2012 Fiscal Year Research-status Report
円網性クモにおける色彩変異維持メカニズムと変異間の採餌生態の違い
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23570037
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
中田 兼介 京都女子大学, 現代社会学部, 准教授 (80331031)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
繁宮 悠介 長崎総合科学大学, 環境・建築学部, 講師 (00399213)
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Keywords | 動物生態学 / 行動生態学 / 種内多型 / 色彩変異 / クモ / 円網 |
Research Abstract |
ギンメッキゴミグモの飼育技術について、ショウジョウバエでも餌として大きすぎる幼体に対する餌供給方法が課題であったが、飼育環境を半自然環境下に置きライトトラップで集めた小型餌を飼育容器内に導入する事で解決した。その結果、既知の体色を持った親から採集した卵から得られた個体を成体まで育て上げることに成功した。現在はサンプル数がまだ十分でないが、飼育の成功によって、体色が遺伝形質かどうか、また遺伝率を推定する見通しが立ったと言え、重要な進展があったと考えられる。これまで容易では無かった円網性クモの飼育技術はクモを利用した様々な研究に役立つと考えられる。 一方、自然環境下における体色変異間にかかる選択圧の違いを、産卵数、栄養状態、被捕食率、の三つの指標を基に推定し比較を行ったところ、黒色率が高いほど産卵数は小さかった。また、頭胸幅を体重に回帰した残差で推定した栄養状態は、黒色率と上に凸の曲線関係にあり、中程度の黒色率で栄養状態が良いという結果だった。被捕食率については、3360個体・時間の観察を行って捕食観察数はわずか二例であり、体色変異間での被捕食率の違いの推定には至らなかったが、もし違いがあったとしてもそれは極めてわずかであり、他の要因と比べて影響は小さいものと推定される。 また、本年度も昨年度に引き続き、個体群内の体色分布の季節変動の調査を行ったところ、昨年度と同様、春から夏にかけて黒色個体の比率が高まり、秋にかけて減少すると言うパターンが見られた。このパターンは毎年繰り返されているようであり、体色変異維持メカニズムを説明する仮説は同時に季節変動のパターンも説明する必要があると考えられる。 また、本種の造網場所選択の調査を行い、またこれと関連して、クモの空間学習能について実験を行いその存在を示す証拠を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、昨年度未達成だった円網性クモの飼育技術の確立において、重要な進展が見られた。現在、サンプル数はまだ十分には得られていないが、安定してクモを飼育することができるようになったと評価している。初年度に飼育技術が確立できない可能性については、当初から想定されており、二年目である本年度に確立を見たことは、順調に研究が進展していることを示している。これにより、当初の研究目的として掲げた5項目のうち、3項目は既に達成しており、また遺伝様式の推定もほぼ次年度で達成できる見通しが付き、半分程度は達成したと考えられる。すなわち、3年計画の2年終了時で、5項目中の3.5項目の達成度と言える。 また、色彩変異間の造網場所選択の違いと関連して、クモの空間学習能についての実験的証拠を得た、これは当初予定しなかった知見であり、計画以上の進展が得られている面であると評価できるだろう。 一方、体色変異間の生態的特徴からその選択圧の違いを解明する野外調査の結果は、順調に蓄積されていると考えられるが、産卵数と黒色率との関係のように、他の要因と一貫しない結果も得られている。そのため、色彩変異の維持メカニズムの確かな説明にはまだ至っていない。しかしながら、現在が三年計画の二年目であることを考えると、達成が遅れているとまでは言えないだろう。また、本年度は産卵数のサンプル数が十分とは言えなかった。3年目で更なる調査を行うことで、この点は解決されるだろうと期待している。 以上を総合すると、おおむね順調に進展していると評価できるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度確立した飼育技術を用いて、本種の体色変異が遺伝形質である事を確認し、遺伝率を推定する。また、春に得られた卵を低温で保持し夏に孵化させるなどの方法で季節の違いが体色にどのような影響を与えるかも検討する。ただし、同時に飼育できるクラッチ数に上限があるため、遺伝率推定のためのサンプルが十分得られない場合は、この検討は行わない。 また、体色変異間にかかる選択圧の違いをより詳細に調査する。具体的には、体色変異間の産卵数の違いを、一年間追跡し、季節変動があるかどうかを明らかにする。また、体色変異間で造網場所選択に違いがあることが明らかになりつつあるが、その違いを実現する意思決定メカニズムについて、更に詳細な調査を行う。また、体色変異間の造網行動の違いを明らかにするための基礎的データの収集も引き続き行う。特に、網の形状は捕食効率に関係し、造網スピードは被捕食率と関係すると考えられるため、これらを重点的に調査する。また、造網行動については、ギンメッキゴミグモのみならず体色変異の見られないクモの知見も重要と考えられるため、調査対象を拡大して研究を推進したいと考えている。 当初の研究目的として掲げた項目のうち、黒色個体が餌を多く捕獲するメカニズムについて、黒色が隠蔽色として働き餌の網回避行動を妨げている可能性と、人間には目立たない黒色個体が餌には目立って見える可能性の二つの妥当性を検証する。 これらに基づき、ギンメッキゴミグモの体色変異維持メカニズムと個体群内における黒色個体比率の季節変動パターンを同時に説明できる統一仮説の構築を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度の東京でのクモ個体群の生態調査のうち、一部は学会参加とスケジュールを合わせる形で実施した。このため、交通費の支出が効率化されるなどした。また、小容器でのクモの飼育が困難であることが判明したため、恒温機を用いて温度条件を変えて飼育を行うことを取りやめた。これらのことから、予定よりも研究費の使用額が少なく次年度使用額が発生した。 25年度は、6/23-28に台湾で開催される国際クモ学会議19th International Congress of Arachnologyに参加し、本種の色彩変異間の餌捕獲数の違いに関する研究発表を行なう予定である。このため海外旅費を使用することを計画している。また、25年度も東京での調査を回数を減らして行うことを計画している。このため旅費を使用する。東京調査は回数を減らす一方で、卵のサンプルは現地から送付してもらうことで入手することを計画している。このために謝金の利用を計画している。また、クモの飼育を効率良く行うため、飼育容器を増設することを計画している。またデータの解析と論文作成のためのコンピューターを購入する。また餌昆虫の行動実験を行うための装置を製作する必要がある。これらのために、物品費を使用することを計画している。飼育容器の製作と管理補助のため謝金の利用を計画している。 得られた成果は国内学会で発表する。このため旅費を使用する。また、成果は論文にまとめて、国際誌で発表することも計画している。そのための研究打ち合わせ旅費と英文校閲費の使用を計画している。
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Research Products
(4 results)