2012 Fiscal Year Research-status Report
生物間の間接相互作用網を創出する「捕食-被食関係」に関する行動生態学的研究
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23570018
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
長 泰行 千葉大学, 園芸学研究科, 助教 (90595571)
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Keywords | 捕食ー被食関係 / 捕食回避行動 / 誘導反応 / 雑食性 / ギルド内捕食 / 揮発性物質 / 国際情報交流 / オランダ |
Research Abstract |
ナミハダニ(以下ハダニ)の食害は、植物にミカンキイロアザミウマ(以下アザミウマ)に対する抵抗性を誘導し、アザミウマによるハダニ卵の捕食が増加、両種の捕食者でミヤコカブリダニ(以下カブリダニ)にとっても卵捕食の危険が高まる。そのような状況で、カブリダニは2種が存在するパッチよりもハダニパッチを好むことが、昨年度までに明らかとなった。本年度、オランダ・アムステルダム大のSabelis教授を訪問し、この結果について議論をした。その結果行った追加実験により、カブリダニが2種の存在するパッチを避ける手がかりとして、ハダニが放出する警報フェロモンの関与は小さく、捕食されたハダニ卵の痕跡が重要であることが示された。また、アザミウマによる卵捕食の影響を検討するため、捕食量の小さい1齢幼虫を用いた結果、カブリダニの忌避はなかった。これらの結果は、原因と結果からみると、ハダニが植物を食害するとカブリダニが避けるという一見「風が吹けば桶屋がもうかる」のような現象に、被食者同士の直接的・間接的な相互作用が関与していることが明らかとなった。 今年度は、異なる実験系を用いエンドウヒゲナガアブラムシ(以下アブラムシ)による捕食回避行動(落下)を調べた。本研究ではアブラムシコロニー周囲に存在する捕食者他個体が及ぼす影響について調べた。その結果、(1)テントウ幼虫に遭遇したアブラムシは、周囲にテントウ成虫がいる場合に落下を減少すること、(2)この反応はテントウ成虫に由来する揮発性物質、アブラムシが捕食される際に放出される警報フェロモンの関与する可能性、(3)遭遇している捕食リスクと周囲のリスクを比較している可能性が示された。これは、研究代表者が注目してきた、「捕食ー被食関係」が生物間の間接相互作用網の中で維持される、という現象がハダニーカブリダニ以外の系でも起こる一般性を持つことを示す重要な成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた通り2012年6月21日から7月3日に行った、オランダ・アムステルダム大学のMaurice Sabelis教授との研究打ち合わせ(これまでのデータに関するディスカッション)で得られた助言を元に追加実験を行い、これまでに得られた研究をさらに発展させることが出来た。 昨年度まで材料として扱ってきたハダニ-カブリダニを中心とした実験系に加え、アブラムシ-テントウムシの実験系を新たに確立し、少なくとも2つの捕食者-被食者相互作用系において、「捕食-被食関係」が生物群集のなかで維持される可能性を示した点は、生物現象および科学的研究の一般性を検証する上で重要な意義がある。 上記のような理由から、おおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
アブラムシ-テントウムシの捕食者-被食者相互作用系として特に注目し、これまで行ってきた研究を継続して行う予定である。 具体的な計画としては、エンドウヒゲナガアブラムシと同一寄主植物上で観察されることがある、ソラマメヒゲナガアブラムシ、マメアブラムシに対する捕食がエンドウヒゲナガアブラムシの捕食回避行動にどのように影響を及ぼすのかについて実験を行う。また、今年度はアブラムシの落下行動にのみ注目して実験をおこなったが、落下後の分散行動および、落下を減少させることによって実際にコロニーでアブラムシが減少するのかどうか、といったことについても注目し、自然界で複数存在する捕食リスクに対するアブラムシの柔軟な捕食回避行動の適応的意義の解明を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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