程度に達する。また、カナダの重水炉では、多量のHe原子生成による炉心部品の破損も発生したと聞く(この損傷は、本課題の提案時に予見していた)。このように高損傷領域での材料挙動の把握の必要性は、原子力機器の安全性維持の視点からも高まりつつある。 本研究では、照射損傷速度が高い加速器によるイオン照射を用い、超高照射損傷領域での構造材料の挙動を評価し、損傷機構モデルを構築した。なお、福島第一原発での照射損傷量は比較的低いが、高温での損傷が加わる点につき、本研究での知見を活かせる部分があり、このような課題への適用も視野に加えた。H25年度には、H24年度までのイオン照射により高い損傷量を導入した試料について、極微小硬さの評価を含め、開発した極微小領域強度評価装置により微小な領域からの強度特性評価を進めた。なお、東日本大震災により照射装置のマシンタイムの減少等が継続して生じたが、試料の作製方法を工夫し、弾き出し損傷量については目標を概ね達成し、He注入量については、目標値を越える20000appm以上まで実施した。その結果、He濃度の増加による硬化が靭性の低下をもたらすモデルなどを構築し、結果について国際会議での講演を依頼され、また論文を投稿した(査読中)。加えて、変形領域の微細組織観察によりモデルの拡張が期待できるため、補助事業期間延長を申請し、モデル化をさらに進めることとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概要で記したが、東日本大震災の影響で生じた照射の遅れについては、実験方法に工夫を行い、弾き出し損傷量については目標値を達成すると共に、ヘリウム原子の注入量については、目標値を越える20000appmを達成した。24年度の報告に記したが、カナダの重水炉での高ニッケル合金に生じたHeの大量生成による炉心部品での割れの発生を考慮すれば、He原子濃度の増加に伴う問題の重要性が高いと判断される。従って、弾き出し損傷よりもHe原子の影響に重点を移すことが合理的と思われ、この方向で評価を進めた。また、微細領域から強度特性を測定する極微小領域強度評価装置については、前年度の検討を基に製作を進め、極微小領域から硬さを含む強度特性の評価を達成した。この結果、新たにマルテンサイト系のステンレス鋼に生じるHe原子による硬化の温度依存性を抽出することに成功し、400℃以下の温度範囲では、温度が高いほど少ないHeレベルから影響が生じ始めることを明らかにした。なお、300℃では、10000appm近くの濃度になって、ようやく硬さの増加が生じるが、このレベルは、従来の指摘よりも高い濃度レベルであり、材料中のHeの移動を制御することで、硬化や靭性低下の抑制ができることを示唆する。これらの知見は、高濃度のHeが形成するHeを多く含むキャビティーの大きさの分布と硬化の間に関係があることを示している。従って、硬化や脆化のモデルをより明確にするためには、変形領域の微細組織を検討することが効果的である。そこで補助事業期間延長を申請し、電子顕微鏡などによる微細組織の評価を加えることで、より詳細なモデルにする方向とした。このように、震災の影響による遅れを克服し、さらに照射硬化に関するモデルの拡張を図っている。なお、過酷事故を生じた福島第一プラントの事故過程解析などへの適用も効果的な手法なので、この方向の検討も加えた。
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Strategy for Future Research Activity |
H24年度の当初に指摘した事柄であるが、カナダの重水炉での知見等を受けて、弾き出し損傷に比べて、ヘリウム原子による損傷(材料挙動の変化)に重点をおく方向で進めている。このためH24年度の当初に、東日本大震災によるマシンタイムの減少への対応を含め、弾き出し損傷量の最高値を500dpaに減じ、さらに照射実験方法に工夫を加え、その結果、目標値を達成できた。ヘリウム量に関しては、10000appmを越える領域を対象とするよう変更したが、これについても達成できた。また、微小領域での強度測定に用いる極微小領域強度評価装置については、変形機構の駆動方法に工夫を行うなどを通じて製作を行った。さらに、これらから結果を基に、Heの影響を含めた照射硬化に関するモデル化も実施したが、この過程でモデル化を進化させるには、変形領域の微細組織の観察の重要性を見いだし、今後は、これを実施するための観察機器(電子顕微鏡など)に工夫を加えるなどし、これを進めるため補助事業期間延長を申請した。加えて、本課題でのターゲットである、軽水炉や核融合装置のような、低い温度領域での金属材料における損傷に加え、さらに温度が高い領域や、ガラスやセラミック等の高損傷量領域での挙動解明への展開も模索する。この中には、福島第一原発の事故過程解析への寄与も含める。これは、軽水炉材料であっても、高温を経験すれば、核変換生成ヘリウム原子のよる損傷の影響が強く表れる場合があるためである。原発事故では、照射損傷に加えて、高温を経験したことによる脆化等の変化についても評価を早めに行うことが重要と思われ、このような取り組みへの応用も探索する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本課題では、イオン照射により超高レベルの損傷領域を与えた、ステンレス鋼等の試料を作製し、これに極微小領域強度評価装置による照射硬化や変形挙動変化などの評価を行うものである。併せて、硬化の機構などを中心にモデルの構築を行うものであるが、モデリングの過程で、特に、変形後の微細組織について観察を行い、照射で導入されたキャビティーなどの微細組織と変形で導入された転位との関係などに検討を加えることで、モデルをより詳細なものとし得ると判断した。そこで、補助事業期間延長を申請し、電子顕微鏡などによる変形後の微細組織の評価を加え、モデル化を深める方向を選択した。特に、照射で導入したHeを含むキャビティーの挙動に着目し、これを通じて、硬化に加えて、靭性の低下に関するHe原子の影響などについてのモデルをさらに明確なものとしたい。 極微小領域強度評価装置により変形挙動を検討したが、変形領域の微細組織観察を加えることで、さらに「照射損傷領域での変形・破壊機構」のモデル化への見通しが得られた。これを実現するために、極微小領域強度評価装置に(i)微細組織観察用試料位置決め機構を付加するとともに、(ii)微細組織観察機器(電子顕微鏡など)を利用するための装置の移動などのために、補助事業期間延長を申請した。
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Research Products
(3 results)