2012 Fiscal Year Research-status Report
生殖腺によって制御される嗅覚行動の分子基盤と神経回路における情報処理機構の解析
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23570007
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
藤原 学 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70359933)
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Keywords | 行動 / 神経系 / 生殖腺 / 線虫 |
Research Abstract |
正常に生殖細胞が増殖した線虫と生殖細胞の増殖が妨げられた線虫では、匂いへの誘引行動に違いが見られる。このことから生殖細胞の増殖にともなって出されるなんらかのシグナルにより走性制御に関わる神経回路が調節を受けていると予想された。これは性的成熟にともなう行動変化のひとつの基盤となっている可能性が高い。 もしそのような機構があるとすると、生殖細胞の増殖を妨げられた成虫と生殖細胞がまだ増殖していない時期の幼虫は走性行動の特徴が共通しているはずである。そこで、幼虫期の線虫の匂いへの走性を調べた。幼虫期の線虫を用いた行動測定は未開拓の分野であり、成虫に比較して運動能力が低いため幼虫に最適化した化学走性のアッセイ系を工夫する必要があった。幼虫の行動測定系の確立により、生殖細胞の未増殖な幼虫は生殖細胞を持たない成虫と同様に特定の匂いに対する走性の低下が見られることが分かった。これは生殖細胞の増殖により成虫期の線虫の行動パターンを変化させる機構が存在することを強く裏付ける結果である。そこで、幼虫期から成虫期の行動変化を引き起こすのに働く分子機構を明らかにするため、幼虫期にも関わらず成虫と同様の走性行動パターンを示す変異体の単離を試みた。スクリーニングの結果、複数の候補変異体を得たので、現在、表現型の確認を行っている。 また、昨年度までの解析からミトコンドリアの働きがこの制御に関わっていることが示されているので、FRETプローブATeamを用いて生きた線虫の各組織での細胞内ATPレベルの可視化を試みている。いまのところ、生殖細胞の有無でATPレベルが変化するような組織を見いだすことができていないが、今後、さらに詳細な解析を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生殖腺による嗅覚行動の制御機構においてミトコンドリアがどのように関わっているのか、FRETプローブを用いて組織ごとのATPレベルの可視化と生殖腺の有無によるその変化を解析する予定だったが、現在のところ、はっきりとした結果を得ることが出来ていない。その一つの理由は、培養温度や発生段階(幼虫と成虫)の違いによってATPレベルにそもそも大きな違いがあることが分かってきたからである。今後、これらの影響を勘考した上で生きた個体の中での組織ごとのATPレベルを計測する技術基盤を確立し、生殖腺の有無が与える影響を解析する予定である。 一方、幼虫期の線虫は生殖腺のない成虫と同様の嗅覚行動パターンを示すことが本年度の解析から明らかにすることができた。これは、個体のライフサイクルにともなう行動パターンの変化に生殖腺シグナルが大事な役割を果たしている可能性を裏付けるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
生きた個体の中での組織ごとのATPレベルを計測する技術基盤を確立し、生殖腺の有無が与える影響を解析する。また、幼虫期の線虫を用いて成虫同様の嗅覚行動パターンを示す変異体候補をスクリーニングで得たのでこれを解析し、有望な変異体については全塩基配列の決定をして原因遺伝子を同定する。さらに以前、生殖細胞を持たない変異体を用いて正常な成虫と同様の走性パターンを示す抑圧変異体を単離しているので、これについても原因遺伝子を同定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
線虫の培養やその表現型の行動解析に用いるプラスチックシャーレや寒天培地などの消耗品を購入する予定である。 また、現在使用しているオートクレーブ高圧蒸気滅菌器が古くなったので、培地や実験器具の滅菌のために新しい機器を購入したいと考えている。さらに、変異株の全塩基配列決定を外部に委託する費用を計上する予定である。
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Research Products
(4 results)