2013 Fiscal Year Research-status Report
社会性昆虫における利他的階級の社会行動を統御する脳機能の進化・生理・分子機構
Project/Area Number |
23570019
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
柴尾 晴信 東京大学, 総合文化研究科, 特任研究員 (90401207)
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Keywords | ハクウンボクハナフシアブラムシ / 社会性アブラムシ / 兵隊階級 / 齢分業 / 社会システム / 記憶・学習 / 行動可塑性 |
Research Abstract |
社会性アブラムシは、繁殖に専念する生殖階級と利他的な社会行動を行なう兵隊階級の2つの階級から構成される社会性昆虫である。兵隊は若いうちは掃除を行ない、年を取ると攻撃に専念するという齢分業を示す。本研究は、社会性アブラムシをモデル系として、社会性昆虫類のコロニーにおける協調と制御の仕組みを包括的に解明し、社会性獲得の進化過程を明らかにすることを目的とする。本年度は、人工飼育下において、実験コロニーに対して若齢や老齢の兵隊を取り除いたり、天敵侵入時に放出される警報フェロモンなどの匂い刺激を継続的に与えたり、天敵の侵入や排泄物の排出を継続的に妨害したりすることで、通常とは異なる経験をもつ兵隊を誘導することに成功した。すなわち、若くても攻撃行動を行なう若齢の外勤兵隊や年を取ってもずっと掃除を続ける老齢の内勤兵隊を実験室内で人工的に誘導することができた。通常は兵隊の加齢に伴う触角の受容能の変化によって掃除から攻撃への行動転換が起こるが、この結果は、兵隊の日齢とは別に社会的な経験や学習によっても行動が変化しうることを示している。現在、兵隊の記憶・学習を介した社会行動の可塑性にNO-cGMP-PKGカスケードが関与しているかを確かめるために、このカスケードの阻害剤であり経口投与が可能なKT-5823やL-NMAE、ODQなどを人工飼料に添加し、行動薬理学的なバイオアッセイ系の確立を試みている。また、兵隊の日齢と経験に基づく分業の可塑性に着目して、遺伝子発現解析用のサンプルとして、(1)通常の老齢の外勤兵隊、(2)人工的に誘導した若い外勤兵隊、(3)通常の若い内勤兵隊、(4)人工的に誘導した老齢の内勤兵隊、の4タイプの兵隊を集めている。兵隊の社会的な経験や学習は、中枢器官である脳内の行動反応閾値を変化させることで齢分業に可塑性をもたらすと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、兵隊の日齢と経験に基づく分業の可塑性について実験室において人工コロニーを用いて確認した。人工コロニーを操作することで、野外ゴールの操作と同様に、(1)通常の老齢の外勤兵隊、(2)人工的に誘導した若い外勤兵隊、(3)通常の若い内勤兵隊、(4)人工的に誘導した老齢の内勤兵隊、の4タイプの兵隊を誘導するテクニックを確立できたことが大きい。ただし、予備的な遺伝子発現解析の結果と薬理的操作実験の結果に矛盾が生じており、更なる実験検証が必要である。しかしながら、今後の遺伝子発現解析に向けて、前年度に引き続いて兵隊のサンプリングを行なうことができ、さらに今年度は行動薬理的解析のためのバイオアッセイ系を確立できるところまで到達していることから、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでの遺伝子発現解析の結果と薬理的操作実験の結果の間に生じた矛盾を解消するための更なる実験検証を行なう。すなわち、兵隊の脳内生体アミン濃度やNO、cGMP産生などを神経薬理学的に操作する実験を行ない、兵隊の環境受容機構や中枢における意思決定機構、学習・記憶の関与について検証する。さらに、兵隊の日齢と経験に基づく分業の可塑性のメカニズムについて、(1)化学シグナルに対する末梢の感覚機能の変化、(2)社会行動を統御する中枢の脳内機構、(3)脳機能の分子機構の3つのステップの解析を総合的に行なうことで、集団から個体、行動から脳・神経系、さらには分子レベルに至るまで、包括的に理解することをめざすつもりである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度に、社会性アブラムシの社会行動の可塑性における神経ホルモンの系およびNO-cGMP-PKGカスケードの関与について遺伝子発現解析を基に学会発表を行う予定であったが、cGMPの経口投与による薬理実験の結果と下流遺伝子の発現量解析の結果が矛盾したため、当初の計画を変更し、兵隊の脳内生体アミン濃度やNO、cGMP産生などを神経薬理学的に操作する実験・解析を行うこととしたため、未使用額が生じた。 兵隊の脳内生体アミン濃度やNO、cGMP産生などを神経薬理学的に操作する実験をおこない、兵隊の環境受容機構や中枢における意思決定機構、学習・記憶の関与についての検証および学会での発表を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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Research Products
(2 results)