2011 Fiscal Year Research-status Report
円網性クモにおける色彩変異維持メカニズムと変異間の採餌生態の違い
Project/Area Number |
23570037
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
中田 兼介 京都女子大学, 現代社会学部, 准教授 (80331031)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
繁宮 悠介 長崎総合科学大学, 環境・建築学部, 講師 (00399213)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 動物生態学 / 行動生態学 / 種内多型 / 色彩変異 / クモ / 円網 |
Research Abstract |
ギンメッキゴミグモ(Cyclosa argenteoalba)個体群の平均黒色率は、調査を行なった東京および京都の個体群のいずれでも春から夏にかけて増加し、秋にかけて減少するという季節変化を示した。また、24年度に予定していた体色と造網場所選択の関係を前倒しで調査し、夏季には黒色個体の造網場所が日陰に制約されることを明らかにした。個体の黒色率と、腹部幅を腹部長で割った個体の肥満度指数との関係を東京個体群を用いて調べたところ、6月および11月は正の相関が見られ、9月には負の相関が見られた。これは、本種において黒色率と適応度の関係が季節によって逆転していることを示唆する証拠で、個体群の平均黒色率の季節変化のパターンがこのような季節変化によって生じているという仮説と整合的である。6月、11月に見られる黒色率と適応度の正の相関は、黒色個体の網の餌誘因効率の高さから生じていると考えられる。一方、個体の黒色率と網の形態との関係を調べたところ、捕獲域面積との間に負の相関が見られた。このことは、餌誘因効率の高い黒色個体が必ずしも獲得餌量が多いわけではないことを示唆する。また本種の造網行動には可塑性が見られることがわかった。さて、上記仮説が成立するためには、個体の体色が遺伝形質でなければならない。このことを調べるために、クモを実験室下で産卵させ、飼育する技術の開発を行なった。クモの室内での産卵、孵化、1回の脱皮までは、安定的に進むようになったが、その後の幼体に与える適切な餌を見つけることができず、成体まで飼育することには失敗した。一方、亜成体を採集し、室内で脱皮させてその前後の体色を比較することにより、亜成体時の体色と成体時の体色には違いがないことが明らかになった。このため、飼育は亜成体まで行なえばよいと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ギンメッキゴミグモの個体間に見られる体色変異について、その時間的変異の概要を明らかにした。また、研究代表者の中田が所属機関を移動したことに伴い、東京と京都という二個所で調査を行なった。その結果、当初の予定を越えて、地理的変異についても情報を得ることができた。この点、おおむね予定通りに研究が進行していると評価している。また、体色の違いによる造網場所選択への影響については、24年度調査予定だったものを前倒しで行い、夏季にのみ黒色個体に影響するコストが存在するという仮説を支持する結果を得た。これは、色彩変異維持メカニズムの特定という目的の達成と言う点で、本研究の進展に大きく貢献したものと評価できる。同時に、黒色率と適応度の関係が季節によって逆転するという発見は、当初予定していなかったものであるが、目的達成に大きく寄与するものであると位置づけられる。一方、網形態の中では捕獲域面積のみが黒色率と相関しており、総糸長、横糸間隔、上下非対称性といった餌捕獲に直接係わる他の網形態パラメーターと黒色率の相関は見られなかった。この成果は、体色変異が採餌成功を通じて適応度にどのように影響するかの解明に寄与していると位置づけられる。また、本種の飼育技術の確立に関しては、残念ながら予定通りに研究を進捗させることができなかったが、上記の進展と合わせて考えると、全体としてはおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度、進捗に遅れの見られた飼育技術の確立について、飼育個体の採集頻度を増やすことによって達成することを計画している。そのため、研究分担者の繁宮の研究室がある長崎市周辺のギンメッキゴミグモ個体群を利用する。本研究の主目的の一つである、体色変異と採餌成功の関係の解明について、本年度の結果で予想と異なっていたのは、黒色率と総糸長、横糸間隔、上下非対称性といった餌捕獲に直接係わる他の網形態パラメーターとの相関があまり見られなかったことである。このことから、本種の造網行動に関して未知の要因が存在している可能性が考えられる。今後は、本種の造網行動の精緻な調査を行なうことでこの課題にアプローチすることを計画している。本研究のもう一つの目的である色彩変異維持メカニズムの解明については、季節の違いによって色彩タイプ間の有利不利が変化すると言う仮説を支持する証拠が順調に集まってきている。しかし、本年の結果は適応度の指標として、肥満度を用いている。これは産卵数と相関すると考えられるが、このことを示す証拠が必要である。また、適応度のもう一つの構成要素である、被捕食率についてはまだ何の調査も行なっていない。黒色率と隠れ帯長との相関からは、色彩タイプ間で被捕食率に違いがある可能性が示唆される。これは当初の研究目的には含まれていなかったが、体色を視覚シグナルであるとするならば、その対象として捕食者を考えることは必要である。このこと及び上記仮説を補強するために、捕食者との関係も視野に入れて調査内容を拡張したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度も個体群内の体色分布の季節変動の調査を引き続き行なう。当初の予定では、二週間に一度ほどの間隔で調査するつもりであったが、23年度と同様に、24年度も月に一度の間隔で調査を行なうことにする。調査対象個体群は、データの継続性の観点から東京個体群を用いる(京都個体群は東京個体群と比べて密度が小さく、本年計画している捕食者の影響の調査には不向きである)。このために京都から東京までの旅費を使用することを計画している。また、8/12-17にスウェーデンのルンド大学で開催される第14回国際行動生態学会議the 14th International Behavioral Ecology Congressに参加し、本種の造網行動に関する研究発表を行なう予定である。このための旅費を使用することを計画している。飼育技術の開発について、23年度は卵から孵った個体を個別に飼育していたが、この方法では十分な造網空間を確保してやることができず、このことが幼体の飼育の失敗に繋がった可能性がある。このため、本年は同一卵塊から孵った幼体はまとめて大きめの空間で飼育することでこの問題を回避することを計画している。このための飼育容器を購入するために物品費を使用することを計画している。また、得られた成果のうち一部を論文にまとめて、国際誌で発表することを計画している。そのための英文校閲費として、謝金の使用を計画している。
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Research Products
(3 results)