2011 Fiscal Year Research-status Report
雌の多回交尾の進化は生活史進化の理論(r/K戦略)から説明できる
Project/Area Number |
23570029
|
Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
安井 行雄 香川大学, 農学部, 准教授 (30325328)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 国際情報交流 |
Research Abstract |
一般に雄は多くの雌と交尾するほど多くの子供を残せるが、雌は複数の雄と交尾しても子を増やすことはできない。しかし多くの動物で雌は複数の雄と交尾する。この「雌の多回交尾」の進化は行動生態学・進化生態学の重要な研究課題である。本研究は限界の見えてきた従来の性淘汰理論による説明ではなく、産卵スケジュールや成虫寿命といった生活史形質の進化に伴う副産物として雌の多回交尾の進化を捉え、アズキゾウムシ雌の交尾回数の変異が、長期人工飼育環境下での意図せぬ淘汰によって副次的に生じたという仮説を検証する。平成23年度は野外由来の多回交尾系統と長期累代飼育を経た1回交尾系統を交雑して作った基礎個体群を作成し、数世代ランダム交配・累代飼育を行うことで遺伝子座間の連鎖不平衡を解消することから開始した。この過程は半年ほど必要なので、その間、基礎個体群作成の元となった各累代飼育系統の性的形質(雌の交尾回数、雄の交尾能力)や生活史形質(寿命、産卵数、産卵スケジュール、産下卵の孵化率、孵化幼虫の羽化率)などを測定し比較のための基準データを得た。その後、給餌計画と産卵時期による人為淘汰実験(非給餌・初期卵選抜と給餌・後期卵選抜)を開始し、系統・選抜区によって異なるが現在5~7世代ほどの淘汰が実施されている。雌の再交尾率データは得られているが、まだ初期段階であり、また生活史形質からの遺伝相関を介した間接的な淘汰であるため、進化的応答は現れていない。一方直接的に選択のかかる生活史形質には予期した傾向が現れ始めている。今後も淘汰と形質測定を継続して仮説の検証を進めたい。雌の交尾回数がr/K選択説によって説明できることを実験的に示すことができれば、その意義は大きいと思われる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
もともと人為淘汰実験はアズキゾウムシのような世代の短い昆虫を利用するとしても、長い時間と多くの労力を要するものである。また実際に飼育を行うと予期せぬトラブルが生じて計画通りには行かず、実験の遂行が遅れがちになることもよくある。それらを考慮しても本研究の進捗状況は非常に順調だといえる。その理由としてすでに数年前から予備的な研究を行っており、材料の扱いに周知していること、研究室内の体制の整備ができていることなどがあげられるだろう。
|
Strategy for Future Research Activity |
予定よりも少し早く人為淘汰実験を開始することができたので、その累積した効果を毎世代の比較、および基準累代飼育系統との比較によって検討する。本研究の目的は、雌の生涯交尾頻度という性的形質を、寿命や産卵数、産卵スケジュールといった生活史形質との相関で捉えようとするものなので、交尾頻度を測るのと同じ個体においてこのような生活史形質もできるかぎり詳細に記録する。また体サイズ(闘争能力と関係すると思われる)や後翅サイズ(飛翔能力と関係すると思われる)といった形態形質も測定し、交尾頻度や生活史形質との相関関係も検討する。またデータの解析や予測のためにコンピュータシミュレーションや数理モデルを用いた理論的研究も発展させたい。研究成果や途中経過を2012年8月にスウェーデン・ルンド市で開催される第14回国際行動生態学会議(International Behavioral Ecology Congress)で発表する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
コンピュータシミュレーションや数理モデルを用いた理論的研究のためにハイエンドパーソナルコンピュータを導入する。顕微鏡画像解析装置や行動解析装置も導入を検討する。国際会議参加のための海外旅費を支出する。
|
Research Products
(2 results)