2011 Fiscal Year Research-status Report
生物間の間接相互作用網を創出する「捕食-被食関係」に関する行動生態学的研究
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23570018
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
長 泰行 千葉大学, 園芸学研究科, 助教 (90595571)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 捕食ー被食関係 / 捕食回避行動 / 誘導反応 / 雑食性 / ギルド内捕食 / 揮発性物質 / 国際情報交流 / オランダ |
Research Abstract |
ナミハダニ(以下ハダニ)とミカンキイロアザミウマ(以下アザミウマ)は捕食者ミヤコカブリダニ(以下カブリダニ)のエサであり、3者は野外で同所的に観察される種である。ハダニとアザミウマは一般的には植食者として知られているが、アザミウマは寄主植物の質が悪いとハダニやカブリダニの卵をエサとする捕食性を示すことも報告されている。当該年度に行った研究では、ハダニの摂食による植物の質の変化を介してアザミウマのハダニ卵への捕食行動が変化するか、またそれによって両者をエサとして利用するカブリダニのエサパッチ選択がどのように変化するかを検証した。得られた結果は以下の通りである。 (1)ハダニの食害はアザミウマに対して負の影響を及ぼす(誘導抵抗性)が、その影響はハダニの密度に依存する。(2)ハダニ密度が高い時は低いときよりもアザミウマは多くのハダニ卵を捕食する。(3)ハダニ密度が高い時にはカブリダニはハダニとアザミウマが共存するエサパッチを避け、それはアザミウマがハダニの卵を捕食した時にのみ生じる。(4)カブリダニは実際にアザミウマが存在するパッチでは卵捕食の効果により増殖が抑えられる。 これら結果から、ハダニが植物を食害することで、アザミウマにとっての植物の質が低下し、その結果アザミウマによるハダニ卵の捕食が増加、アザミウマによる卵捕食のリスクを低下させるようカブリダニがエサパッチを選択することが明らかとなった。本研究は、複数のエサ種間の間接的な相互作用がそれらを利用する捕食者のエサパッチ選択に、特に子孫に対する捕食回避行動に大きな影響を及ぼしていることを示す新規な発見である。当該年度得られた結果は近畿大学・奈良キャンパスで開催された第56回日本応用動物昆虫学会大会において口頭発表を行う一方で、現在国際学術誌に投稿すべく執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の特色は、捕食者と被食者の「捕食ー被食関係」にそれをとりまく生物群集およびその相互作用が及ぼす影響を解明しようと試みている点である。 今年度得られた結果で、ハダニと植物の「捕食ー被食関係」によって植物の質が間接的に変化し、特にハダニの密度の影響によってアザミウマとハダニの間にの「捕食ー被食関係」が強まるという現象、エサ種間で生じる「捕食ー被食関係」によって捕食者が自身の子孫に対する捕食リスクを評価するという現象は、それだけでも興味深い発見である。また、捕食者1種と被食者2種を扱った生物間相互作用に関する研究では、捕食者が被食者間の競争に介在するというトップダウンの視点で行われることが多かったが、本研究では被食者間の相互作用がボトムアップ的に捕食者に影響を及ぼすことを示した点も斬新である。 一方で、それぞれの「捕食ー被食関係」が間接的かつネットワーク的に影響し合っていることが、これまでの結果から支持されつつあり、本研究の目的は現在までのところ概ね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に行った研究では、被食者2種間の相互作用が捕食者に及ぼす影響についてのみ検証が行われた。言い換えれば、捕食者と被食者の相互作用が別の被食者種に及ぼす影響や、捕食者ー被食者相互作用が別の被食者種によって及ぼされる影響については研究が不十分であることを示している。 今後予定している研究の推進方策としては、「研究実施計画」にも記載している通り、ハダニとカブリダニの相互作用がアザミウマの寄主植物選択に及ぼす影響について操作実験を行う。前年度までに得られた成果ではハダニの密度が異なることでアザミウマのパフォーマンス(発育速度)が変化することが示されたが、逆にカブリダニによる捕食の影響で現象するハダニ密度がアザミウマに正の効果を及ぼすかどうかを具体的には検証する。また、ハダニの生産する網がアザミウマのパッチ選択に影響することが先行研究によって報告されているので、ハダニの網を介した間接効果についても注目して研究を行う。一方で、ハダニの捕食回避行動に周囲にいるアザミウマおよび、アザミウマ+カブリダニが及ぼす影響についても、アザミウマが生産する警報フェロモンの役割に注目して実験を行う予定である。 また、次年度に予定しているオランダ・アムステルダム大学のMaurice Sabelis教授を訪問しての国際情報交流では、これまでの結果や今後の方策について議論をし、さらに研究目的の達成を推進するよう役立てる。なお、初年度研究費のうち約24万円が繰り越すこととなったが、これは東日本大震災に伴う計画停電および節電の必要に伴い、当初予定していた人工気象器2台のうち1台を省電力タイプ(湿度機能なし)にしたためである。これによって繰り越された研究費も活用し、特にアムステルダム大学訪問後の研究の修正・改善によって必要となる実験を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では研究費の大半が初年度に使用されている。特に割合が高かったのは、植物育成および実験を遂行するために用いる人工気象器一式(2台)、および顕微鏡一式であり、これらは研究をスタートさせる上で必要不可欠であった。しかし、これらの購入によって次年度以降は高額な実験設備を購入する予定はない。 次年度使用する研究費のうち比較的割合の高いのは、海外渡航費である。「研究実施計画」にも記載している通り、オランダ・アムステルダム大学のMaurice Sabelis教授を訪問し、これまでに得られた結果および今後の展開について活発な議論をすることである。また、実験を行う上で必要な植物種子、植物育成用品や実験器具などの消耗品、およびデータ解析のための統計ソフトなども必要に応じて購入する予定である。また、研究成果の公表のために、学術誌への論文投稿にともなって英文校閲の費用としても支出する予定である。年度末には日本大学で開催される第57回日本応用動物昆虫学会大会において口頭発表を行う旅費としても支出する予定である。
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