2012 Fiscal Year Research-status Report
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23561025
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Research Institution | The Wakasa Wan Energy Research Center |
Principal Investigator |
笹瀬 雅人 (財)若狭湾エネルギー研究センター, 研究開発部, 主任研究員 (60359239)
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Keywords | ナノ欠陥 / イオン照射 / 透過型電子顕微鏡 / ヘテロ界面 |
Research Abstract |
我々はイオンビームによる基板表面改質が拡散・反応を伴う成膜において高品質な薄膜作製に有効であると考えた。そこで、環境半導体鉄シリサイド薄膜の成長を通して、成膜におけるイオンビーム技術とその照射効果について、透過型電子顕微鏡による微細構造観察を中心に検討を行う。さらに、イオンビームが作り出す「柔らかい層」が、より一般的にヘテロ界面創製に有効であることを示すことを目的とする。 平成23年度には、イオンビームを用いた表面処理条件(柔らかい層作製)の最適化を図った。その結果、1keVの前処理条件にて急峻な界面を持つエピタキシャル薄膜が得られた。しかしながら、これまで良質だと思われていた薄膜内において界面に平行にならんだ規則性のある欠陥が観察された。この欠陥は、本手法による薄膜成長において重要な役割を担っていると考えられる。 平成24年度では、膜内に生成した規則性を持つ欠陥について、高分解能透過型電子顕微鏡による微細構造観察を通して欠陥種の同定や、欠陥がもたらす急峻なヘテロ界面成長メカニズムについて検討した。その結果、最適条件により得られた膜内において、界面に平行に存在する欠陥の観察から、この規則的なパターンは点欠陥の凝集したカスケード欠陥と考えられ、その距離・大きさは、前処理の照射エネルギー依存性を示した。この結果から定性的ではあるが、前処理でできた欠陥が膜内に拡散し、成膜中に移動することを示唆している。さらに、基板の表面処理でできた点欠陥がこのスパッタ成膜のプロセスにおいては相互拡散を促し、反応を促進する役目を果たしているといえる。成膜プロセスにおける拡散と、それに伴う反応の制御の可能性が示唆されたことで、今後、より欠陥の少ない薄膜創製を目指し、さらに条件の最適化を進めることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的は、イオンビームの生みだす欠陥が、高品質な薄膜作製と原子オーダーの急峻な界面創製に有効であること示すことにある。本研究期間内においてはこの目的に向かうために、1) イオンビームを用いた表面処理条件(柔らかい層作製)の最適条件の精密化、2) 欠陥種の同定及び急峻なヘテロ界面成長メカニズムの明確化、3) 急峻な界面を持つ高品質な薄膜の成長の3点を明らかにする。そしてこれらの成果に基づき、種々の化合物薄膜創製へと展開する。 平成23年度には、1)の項目について検討を行い、条件の最適化により急峻な界面を持つエピタキシャル薄膜が得られた。そして、イオン照射が結晶性及び表面構造を損なわない適度な欠陥を作り、円滑な相互拡散を促したことを明らかにし、1)に対応する成果を得た。 この成果に基づき、平成24年度には、2)欠陥種の同定及び急峻なヘテロ界面成長メカニズムについて検討を行った。その結果、欠陥の挙動を詳細に明らかにすることにより、基板の表面処理でできた点欠陥がこのスパッタ成膜のプロセスにおいては相互拡散を促し、反応を促進する役目を果たしていることを明らかにした。この研究結果は2)の項目に対応した結果といえ、本研究全体の70 %を達成したといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23, 24年度において、イオン照射は結晶性及び急峻なヘテロ界面生成に効果的であることを明確にする実験的な事実を得ることができた。しかし、原子レベルでの急峻な界面構造が得られていないのと、再現性の面でまだ完全とは言えない。また、欠陥という非常にユニークな手法を用いたヘテロ界面創製法を種々の化合物へ適用させるところまでには至っていない。そこで、最終年度において、原子オーダーのヘテロ界面を持つ良質な薄膜を再現性良く行うことを目的とし、欠陥の挙動をより明確化する。そして本手法を他化合物薄膜の創製方法への応用することを検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度実施目的である欠陥の同定と急峻なヘテロ界面成長メカニズムの明確な研究成果を得ることが出来たが、論文や研究発表という形で成果を公表することが出来なかった。そのため、平成24年度はデータのまとめに留め、成果発表は平成25年度に実施することとし、研究費60万円、平成25年度使用とした。特に成果発表のための国内外旅費として使用する。 平成25年度の研究を円滑に遂行させるためのものであり、計上された経費は必要最小限の妥当なものと考えている。 1)透過型電子顕微鏡及びスパッタ成膜装置用の消耗品を計上(物品100万円 ターゲット、ガス、電顕観察用消耗品、電顕試料作製用消耗品) 2)研究協力者との打合せや成果発表のための国内外旅費を計上(旅費70万円 国内・国外会議(応用物理学会、EMRS, SMMIB)) 3)学会等の参加登録費等を計上(その他10万円 学会参加登録費等)
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