2013 Fiscal Year Research-status Report
ゲノム安定性維持機構に関連する遺伝子の分離と機能解析
Project/Area Number |
23570012
|
Research Institution | National Institute of Radiological Sciences |
Principal Investigator |
菅谷 公彦 独立行政法人放射線医学総合研究所, 放射線防護研究センター, 主任研究員 (80280741)
|
Keywords | 遺伝学 / 遺伝子 / ゲノム / ゲノム安定性維持機構 / 温度感受性変異株 |
Research Abstract |
本研究課題は、哺乳類培養細胞の温度感受性変異株を用いて、染色体安定性維持機構に関連する遺伝子を分離し、その機能を明らかにすることを目的とする。研究対象とする温度感受性変異株には、DNA合成活性の低下やS期での細胞周期の異常などの表現型を示すものも少なくない。そこで、変異株中の複製反応を評価できる実験系を確立し、複製反応と染色体不安定性との関連を明らかにする。平成25年度は、以下の項目に関して研究を行った。 1.温度感受性変異株の原因遺伝子の探索と機能解析 平成24年度に分離した制限温度下で生育可能となった形質変換株を対象として、ヒト特異的なAlu配列を利用したPCRと塩基配列の解析を行った。また、サザンハイブリダイゼーションによりヒトゲノム断片の探索も行った。これらの解析から、形質変換株は自然発生型の形質復元株であること、親細胞である温度感受性変異株はヒトゲノム断片の導入の際に高頻度に形質が復帰することが明らかになった。一方、計画以上の成果が得られているtsTM3株に関しては、レポーターシステムを利用して核内のユビキチン化を詳細に解析した。また、ウェスタンブロッティングにより核内のユビキチン活性化酵素が著しく減少することを見出した。 2.DNA複製反応の解析系の確立 非許容温度下で複製反応に異常を示すtsTM3株などの変異株を対象に、CldUとIdUによる標識とDNAファイバーの解析により伸長反応を評価した。また制限温度下のtsTM3株では、核内のユビキチン化活性の低下に伴って、複製のライセンシング因子の分解に異常が起こることを見出した。これは核内のユビキチン活性化酵素の減少と反比例しており、ユビキチン活性化酵素の温度感受性変異が複製反応に影響を与える有力なメカニズムと考えている。これらの成果を国内外の学会にて発表するとともに、原著論文として取りまとめて投稿し受理された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東日本大震災の影響や福島第一原発の事故に関する業務などで、ヒトDNAによる温度感受性の相補と形質変換株の分離が遅れていたが、昨年度(平成24年度)に全ての温度感受性変異株に関して相補実験を終了した。最終的に3株の変異株から制限温度下で生育可能となった形質変換株が得られ、本年度(平成25年度)にヒト特異的なAlu配列を利用したPCRによる原因遺伝子の探索と塩基配列の解析、およびサザンハイブリダイゼーションによるヒトゲノム断片の探索を行った。これらの解析から研究対象としている温度感受性変異株には、ヒトゲノム断片の導入の際に形質復元株の出現頻度が増加する細胞株が含まれていることが明らかとなった。一方、tsTM3株に関しては、原因遺伝子であるユビキチン活性化酵素に関して、野生型遺伝子の導入による相補実験やウェスタンブロッティングにより、ユビキチン活性化酵素の核内における機能の一端が解明されるなど、計画以上に進展している。また、DNA複製反応の解析系の確立に関しては、各種の核酸前駆体アナログを用いたDNA複製反応の評価を行い、伸長反応を評価する実験系としてCldUとIdUにより新生DNA鎖を標識しDNAファイバーを作製して解析する方法を構築できた。また、ユビキチン活性化酵素の温度感受性変異が複製反応に影響を与える有力なメカニズムを見出した。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究対象である温度感受性変異株のうち、染色体不安定性の表現型を示す変異株には、制限温度下の自然発症の生存コロニーの出現頻度が高い細胞株や、相補実験操作により形質復元株の出現頻度が上昇する細胞株が含まれていた。これらの変異株は、相補実験による原因遺伝子の同定に不向きの細胞群と考えられ、対策を個別に検討する必要がある。そこで、これらの原因遺伝子の探索に関しては、科研費の新学術領域「ゲノム支援」への応募など、より効率的な方法を模索し随時計画を見直しながら進めたい。 また、予想以上の成果が得られているtsTM3株に関しては、原因遺伝子であるユビキチン活性化酵素について、変異の同定と機能解析について原著論文として研究をまとめることができた。今後はさらに染色体安定性維持機構と複製反応との連関を解析し、学会発表や原著論文の形で研究成果を発表したい。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度に、本研究課題の成果を取りまとめて論文投稿を行い、平成26年3月に修正原稿を再投稿した。本論文が受理された際には、平成26年度に論文投稿料を支払う必要があった。また審査の結果、修正を依頼された場合には、追加の実験や英文校正を行う必要があったため、未使用額が発生した。 予想以上の成果が得られているtsTM3株に関して、核内のユビキチン活性化酵素の温度感受性変異と複製反応や染色体安定性維持機構との関連を解析し、原著論文の形で発表できるよう研究の取りまとめを行う。 これらの計画を進めるに当たり、消耗品費として試薬とキット類の購入費を計上した。また、研究成果発表のための論文出版費、そして学会参加費と旅費を計上した。
|