2012 Fiscal Year Research-status Report
社会性昆虫における利他的階級の社会行動を統御する脳機能の進化・生理・分子機構
Project/Area Number |
23570019
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
柴尾 晴信 東京大学, 総合文化研究科, 学術研究員 (90401207)
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Keywords | ハクウンボクハナフシアブ ラムシ / 社会性アブラムシ / 兵隊階級 / 齢分業 / 社会システム |
Research Abstract |
社会性アブラムシは、繁殖に専念する生殖階級と利他的な社会行動を行なう兵隊階級の2つの階級から構成される社会性昆虫である。兵隊は若いうちは掃除を行ない、年を取ると攻撃に専念するという齢分業を示す。本研究は、社会性アブラムシをモデル系として、社会性昆虫類のコロニーにおける協調と制御の仕組みを包括的に解明し、社会性獲得の進化過程を明らかにすることを目的とする。 本年度は、前年度に引き続いて、兵隊の日齢と経験に基づく分業の可塑性に着目した実験とサンプリングを行なった。まず、兵隊の掃除から攻撃への仕事転換は加齢に伴う触角の受容能の変化によって起こることを触角電図法で確認できた。兵隊が触角で受容できる巣内外の環境シグナルは、排泄物や天敵の存在に由来するリノール酸、(E)-β-ファルネセン、(E)-2-ヘキセナールであった。次に、兵隊の仕事転換のタイミングは巣内外の環境条件に応じて可塑的に変化することを行動観察から確認した。野外ゴールに対して、老齢の外勤兵隊を人工的に取り除いたり、ゴール全体を袋で覆うことで天敵の侵入や兵隊の外勤化を阻止したり、排泄物のゴール外への排出を継続的に妨害することにより、通常とは異なる経験をもつ若い外勤兵隊や老齢の内勤兵隊を誘導することに成功した。兵隊の経験による行動変化は触角の受容能とは無関係であったことから、兵隊の齢分業は兵隊の仕事刺激に対する末梢の触角の受容能が加齢とともに変化する「生理的プログラム」によるものであり、彼らの社会的な経験は中枢器官である脳内の行動反応閾値を変化させることで齢分業に可塑性をもたらすものと考えられた。 上記知見に基づいて、遺伝子発現解析用のサンプルとして、(1)通常の老齢の外勤兵隊、(2)人工的に誘導した若い外勤兵隊、(3)通常の若い内勤兵隊、(4)人工的に誘導した老齢の内勤兵隊、といった4タイプの兵隊を準備することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、前年度に引き続き、兵隊の日齢と経験に基づく分業の可塑性を確認し、遺伝子発現解析のための新たなサンプルを用意できた。また、化学シグナルに対する兵隊アブラムシの末梢の感覚機能の変化に関するクリアな結果を得ることができたことが大きかった。野外のゴールを人為的に操作することで、(1)通常の老齢の外勤兵隊、(2)人工的に誘導した若い外勤兵隊、(3)通常の若い内勤兵隊、(4)人工的に誘導した老齢の内勤兵隊、といった4タイプの兵隊を誘導するテクニックを行動解析や神経生理的解析に応用することに成功したことで、今後の遺伝子発現解析に向けて大きく前進することができると期待されるため。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、兵隊の日齢と経験に基づく分業の可塑性をふまえたうえで、(1)化学シグナルに対する末梢の感覚機能の変化、(2)社会行動を統御する中枢の脳内機構、(3)脳機能の分子機構の3つのステップの解析を総合的におこなうことで、集団から個体、行動から脳・神経系、さらには分子レベルに至るまで、包括的に理解することをめざすつもりである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は、前年度に引き続き、野外コロニーを用いてさまざまな日齢と経験の兵隊を人工的に誘導する実験を試みたたために旅費の支出が多くなった。来年度は本格的な神経生理・化学生態・分子生物学的実験をおこなうため、材料のサンプリングに関わる旅費に加えて実験に関わる物品費の割合が高くなる予定である。
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